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漫才師が世間に面白いって認められるのは、「M-1」の決勝に行ってから―― 初単独が即完の注目コンビ「パンプキンポテトフライ」に迫るロングインタビュー!

芸歴10年を前にして初めて開催した単独ライブ「ぶた」が即完売となり、今年の賞レースでもその活躍が期待されるコンビ「パンプキンポテトフライ」。高校の同級生である谷と山名によって結成。ホリプロのお笑い養成所「目黒笑売塾(現:ホリプロ笑売塾)」を卒業後、事務所との契約を勝ち取ったものの、その後の数年は、ただただ月一度のライブをこなすのみだったという彼ら。どこで現在に至る“本気”のギアが入ったのか? 賞レースに賭ける熱い思い、だが「賞レースで勝つ用のものは作らない」というネタへの強いこだわりについて聞いたロングインタビュー。

■即完だった単独「ぶた」を振り返る

――先日、初の単独ライブを終えられましたが、達成感みたいなものはありましたか?

山名:そうですね……どう?
谷: ……すごいなぁ、無責任さん。どう? って(笑)。
山名:ふふふ。俺から言っていいですか?
谷:言えるものならどうぞ。
山名:最初は不安が大きかったんですよ。9本もネタを一気にやることはないので。でも、終わったら本当に楽しかったということに尽きますね。
谷:確かに楽しかったです。単独自体が初めてで、自分らにどれくらいお客さんが来てくれるかもわかってなかったんで。それこそ50人しか入らないのか、ギリギリ売り切れるのか、即完するのか。で、即完したと。……うすうす気づいてたんですけど、めちゃくちゃ人気あるんやなって思いました。

――(笑)。アクリルスタンドもかなり売れたそうで。

谷:これは言っておきたいんですけど、アクリルスタンドって、アイドルやアーティストの方々が出すものじゃないですか。僕らがそれだけ物販で売ってたら「何考えてんねん、売れるか!」ってボケになって終わり、のつもりだったんですよ。でも周りの大人の方々が「それだけだと赤になる」と。なのでステッカーやポスターも置いたらスタンドがちょっと埋もれちゃって、ボケにもならなくなった。あれは冗談です!
山名:ブロマイドは?
谷:ほんまやわ。何なん、俺らのブロマイドて(笑)。
山名:あれは前日にマネージャーが売りましょうと。
谷:買っていただけたんで、ありがたいですけどね。

■ここ1、2年でガラッと変わったコンビの関係性

――昨年の「ABCお笑いグランプリ」で決勝に進出、先日の「ツギクル芸人グランプリ」でも決勝進出など賞レースでも実績を残しつつあり、お仕事も増えてきたと思います。この一年くらいの状況を振り返ってみて、何か変わった部分はありますか?

谷:一番変わってきたのは、コンビの関係性ですね。元々、高校の同級生なので、ネタを書いている僕がネタに関してのイニシアティブは握りながらも、立場は五分五分だったんです。結成してから7~8年、そんな感じだったんですけど、ここ1、2年で、圧倒的に山名が何もしてないことに気づいて(苦笑)。これで五分のフリするのもしょうもないと思ったので、僕が上から行くようになりました。もうこいつは雑魚だと言い切る。

――コンビとしての立ち位置を明確にしたと。

谷:別に裏では仲良いですけどね。舞台での見せ方として、「コイツは何もできない、俺はもう全部やっているからすごいでしょう」と。そうすると、周りが「山名も頑張っているよ」とフォローしたりするから、それを「どこがやねん!」と突っ込む関係性にしたことで、僕らがどういうコンビかすぐにわかってもらえるようになりましたね。
山名:それは本当にそうです。

――山名さん的にはそれで良いんですか?

山名:いやー、うん。まぁ、悔しいですけどね(笑)! 

――それこそ、結成当初は山名さんがネタを書いていたとか。

山名:そうでしたね。本当に組んだ直後くらいの時期だけでしたけど。元々は僕がお笑い好きで、谷はそこまでって感じだったので。
谷 全然、詳しくはなかったですね。

■手本がいなかった7年間

――おふたりは兵庫出身ですけど、吉本や松竹ではなく、上京してホリプロの養成所に入学しています。

谷:高校を卒業したあと、ふたりとも一人暮らしをはじめつつ「NSC入って、お笑いやろっか」って言ってたんですけど、うにゃうにゃしてて何もせず。じゃあ東京でお笑いやろうとなって、せっかく東京行くんやったら吉本さんじゃない事務所に行こうと。そのときに僕らが知っていたのが、ホリプロとナベプロさんくらいで。
山名:あとは人力舎さんかな。でも、養成所の学費が他よりもちょっと高くて。
谷:それと文字の響きですよね。カタカナが良かった(笑)。友達に話すときに「ホリプロに入った」と言えるのが良いなという。ちょうど同じ時期、地元の知り合いがナベプロに入ると言い出したので、じゃあ僕らはホリプロでと。

