見出し画像

「バランス駆動」で音は変化するのか?

ポータブルオーディオが盛り上がってる昨今、専用の音楽プレーヤーやDAコンバータを買って、ちょっといいヘッドホンやイヤホンで音楽を聴いてる/興味がある人も多いと思います。

デジタルオーディオがmp3主体からflacやwav, DSDになり、リリースされる楽曲もソリッドで分離が良く、レンジの広い楽曲が増えたと思います。

TWSイヤホンの普及で3万円前後のイヤホンが一般化して、そこからじゃあもうちょっと音質にこだわって聞きたいなという人はそれなりにいると思いますが、おそらくそういう方が最近よく目にする言葉があります。

バランス駆動

ちょっとネットを覗くと、バランスが良いとかいやシングルエンドのがいいとか色んな意見を目にします。
バランス駆動てのを正直ちゃんと理解できてない人が多い印象もあります。
ここではざっくりとですがそもそもバランス駆動とはなんぞや?メリット・デメリットは?という話をしていこうと思います。


まず最初に結論から書くと、
バランス駆動/シングルエンドはどちらが上とか、どちらが良いとかそういう問題ではないです。
製品の設計上の制約や、繋ぐイヤホンやヘッドホンによってどちらがより優れてるかは変わってきます。

また先に書いておくと、たまにライン出力や機器間の接続はバランス/アンバランスケーブルどっちでやるか問題と混同してる方がいますが、バランス駆動とバランスケーブル云々は全く関係ない話です。


そもそもバランス駆動とは何なのという話ですが、2台のアンプを使用してヘッドホン/イヤホンの左右のドライバをそれぞれ駆動させるものです。
例えば前輪駆動の車で、シングルエンドが1台のエンジンで両前輪を駆動させるならば、バランス駆動は2台のエンジンで右前輪、左前輪それぞれを駆動させるようなイメージです。

誤解を恐れずメリット・デメリットをざっくり書くと

○メリット
- 出力の増大(同アンプのシングルエンドに対し出力が2倍)
- セパレーションの向上(ステレオ―モノバランスケーブルの場合)

○デメリット
- ノイズの増大
- スペースの専有(アンプ回路のサイズが純粋に2倍になる)

○どちらともいえない
- バランスケーブルの使用


めちゃざっくりな話です。
音質云々に関する話は、現代のヘッドホン/イヤホンの抵抗値傾向と出力関係になってきます。もうちょっと後で詳しく書きます。

まず出力の話です。
アンプが2台になるということは、単純に出力が2倍になります。
最もこの恩恵を受けているのがポータブルのオーディオプレーヤー(以下DAP)です。
ファイル操作からDA、出力までを非常に小さな筐体内で行うDAPは、スペースを取るアンプ回路を作り高出力を出すのが苦手です。一昔前はオペアンプにちっちゃい抵抗がついてるだけとかでした。今でもディスクリートでやってるところは少ないんじゃないでしょうか。
しかし元々小さなアンプ回路を2台乗せることで、先述の通り2倍の出力を得ることができます(もちろんサイズは少し大きくなるし、コストもかかりますが)
最近ではDA段から2系統に分け、左右で完全に独立したパターンを組むこともあります。


次にセパレーションの向上
これはバランス駆動そのものというより、副産物に近いです。
ステレオケーブルの場合、右の音が左に、左の音が少し右に漏れるクロストークという現象が発生します。
バランス駆動ではバランスケーブルを使用する場合が多いですが、グランドが分離されるのでステレオケーブルの場合このクロストークが減少し、音の分離が良くなると言われています。
個人的にはバランス駆動を行うなら、左右別のアンバランスモノラルケーブルを使用するのが一番いいと思ってるんですが、残念ながら世の中にはそんな製品は存在しません。
ライン出力はアンバラモノなのにヘッドホン出力はステレオばかりです。


続いてデメリットです。
まずはノイズの増大。
DAWを触ったことがある人ならわかると思いますが、同じ音量の音を混ぜ込むと音量レベルは上昇します。
ヘッドホン/イヤホンを左右別のアンプで駆動するということは、ノイズフロアが3db持ち上がります。つまり単純にノイズの大きさが聴覚上+1/2倍になります。
アンプのヘッドルーム自体は変わらないので、ホームオーディオ的な言い方をするとSN比が悪化します。

次にスペースの占有
先にも書いた通り、バランス駆動を行うためには全く同じアンプ回路が2つ必要になります。
スペースも2倍、コストも2倍です。
据え置きなんかで、ディスクリートででっかい回路を組んでる場合サイズも値段の上がり具合もとんでもないことになります。


バランスケーブルの使用
これは正直メリットでもデメリットでもないかなと思います。
現在バランス駆動で使用する場合、ケーブルはバランスケーブルの選択肢しかありません。たぶん。
世の中におそらくモノラルLROutのヘッドホン出力が存在しない現状、上記のセパレーションの向上というメリットはあります。
アンプ後のケーブルにバランスケーブルを使うことの是非は人によると思います。
正直音に違いがあるかと言われたら分からないです。
コネクタやケーブル品質のほうがよっぽど影響大きいです。


