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育ちのよさと、汚れが目立つ色のTHE NORTH FACEのフリース、そして小学館の図鑑

 こないだ山手線で、THE NORTH FACEのフリースを着た、小学生らしき男の子を見かけた。お母さんと見られる女性のとなりに、お行儀よく座っていた。

 いわゆる「育ちのいい」子どもは、一目みるだけでそうだとわかるのだなあと知ったのはかなり最近、少なくともわたしがしっかり大人になってからのことだ。

 子どものときは、自分があるいは友達が、クラスメイトのみんなが育ちがよいかどうかなんてわからなかったし、そもそも気にしてもいなかった。

 しかし、大人になった今では、残酷にも「育ちのいい子ども」「そうでもない子ども」を一目で見分けることができる。ちなみに、「育ちのいい」はいろいろな解釈ができるが、ここでは「裕福な家に生まれ、余裕のある教育を受けてきた」ことを指すものとする。

 山手線でTHE NORTH FACEのフリースを着たお行儀のよい子どもを見かけたとき、「育ちのいい子ども」の表象としてお手本のような子どもだなと思った。

 小学生はすぐに育つ。すぐに体が大きくなる。にもかかわらず1万円程度するTHE NORCE FACEのフリースである。しかも明るいエメラルドグリーンだった。汚れがあれば目立つ色だが、彼のフリースには目立った汚れどころか、毛羽立ちもなかった。

 すぐ着られなくなるであろう子どもの服にお高めのブランドの、しかも世切れが目立つカラーのアウターを買う家庭がある、という点でわたしにはもう驚きだった。
 お察しのとおりわたしは決して育ちのいい子どもではなかった。我が家ではユニクロのフリースがぜいたく品だった。大学は早慶に進んだ。同級生が「小学生のころは、バーバリーやラルフローレンを親に着せられていた」と話していたときの衝撃といったら。まさかバーバリーを着て教室の雑巾がけをするのか?それともお金持ちが通う学校では児童は雑巾がけなどしないのか?

 わたしがそんなことを思い出している間に、男の子のお母さんらしき人が、小学館の図鑑neoをバッグから取り出して、男の子に読ませた。
 小学館の図鑑!これまた、わたしの中では育ちのいい子どもの家にあるアイテムの代表格である。
 大学の同級生と博物館に行ったとき、展示物を見た彼または彼女が「あ、これ昔図鑑で見たことあるかも」と言うことがたびたびある。いわゆる難関大に進学できるほど知的好奇心が強く、かつ育ちもいい子どもは、小学生のころにほぼ全員が小学館の図鑑を読んできているのではないかと思えるほど、「これ子どもの頃図鑑で見たわ」と当たり前のように言う。わたしの友達の間では、天体と恐竜の図鑑が人気だったようである。

 今調べると、小学館の図鑑はおおむね2,000~3,000円程度のようだ。大人となった今、3,000円台の単行本を好きなだけ買うようになったわたしとしては、高価な本というわけではない。だが、子ども用の本としては高価、少なくとも裕福ではない家庭からすれば高価なのではないかと思う。マンガの単行本は500円前後、児童向け図書、例えば青い鳥文庫であれば700円前後。我が家では「本だけは子どもにいくら買い与えやってもいい」という父の方針があったため、本だけは好きなだけ買ってもらえた。しかし、地元の友達に聞くと、「本なんてそ何回も読むものではないのだから、買うのがもったいない。図書館で借りてこい」と言う親御さんもいたようだ。

 汚れが目立つ色のTHE NORTH FACEのフリースに、小学館の図鑑。わたしの中ではいずれも育ちのいい子どもにしか与えられないアイテムであり、そのふたつを当然彼にとっての日常の一部、当たり前のものとして着こなし、扱うその小学生の男の子を見て、憧憬の念を覚えた。子ども時代のわたしには与えられなかったものだから。

 これはわたしが勝手に感じているだけだが、裕福な家庭に生まれた同級生は、裕福な家庭に生まれた人特有の雰囲気を振りまきながらも、「家お金持ちなんだね」といったような、お金の話をされることを厭う。お金の話をすること、さらにいえばお金とその人の立ち振る舞いや人格を結び付けて話すことを下品だと感じているのかも。
 難関私大の同級生には、そういった態度の同級生が多い。したがって、こういった「電車で見かけた男の子がさ~、THE NORTH FACEのフリース着て小学館の図鑑を読んでてさ~、育ちよい感が半端なかった」などという俗な話は嫌うだろう。なのでここで日記として書いて供養することとする。

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