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劇場でこそ体感できる、『メリー・ポピンズ』の魔法

『メリー・ポピンズ』といえば一度聞いたら耳から離れない名曲の数々とウィットに溢れた台詞。それに加えて、豪華なセットと衣裳、驚きの転換と、全てがハッピーの魔法にかかったような作品だ。キャストたちは一体、劇場で何を思うのか。メリー役の濱田めぐみと笹本玲奈、バート役の大貫勇輔と小野田龍之介が、劇場入りしてからの心境を語る。

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■スペシャルなセットと照明が背中を押してくれる

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――劇場入りした今の気持ちをお聞かせください。
濱田 稽古場はシンプルなスタジオで、稽古着を着て稽古をしていましたが、劇場に入るとセットがあり、グーッと『メリー・ポピンズ』の世界に入った感じがします。劇場でのリハーサル時間がしっかりとられているのはありがたい限り。みっちり場当たりをしています。
笹本 照明が当たる場所や立ち位置など、覚えることが増えましたね。Wキャストなので舞台稽古を客席から見られるわけですが、セットがとっても可愛いし、メリーの衣裳がすごく素敵。この世界観に自分が入るんだ!と思うと、ワクワクが止まりません。
小野田 僕は初演ではバンクス家の使用人ロバートソン・アイを演じていました。4年ぶりにセットの中に戻ってきたら、ついこの間までここにいたんじゃないかというくらい、懐かしさでいっぱいになり、愛着を感じましたね。この作品はセットも照明もスペシャルですから、その中でお芝居をすると、後ろからポンと押してもらえるんです。そのスペシャルな空気に負けないように、逆に上手く乗っかりながら、一段とエンジョイしたいです。
大貫 ほんと、客席から見ていると照明もセットも素晴らしいですね。特に〈最高のホリデイJolly Holiday〉で華やかになる瞬間はパーッと胸が温かくなります。〈ステップインタイムStep In Time〉で昇っていくところも、あれ?こんなに高かったっけ?と思ったり。稽古も楽しかったけれど、舞台に上がるとより作品が完成していく感があり、胸が高鳴ります。


■帰り道、ああ楽しかった!と幸福感に浸る喜び

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――劇場だから感じられる『メリー・ポピンズ』の魅力を教えてください。濱田 普段、客席から舞台を見ると、物理的には枠の中で行われていることじゃないですか。それが、『メリー・ポピンズ』だとすごく立体的。客席の方にまで溢れ出してくるのがすごいなって、今回強く思っています。〈Jolly Holiday〉も〈Step In Time〉も立体的なところに音や色が効果的に作用して、視覚的にも聴覚的にも強く鮮やかに印象が入ってくる。生の舞台で人間が動いていると心に直接響きますし、メッセージが身体に入ってくるのが最高です。
笹本 本当にいいお話なんですよ。どのシーンを見ても、自然と笑顔になり涙が出てしまう。個人的にはバンクス家の家族のやりとりが胸に刺さっていて。最終的にメリーが彼らを温かい家族へと導くわけですが、どこかで自分自身と重ねたり、子供への接し方を改めて考えたり、いろんな気づきがあります。あと、ダンスナンバーが盛りだくさんで、素直にああ楽しかった!と劇場を後にできる。本当に幸せな気持ちになれる、貴重な作品ですね。
小野田 出演している人間がこんなことを言うのはすごく恥ずかしいんですけど、客席から稽古を見ていると無条件に感動してしまうんですよね。華やかにショーアップされたシーンがあるからこそ、途中途中にある家族の物語や人間の価値観のドラマが心に寄り添ってくる。ショーシーンとお芝居との対比があるから、ドラマの部分が心に浸透するのだと、バート役になって気づきました。若い方、高齢の方、男性、女性を問わず、どなたにも感動していただけるのは、その力強さゆえでしょう。
大貫 稽古場ではピアノ伴奏で練習していましたが、昨日、オケ合わせをして。すると、この音はホルンなんだ!ここはフルートか!銀行のシーンでは、こんなに面白い音楽が鳴ってた?と、音の驚きがたくさんありました。これは生オーケストラの醍醐味。初演から引き続いて出演し、やっと音楽にも耳を向けられるようになって、本当に素晴らしい楽曲ばかりだと改めて思いました。
メリーが飛んでいくシーンも、舞台袖から見るのと客席から見るのとでは、感じ方が全然違うんですよ。約3時間のストーリーのラストにメリーが飛んでいく姿を見ると、カンパニーが積み重ねてきた時間をメリーが天に昇華させていく気がして。これはライブの醍醐味だなと、胸が温かくなります。

