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油断大敵
拝啓
地球では夏の終わりに差し掛かり、1日の気温差が大きくなる時期ですが、体調を崩されたりしていませんでしょうか。こちらは季節が感じられない宇宙空間のため、地球の四季を少し懐かしく思っています。
さて、私が宇宙に飛び立って半年が経ちました。初めの頃は宇宙船の設備や眼下に広がる星々の煌めきに夢中になっていましたが、変わらぬ景色、繰り返されるルーティンワークが続き、少し飽きてきたところです。先生がこの場にいたら、「そんな風に油断していると、足をすくわれるぞ」と叱責されていることでしょう。そんな想像をしてしまうくらいには、人恋しくなっているのかもしれません。
ただ、あと一ヶ月もすればロジスティック星に到着する予定です。この手紙が届いている頃には、目的の説明変数も手に入っているかもしれません。地球以外の星は初めてなので緊張しますが、コーディネーターと協力して頑張りたいと思います。
それでは、時節柄くれぐれもご自愛くださいませ。また近況をご連絡いたします。
敬具
8月27日
桑藤 優香
地球には電波が届きにくい。そのため宇宙船から手紙を出す場合は、郵便船へ手紙を渡し、郵便船は地球に電波を送れる衛星を使い、手紙を電子データに変換して送信する。遥か昔にあったという電報の逆バージョンだ。地球に電波を送れる衛星や惑星が増えれば、もう少し早く手紙が届くのだろう。その辺りは宇宙後進国である地球の不便なところでもある。
手紙が届くよりも先に、部下からロジスティック星に到着したとの報告を受けた。その際に手紙を出したことも聞いたが、やはり手紙よりも宇宙船の方が先に到着したようだ。部下は手紙を出したことを恥ずかしがっているようだが、私は楽しみにしている。どうも気分が落ち込んでいた時に書いた手紙の様で、読まないでくれと言われたが、普段活発な彼女のことを思うと興味が勝ってしまった。手紙が届く事を心待ちにするとは、なかなか新鮮な気持ちである。
なぜ先生に手紙を出してしまったのだろう。しかも「人恋しい」とか恥ずかしいにも程がある。さっき先生に到着の連絡も兼ねて、読まないようにお願いしたが無理だった。普段は聞かないウキウキした声は、私が無事に到着して安心した声とはまた違っていた。昔の言葉の「黒歴史」ってこんな状況の事を言うのかもしれない。コーディネーターの方にも何だか心配されてしまったが、理由を話すことも躊躇われたので、明日からは頑張ろう。地球に帰って顔を合わせるころには風化されていることを願って。
終わり
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