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海ジャム〜La confiture de mer #シロクマ文芸部

 海砂糖と波を煮詰めるとそれは美しい海ジャムができあがります。あなたは召し上がったことがあるでしょうか?

 それはとろりと優しい味がいたします。何せ、海はまるでお母さん。たくさんの命を抱いてゆらゆらと揺れてあやしています。寄せては返す波たちは浜辺で人間たちの喜びや悲しみ、笑い声や涙を絶えることなく拾い集め、貝殻に変えてみたり、ヒトデに変えてみたりしているのです。そうそう「ばかやろー」などという叫び声なんかは、にがり、になったりするんですよ。もうお分かりかもしれませんね。波が集めてきた誰かの涙でできるのは稀少な海塩です。そして、何より稀少なのは、愛だけで生まれてくる海砂糖なのです。

 その海砂糖と波のかけらを煮詰めて作るのが海ジャムです。それを代々作り続けている家の773代目後継として、人魚のモナミは生まれました。773代目だからナナミじゃないの?とおっしゃりたい方もいらっしゃるかもしれませんね。73代目がナナミだったんですのよ。ですから、モナミの名前はフランスのバイオリン弾きに恋して声を失くしかけたおばあさまが、フランス語の「mon amie」から名付けてくれたそうです。

 それはともかく、この海は大層広いですが、海ジャムを作ることができるのはモナミの一家だけです。伝統の職人技といったら少々大袈裟でしょうか。いわゆる老舗、作り方は後継だけしか知りません。その上、口頭伝授のみ。「海ジャムの作り方」などというレシピが渡されることもありません。海の中で火は使えないのに、どうやって煮詰めるの?と思ったそこのあなた、さすがですわ。鋭いところを突いてきますわね。そこが秘伝の技ということになりますわね。

 今日は本当に美しく晴れた1日でした。モナミは、早起きして集めた波のかけらで作った東雲色の海ジャム、そのすぐ後に集めた天青色のジャムを棚に並べました。晴れた日はとても忙しく、もうとっぷりと日が暮れていました。モナミは少しくたびれていましたが、今年は海砂糖の純度が高く、とても澄んだ色の海ジャムが次々に完成するので、幸せな気持ちになっていました。
「さあ夜の波のかけらを集めに行こう。」
と、海面まで泳いで行きました。深い青褐色の空にはたくさんの星が瞬いています。波にもその深い夜の色と星々の煌めきが映し出され、モナミが法螺貝に集めた波のかけらはそれは美しいものでした。このジャムが出来上がったら、モナミには届けたい人がいました。その人を思っていると、流れ星が次々に流れてきて、法螺貝の中に吸い込まれていきました。


 ところで、この海ジャムは誰が食べるのだろうと思っている方もいらっしゃるでしょうね。それはあなたかもしれませんわ。単刀直入にいうと、愛が必要な人のところに届きますのよ。もしあなたが、海砂糖を作る愛を波打ち際に落とした人だとしたら、あなたのところには届きません。だってあなたは落とすほどの愛を持っているのですもの。


 夜の海ジャムは、青褐色でツヤツヤとした特別な色をしていました。これはモナミが作る中でも特別に良い出来でした。モナミはこれをあの人に送ろうと思います。ヤドカリ宅急便に頼んで、今宵届けに参ります。どうぞ窓を開けておやすみくださいね。



小牧さん、今週もありがとうございます。
これを書き続けていることで、本業?の詩にも少し影響があるようです。作風が広がった気がしています。

小牧さん、ミムコさん、紫乃さんの真似をして、マインドマップを作ってみました。
こういうのって楽しいですね。またやってみたいと思います。マインドマップについては、紫乃さんのこちらをどうぞ。

私のマインドマップはこんな感じです。

やった甲斐があった!

シュガークラフトに繋げようかなとか、お手紙を瓶に入れて流してみようかなとか色々考えたのですが、人魚が作っているジャム、という発想が一番ピンときました。皆様もぜひ試してみてくださいね。

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