■メリーとバートは空中にいる方が楽!?

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――メリーのお二人、空を飛ぶ感覚はいかがですか。笹本さんは『ピーターパン』で飛ぶことはお得意でしょうが。
濱田 毎回楽しみです。上にいる方が楽なんですよ。重力って結構な身体の負担になっているのねって思います。飛び終わって降りる時、また二本足で歩くのか……と(笑)。飛んでいるって何て楽なの?って。
笹本 わかります!私もそう。早く“I’m Flying”したいなっていつも思っています(笑)。
――バートも煙突掃除屋として、よく高いところにいますよね。
大貫 確かに高いところにいると、魔法がかかる(笑)。超人みたいになれるところがあって、地上の方が断然きついです。
小野田 僕も空中の方が楽。この前の出演作(『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』)から、僕はずっと吊られてまして(笑)。メリーとバートではやることが違いますが、浮いているのは楽です。
――メリーは魔法の人で、バートは人間だけどいつも高いところから世界を俯瞰し、普通の人とは違う感じもしますね。実際、こうしてお話を聞いていると、皆さん、『メリー・ポピンズ』の世界にハマっていらっしゃって、もう人間界に帰ってこないんじゃないかと心配になります(笑)
濱田 ちょっとありますよね(笑)。
小野田 独特な世界観があるんです。ワクワクするシーンが満載。演じるにはもちろん大変なことも多いのですが、この世界はやみつきになります。僕は普段、黒い服が多いんですけど、メリーの稽古が始まったら、まっ黄色のセットアップで稽古場に行っちゃったりして(笑)。


■作品の持つエネルギーに誰もが癒される

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――それは魔法がかかっていますね。他の皆さんも?
大貫 僕も前作(『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』)が荒れ果てた世紀末の話だったので、眉間の皺を取るのに1カ月半くらいかかりました(笑)。やっと日常の幸せを噛み締められる状態になったところです。『メリー・ポピンズ』は本当にハッピーな作品なので、通し稽古でいくら疲れても、また早く舞台に立ちたい!って思える。僕は年末に比べて、日常生活でも笑顔が増えました(笑)。
濱田 私もこの前は『オリバー!』のナンシーというやさぐれた役で、玲奈ちゃんは前作が『近松心中物語』で和物。みんなバラバラな世界から来て、当初はとんでもない感じでした(笑)。
小野田 笹本さんは笑顔がある役が珍しいのでは?
笹本 生き残ること自体が珍しいです。『近松心中物語』では心中しましたし。和物なので、ずっと身体の重心を下げることを意識していました。今回の稽古では体を引き上げ、吊られた背の高い状態でいるように言われていて、それを戻すことが大変でした。
濱田 そういえば私、稽古初めの頃は、大貫くんと小野田くんに秘孔を狙われないように気をつけていましたよ(笑)。
大貫 確かにバート同士、よく秘孔を突き合っていましたね。
小野田 今でも会うと時折、突き合ってます(笑)。
濱田 〈Step In Time〉の稽古でもやってたでしょ?
大貫 疲れてくると、思わず出ちゃう(笑)。
濱田 でもだんだん馴染んで、みんなメリーとバートになってきましたね。駒田一さんや山路和弘さんも『メリー・ポピンズ』の世界はすごくワクワクして楽しいとおっしゃっていて。作品の持つエネルギーでカンパニー全員が癒され、その世界の住人になれる。お客さんにもぜひこの感覚、劇場でご体験いただきたいです。