――きつねさんがほぼ同時期にホリプロの養成所に入られていますね。

山名:そうですね。大阪で長くやっているので芸歴的にはめちゃくちゃ先輩なんですけど、事務所ではちょっと後輩になるという。

――そのままホリプロコム所属になられたわけですが、苦労した時期もあったと思います。どうやって売れていくか、話し合われたことはありましたか?

谷:それこそ去年、8年目にしてやっと「ABC」の決勝に出て。ただ、7年目くらいまで、僕ら月一本しかライブに出てなかったんですよ。事務所ライブと、多くてもう一本くらい。とにかく頑張ってなかった(笑)。
山名:(笑)。
谷:だから、悔しい思いをしたことがないんですよ。芸人の知り合いもいないし、「M-1に出てなくても売れるんちゃうか」とか、その辺ふたりともゆるくて。それが2、3年前くらいから「ライブ出ないとヤバいよ」と、周りから言われはじめたんです。それから他事務所の人とかとも知り合いになって、自分らのランクや知名度のなさを痛感して。それを知ることすら遅すぎましたね。ほんまに6~7年、何もやってなかったのと一緒。ライブに積極的に出るわけでもなく、かといって辞めるわけでもない。たまにネタを作っていただけで。はよライブに出とけば良かったですよ。

――そこまでライブに出なかったのには理由があるのでしょうか?

谷:周りの先輩にしても後輩にしても、ライブにいっぱい出ているような人たちがほぼ皆無だったんです。事務所の中で誰を手本にすれば良いのかわからず。
山名:もちろん売れていらっしゃる先輩もたくさんいるんですけど、そこと僕らの間の存在がほとんどいなくて。
谷:ほぼ、雑魚いやつしかね。
山名:雑魚って言うな! 濁せよ(笑)。

――(笑)。ようやくここ1、2年でエンジンがかかったと。そう考えると、「ABC」で決勝に行けたのはターニングポイントにもなったのではないでしょうか。

谷:決勝進出が決まったときなんて、誰も僕らのこと知らなかったんとちゃう?
山名:そうやな。
谷:芸人がちょこっと知っているくらいで。そういう意味では「ABC」が大きかったかもしれないですね。

■ふたりがやるネタとして無理がなくなってきている

――今年の目標についてはいかがですか?

谷:「M-1グランプリ」が一番ですね。YouTubeやいろんな番組に呼んでもらえるようになりましたが、漫才師が世間に面白いって認められるのは、「M-1」の決勝に行ってからなんですよ。それこそ、モグライダーさんとか、周りの芸人はみんな昔から面白いって言ってましたけど、それが証明されたのはやっぱりM-1じゃないですか。
山名:面白いやつがそこで確定するというか。

――ネタとしては「伏線回収をするようなネタはしたくない」とおっしゃられていて、ワンフレーズごとの言葉の強度にこだわっているのかなと思うのですが、いかがですか。

山名:そこはこだわっていると思いますね。
谷:矛盾するんですけど、「M-1」は一番大事とは言っていますが、M-1で勝つ用のネタは一度も書いたことがないんです。単純にやりたいネタをやっていて。作家さんや先輩にも「あのネタ面白いけど、●●の部分は減点されるよ」とか言われても、まったく内容は変えないですね。それでなんとかなったら良いし、それでだめなら仕方ない。丁寧に振って落として、伏線回収もして拍手笑い2回、みたいなネタは他の方にお任せしてますね。

――パンプキンポテトフライとしてやりたいネタを見せていくと。山名さんは、漫才の見せ方で意識している部分はありますか?

谷:あぁー、それ聞きたい。お前って何考えてやってるの?
山名:(笑)。僕は一旦、谷に言われたことは全部やります。ある程度それで出来上がってきたら、個人的にやりたいこともちょっとは挟もうとしますね。そこで「全然違う」って言われたら元に戻して、みたいなトライ&エラーの繰り返しはやろうと思っています。

――そのあたりのネタ合わせはスムーズになってきているのでしょうか?