ざっくり書いてきましたが、個人的にはDAPや小型のポータブルアンプ等にはバランス駆動、中価格帯の据え置きや大型のハイパワーなポータブルアンプはシングルエンドがあってるんじゃないかなと思います。
特に中価格帯のアンプは、限られたコストの中でアンプを2台載せるのか、1台のアンプを作り込むのか、、電源周りもですが結構メーカー毎の考え方が出る部分でもあります。
色々な制約から、そもそも出力の確保が難しいDAPであれば、バランス駆動できるものがいいかなと思います。
元々S/N比(ダイナミックレンジとノイズフロアの高さの差)が大きくないDAPであれば、少々のノイズ増も気になりません(現代のDAPあればBTやWifi等のほうがよほど大きなノイズ源になります)


というわけで、バランス駆動はシングルエンドと比べてメリットもデメリットもあるので、自分の環境や機材の相性とあわせて選びましょうと締めたいところなんですが、実は本題はここからです。
バランス駆動にすると音が変わる。というのはあちこちで聞かれます。
聴覚上同じ音量にしても音が変わるのは一体どういう事なのか?ってことを、最近のイヤホン/ヘッドホンの傾向と共に書いていきたいと思います。

バランス駆動で音に変化はあるのか?


ヘッドホンやイヤホンを選んでいると、インピーダンスという言葉をよく聞くと思います。抵抗値です。
一般的にはインピーダンスが低い(抵抗が小さい)=音量が取りやすいといわれます。
もう一つ能率というカタログ値があって、この2つで一般的にはヘッドホン/イヤホンの駆動しやすさが表されるのですが、実はこのインピーダンスというのがちょっと曲者です。
最近では多くの製品が、スマホ等出力の小さい機器でも音量がとりやすいよう、インピーダンスの低い傾向にあります。
基本的に音楽の世界では、送り側の機器と受け側の機器のインピーダンスを合わせる、インピーダンスマッチングというのを行いますが、私の知る限りアンプ側の出力インピーダンスを変化させられるのはAMARI以外ありません。
ヘッドホンアンプの出力インピーダンスは、限られたソースで可能な限り出力を得るため、限界まで下げようという傾向にあります。
アンプとイヤホン/ヘッドホン繋ぐと電流が流れますが、出力インピーダンスと接続先の機器のインピーダンスの合算が少なければ少ないほど、同じ電圧でより多くの電流が流れます。
ですが固定電源から供給できる電流には限りがありますし、バッテリー機器の場合一瞬でバッテリーが空になってしまうので、基本的に使える電流の量には限りがあります。
そうするとつまり、繋ぐ先のヘッドホン/イヤホン抵抗値が極端に低くなればなるほど、アンプの出力は落ち込んでいくことになります。
こういうアンプの出力変化は測定してる人がいたりするので、調べると結構出てきます。
つまりインピーダンス値が低いから鳴らしやすい というのは概ね正解ですが、正確には正解とは言えません。
ヘッドホン側のインピーダンスだけ見て音量が取りやすいか否かというのは一概に言い切れない部分があるということですね。
とはいえボリュームを上げていけばもちろん音量は上がっていきます。音量は取れてても、ドライバを適正に駆動できてるとは言えないというところが味噌です。

つまりバランス駆動にすると音が良くなった というのは、同アンプのシングルエンドでは出力が足りていなかった可能性があります。音量は取れてるけどドライバを適切に駆動できていない状態です。
これが500Ωや800Ωのハイインピーダンスヘッドホンであれば、出力が足りていない=そもそも音量が上がってこないなので、一聴してすぐわかります。
ですが20Ω以下とかの超低インピーダンスヘッドホン、イヤホンでは、音量だけはなんとか稼げる場合があるので、しっかり駆動している状態の音を知らなければ判断がつきにくい場合があります。
また、近年多い低インピーダンス低能率ヘッドホンは、ただでさえアンプの出力が落ち込みがちな部分で高出力を求められるので、非常にアンプに厳しいと分かります。
多ドライバのイヤホンなどは、このドライバは駆動できてるけど別のドライバはもうちょっと、、みたいな場合もあって、アンプを変えたりシングルエンド/バランス駆動を切り替えたりすると、音の鳴り方が大きく変わる場合もあります。
アンプのインピーダンス変化による出力特性も、製品によって大きく変わります。
micro iDSDのようなアッテネーターがついてるアンプであれば、あえて出力抵抗を上げてアンプのおいしい部分を使うということもできます。
アンプを買う際には、手持ちのイヤホンやヘッドホンの特性を考えるのも、いいかなと思います。

可変出力インピーダンスのヘッドホンアンプが出てくれるといいのですが、家庭用オーディオメーカーはハイエンドであっても、インピーダンスマッチングに言及しているところは残念ながらみたことありません。
なのでアンプとヘッドホン/イヤホンにはある程度相性がある、というのが現状です。

長々と話をしてきましたが、バランス/シングルエンド駆動にはどちらにも、メリットもデメリットもあるよという話でした。
無尽蔵にコストを掛けたハイエンドは別として、限られたコストや制限内で作らなければならないエントリー〜ミドルクラスは結構メーカーごとの特色というか、開発者の意図みたいなものが見えてくるモデルも多くておもしろいです。
今日の話が買い物の際に少しでも、予算内でより自分に合った機材選びの手助けになれば幸いです。

結論としては、好きなものを買え。です。
身も蓋もないですが、趣味ですので

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?