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母が大きな声を出した(創作)

先日、実家に行ったときの母の様子です。
ちなみに母の要介護5の寝たきり、認知も低下しています。
私が『来ましたよ!志保です』と声をかけると
目をつぶっていたところを、笑顔で『嬉しい』と言います。
山形の雪の様子、孫の仕事ぶり、夏に実家のルーツをたずねた話をするといかにもわかっていますというようにうなずいています。
手を握ると、リズミカルに何回も握り返してくる。
ギュ、ギュ、ギュー、ギュ、ギュ、ギューと力強いのです。
握りながら、幸せ、ヨカッタなど聞き取れないほどの声で呟いています。

お昼のヘルパーさんが来て
「○○(母の名前)先生」と呼びかけると、一瞬警戒したような表情になりますが、仕事をしていた時のしっかりした表情をつくって挨拶しています。
体位交換の時も拒否なく、食事も、私が持って行った地元のフルーツゼリーを含めて平らげて、また眠りにつきます。

ところが母は父にはとても厳しいのです。入浴サービスが入った時のこと、テレビを見ていて挨拶をしない父にイラついたのか、「ホラ、ハヤク、サッサと」と大きな声をだします。
父がベッドに寄って来て、なんで大きな声をだしてとおっとり母の頭をなでたりするのですが、母の怒りは収まらず、ちょっとここでは書けないほど悪い言葉で大きな声をだします。
あら、大きな声がでるんだわと気づく私。

入浴サービスの人はにこやかにバイタル測定から脱衣と進めます。
あまり、怒りを収めようとするよりもどんどん作業を進めた方が母にとっても良いのでしょう。
お風呂に入って気持ち良い、あ~ありがとうとお礼を言ってご機嫌になりまた眠ります。

父もおっとりと良く寝ているな~とニコニコしています。
二人の気分のちぐはぐなところがまた面白いと思っている娘です。

母の厳しい性格は知っていたのに、あるころから「○○先生は優しくて…」と言われるようになり、思えば少し記銘力が低下しているところを元の賢さで取り繕いをしていたのでしょう。それがやさしいように見えたと思っています。

今また母は、もとの性格を思う存分発揮して、穏やかなときのやさしさ、気に入らないとか心配なときは大きな声をあげて拒否することも自由にできます。
帰り際に手を握ると私の手を持ったまま,行進するときのように元気よく腕を振っています。また、来るからねと声をかけると目をつぶったままニッコリ。
母の移り変わる表情と声音を聞いて、まだまだ元気と安心して実家を後にしました。



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