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冬の担当色 #シロクマ文芸部

「冬の色お届けにあがりました」

そういって、環境省から今年の冬の色が届きました。地球温暖化がどんどん進み、この世界にはさまざまな出来事がこの五十年の間に起こったのです。今では世界から自然の色はなくなりました。まるで白地図のようになってしまったこの世界を、季節ごとに塗りかえるのは各国国民の義務となったのです。そうして、季節ごと、その人その人に色が届けられるようになりました。その絵の具はそうですね、言ってしまえば、まあ、油絵の具のように重ねていくことができます。ですが、より自然に近く、色はもちろんのこと、肌触りも匂いも届けられるものによって違うのです。世界の技術はそこまで進歩しました。まあ、その技術のせいでこんなことになったのですが。

エミリのところには「世界中の悲しみを吸い込んだような黒」が今年は届けられました。双子の妹のアメリのところには「世界中から希望を集めたような金」が届きました。世界中の他の仲間と夜空を塗っていくのです。

夜空を担当するのは大変光栄なことです。ですが、エミリは少し悲しくなりました。だって、悲しみを吸い込んだような黒よりも、希望を集めたような金の方が素敵ですから。いつもそうなのです。昨年だって「折り重なるつぶやきのような落ち葉色」でしたが、アメリは「誰かの元に届く幸せのような新芽の色」でした。

いつもにこにこと静かなエミリは、悲しみを表に出すことはあまりありません。それでも、なんだか少しくさくさすることだってあるんですよ。そんな日はココアを飲むことにしています。今日もココア屋にやってきました。カウンターに座った途端、注文をしなくてもココアがすーーっと目の前に届きます。熱いココアをふうふう飲んでいるとなんだか嫌なことは忘れてしまうものです。いつもは黙ったままのマスターが声をかけてきました。

冬の色は届きましたか?と。

エミリはその優しい声に堪らなくなって全て話しました。するとマスターはムフムフと聞いていて、さかさかさかっと何かを作ってエミリの目の前に差し出しました。

こちら、
世界の悲しみを集めたような黒々としたチョコレートです。パクリと一口で召し上がってください。そうしたら、世界の悲しみが減りますから。

マスターは多分知っていたのです。エミリが誰よりも優しい女の子だということを。だから、任せられたのだということも。世界の悲しみが集まったような黒で夜空を塗ることを。

だってずっと夜空は、世界中の人たちの悲しみを吸い取ってきたのですから。

🎄

小牧部長、今週もギリギリセーフ間に合いました。このまま年内を完走したいと思います!

ココアを飲みながら書きました。

エミリがいったココア屋はこちら。
みなさんもぜひ一度訪れてくださいませ。
トットさんもたまにいってます!

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