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偉大な先輩達のハイブリッド

1月の加入から8カ月。本人もようやく肩の荷が下りたといったところでしょう。昨季最終節のニューカッスル戦からプレシーズンを通し好調を維持していた南野選手が、ついに待望の公式戦初ゴールを決めました。

ただでさえ難しい冬の移籍。それもCLを制し世界一のリーグも独走する確立されたチームへの加入。得意なポジションには脂の乗った最強3トップ。世界中探しても替えはいないと言われるフィルミーノの代役としての大きな期待。チームメートも時間が掛かり、メッシやロナウドでさえ苦しむであろうクロップサッカーへの適応。早期の結果を求めるファン。そして3カ月のコロナ中断で失われたピッチでのコミュニケーション。改めて並べてみるだけでも、南野選手に立ちふさがったハードルがいかに高かったかが分かります。

加入以降一貫して南野選手への信頼を口にしてきたクロップ。アーセナル戦後、南野選手をスーパープロフェッショナルとたたえたその表情は、淡々とした口ぶりながら誇らしげにも映りました。ファン・ダイクが話した通り、今のリヴァプールにいるのはザルツブルクとの対戦で対峙した時の自信に満ちた南野選手。単なるサブではなく、個性のあるプラスアルファをもたらせる選手としてチームに受け入れられ始めています。

両足を自然に使え、狭いスペースで前を向ける。速いトランジションを続けられる(これに関しては90分できるかはまだ未知数ですが)。どれかはできても、全てできる選手は今のリヴァプールにもいません。デビュー戦となったFA杯エヴァートン戦で利き足ではない左足で持ち上がったシーンや、同チェルシー戦でエリア内でリュディガーをターンでかわそうとした場面、前述のニューカッスル戦でのターンからのミドル。ところどころ見せていたらしさが頻繁に見られるようになっています。そして決して日本人の中でも体格に恵まれているわけでもなく、久保選手のような特異な背景や超人的とも言える技術までは持っていない南野選手が、正確な両足のタッチとターン、守備時の献身性で世界のトップで存在感を示している意味は、いわば「日本人的な日本人選手」が頂点を目指していく上で今後とてつもなく大きな意味を持つでしょう。

これまでプレミアに挑戦してきた日本人選手の中で、プレーに類似性があったのは香川選手。リーグ優勝もハットトリックも達成ましたが、ドルトムント時代と比べるともっとやれたはずと思われている方は今も多いでしょう。予想外の監督交代があったとはいえ、不完全燃焼に終わったのはなぜか。それは南野選手のような狭い位置でのターンや積極的な仕掛けを、本来できたであろうにもかかわらずしていなかったからです。

これにはもちろんファン・ペルシー加入という想定外の展開も絡んでいました。当初予想されたトップ下ではなく、クロップが「涙が出る」と嘆いた左での起用が多く、彼自身スピードやドリブルで単独で剥がすより周りを使いながら崩す方を選択していました。ドイツで見せていた積極的な仕掛けが消えたのは、当時筋肉を付けて体が強く、そして同時に重くなったのを思い出してもプレミアで闘う上でのフィジカル面での不安があったからでしょう。

ルーニーを中盤に下げて香川選手を前線で使う選択も当時のユナイテッドにはなく、サイドでボールを捌きながらテンポを上げずにパスで崩すプレーに自然に移ってしまった。ライバルのユナイテッドの試合を彼が見たいがためだけに見る機会が多かった当時、相手との接触をいとわないプレーが見られてワクワクしたのは(記憶が正しければ)デビュー戦のエヴァートン戦とCLラウンド16・1stレグ、敵地でのレアル戦のみ。あの当時見たかったプレーを今、負けん気の強いセレッソの後輩がリヴァプールで見せてくれているように感じます。

もう1人、プレミアに挑んだ日本人で類似点があるのは岡崎選手。レスター時代、リーグ内でも傑出した前線からのチェイシングでレスターの優勝に大きく貢献しました。当時はクロップリヴァプールのゲーゲンプレスに加わってくれたらかなり面白いと勝手に思っていましたが、彼ほどの強度はないにしても南野選手も十分なチェイシングを見せてくれています。エリア内外での瞬時のターンから前に運ぶ点では南野選手に分があり、岡崎選手のような泥くさい得点が増えてくればさらに出場機会は増えるでしょう。

いずれにしても、今のリヴァプールのスタイルや持ち駒といった点から考えても、クロップにとって南野選手は他の選手にないものを持っている非常に使いやすい選手になってきています。いわば2人の先輩のいいとこ取りのような南野選手。プレミア制覇という先輩の偉業を僅か半年の在籍で成し遂げてしまいましたが、心から喜べるものでなかったのは周知の事実。ようやく足慣らしが終わりここからが本番です。リーグ制覇に数字をもって貢献し、今度は堂々胸を張ってプレミアトロフィーを掲げてくれる姿に期待したいと思います。

(実現可能性は置いておき、日本人の特性的にも将来クロップに日本代表を率いてほしいとこれまた勝手に思ったりもしますが、それはまた別の機会に)


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