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(C) Disney / CML


【プロフィール】
メリー・ポピンズ役 濱田めぐみ(はまだ めぐみ)
福岡県出身。1995年劇団四季オーディションに合格。3カ月後『美女と野獣』のヒロイン・ベル役に大抜擢される。その後、『ライオンキング』、『アイーダ』、『ウィキッド』と初演3作品でヒロインを演じ、その後も多くの作品に出演。名実共に看板女優として15年間活躍。退団後、2012年『ボニー&クライド』で女優復帰。近年の主な出演作に、『オリバー!』 、『レ・ミゼラブル』 、『アリージャンス~忠誠~』、『サンセット大通り』、『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』、『ラブ・ネバー・ダイ』など。第40回菊田一夫演劇賞、第66回芸術選奨演劇部門文部科学大臣賞、第24回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。9月より『COLOR』に出演予定。

メリー・ポピンズ役 笹本玲奈(ささもと れな)
千葉県出身。1998年5代目ピーターパンとして『ピーターパン』で主演デビュー。その後『レ・ミゼラブル』 、『ミス・サイゴン』などに出演し、『ミー&マイガール』、『マリー・アントワネット』にて第32回菊田一夫演劇賞、『ウーマン・イン・ホワイト』にて第15回読売演劇大賞優秀女優賞および杉村春子賞を受賞。近年の主な出演作に、舞台:『近松心中物語 』、『メリリー・ウィー・ロール・アロング』、『マリー・アントワネット』 、『ハ ウ・トゥー・サクシード』 、『星の大地に降る涙 THE MUSICAL』、『WEST SIDE STORY Season1』、『ジキル&ハイド』、『ラブ・ネバー・ダイ』、TV:「華麗なる一族」(WOWOW)、「ノーサイド・ゲーム」(TBS)など。

バート役 大貫勇輔(おおぬき ゆうすけ)
神奈川県出身。7歳よりダンスを始め、17歳よりプロダンサーとして数々の作品に出演。2011年、『ロミオ&ジュリエット』の“死のダンサー役”でミュージカルデビュー。昨年は、大ヒット漫画をミュージカル化した話題作『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』で主人公ケンシロウ役を務め、今秋には中国公演も控えている。近年の主な出演作に、舞台:『王家の紋章』、『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』、TV:「ルパンの娘」(CX)、「グランメゾン東京」(TBS)、映画:「KAPPEI」、「ルパンの娘」、声優:「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」(主演)などがある。現在、ファースト写真集「le mec」(講談社)も発売中!

バート役 小野田龍之介(おのだ りゅうのすけ)
神奈川県出身。幼少の頃よりミュージカルを中心に活躍。2011年シルヴェスター・リーヴァイ特別賞を受賞。2020年にはミュージカルデビュー20周年記念コンサートを開催。近年の主な出演作に、『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』、『レ・ミゼラブル』、『マリー・アントワネット』、『WEST SIDE STORY Season1』、『ラブ・ネバー・ダイ』、『パレード』、『ミス・サイゴン』、『三銃士』、劇団四季『ウェストサイド物語』、『アリス・イン・ワンダーランド』、『ドラキュラ』他多数。『 メ リ ー ・ ポ ピ ン ズ 』で は 前 回 の ロ バ ー ト ソ ン ・ ア イ に 引き続きバート役での出演となる。7月より『ミス・サイゴン』(クリス役)に出演予定。

【作品情報】

【東京公演】
本公演:2022/3/31(木)~5/8(日)
東急シアターオーブ
【大阪公演】
2022/5/20(金)~6/6(月)
梅田芸術劇場メインホール

写真/玉村敬太
取材・文/三浦真紀

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