谷:ネタ合わせの回数自体は、良いか悪いかわからないですけど減ってきてますね。というのも、僕がやりたいネタと、山名がやって面白いボケがあるとして、昔は自分のやりたいネタを優先していたところがあるんです。でも今は、山名に合うボケというか、山名のキャラにそぐわない暗いボケとかを減らしていったら、けっこうイメージ通りのネタになる確率が高くて。だから、ネタに無理はなくなって来ているのかな。
山名:おお~。なるほどね!
谷:だから、お前ができるようになってきたな~とか思っていたとしたら、それは全然ちゃうで。
山名:ああ、なるほど……。
谷:お前がやりやすいようにやってるから。
山名:それは気づきですね……(苦笑)!
谷:そのストレスがすごいねん(笑)。単独に向けて一ヶ月かけずに漫才の新ネタ7本仕込みましたけど、山名は圧倒的に飲み込みが悪いんで。説明の多いネタは無理やから、読んですぐわかるもの。なるだけ山名がスムーズに覚えるようなものにしました。

■自分を説明できる人が強い世界

――これまで芸人で活動してこられて、こういう人がお笑い業界に向いているな、というのはありますか?

谷:自分はこういう人です、というのがしっかりある人ですね。性格が明るくても暗くてもどっちでも良くて、「僕は暗いです」と、自分を説明できる人。そういう人は、みんなに興味を持たれるんですよ。自分を偽って明るくしていても初速はあるし、すぐにライブに呼ばれるかもしれないですけど、続かない。そこはブレない方が最終的には向いていると思います。僕も最初は明るい方が良いと思っていたんですけどね。今は思わなくなりました。
山名:意思と意見がある人ですよね。最初はどうあれ、今売れていらっしゃる人は元からそういうものがある。
谷:それこそきつねさんとかそうですよ。
山名:むちゃくちゃ変ですけどね。きつねさんと僕らともう一組でライブをやったとき、お客さんが5人くらいしかこなくて。僕らは気にせず7年ほどそのときの感じでやってましたけど(笑)、きつねさんは4年目くらいに「このままじゃあかん」となって、「きつねコンコンブラザーズ」をやりはじめて。後輩ですけど、ほぼ同じ環境の中から売れていく過程を見せてもらいました。そこには売れたいという意思がちゃんとあったからだと思います。僕らも漫才師なので、「M-1」とか「ABC」とか、賞レースで結果を残したいと思っています!

【リーズンルッカeye’s】パンプキンポテトフライを深く知るためのQ&A!

Q.最近の趣味は?

[山名のアンサー]
山名「最近、新しくはじめようとエレキバイオリンを買ったんですけど、まだ数回しか音を鳴らしてないですね(笑)。じつは小学生のときにバイオリンを3年間習っていて。でも当時は「やらされている」感覚があって辞めたんですけど、今やったら楽しいかもと思って、マンションでも音が鳴らせるエレキを。これから趣味にできたら良いなと思っていますね」
「……趣味じゃなく仕事にせぇや」

[谷のアンサー]
「ギャンブルはずっと息抜きでやってますね。あと、趣味とは言えないかもですが、これまでまったくしてこなかった先輩付き合いを。コロナが落ち着いた今はまったく誘いを断らないようにしていて、いろいろ行ってます。先輩に好かれたいとかじゃなくて、エピソードになるようなことが多いので。あと、先輩と接することで緊張に慣れたいというのもありますね。最近は、オズワルドの伊藤さんがよく誘ってくれます。まぁ、少なくともエレキのバイオリンよりは意味があるはずです」
山名「僕も基本、先輩からの誘いは断らないようにしてるんですけど、誘われないです!」

<編集後記>

昨年の「ABCお笑いグランプリ2021」でも、そのネタだけでなく出番前後のコメントでも異彩を放っていたふたり。谷さんの山名さんに対する硬軟交えたイジりは絶妙で、その根底にある仲の良さを現場でも感じました。2022年は、もしかしたらパンプキンポテトフライがお笑い業界に旋風を巻き起こすかも、と思っています。

<マネージャー談>

コンビでぶつかることもありますが、お互いの性格を理解していて、結果的に良い方向にいくのは、高校からの同級生という強み。
芸人として自分たちの意見をしっかり持っているのも唯一無二になっていけるのではないかと思っています。
ネタに関しては、ハイトーンの漫才は、見れば見るだけクセになり、何度も見たくなるはず!
また、漫才のツカミをたくさん持っているので、「今日は何かな?」と楽しみに見て欲しいです。
急に収録前に坊主にして来て、現場でどこにいるか分からなかったりもしますが、それもパンプキンポテトフライの可愛げだと思っています。
宣材写真が長髪のままなので、急いで撮り直しをしなければです。

<プロフィール>
パンプキンポテトフライ 高校の同級生である谷拓哉(ツッコミ担当、ネタ作成者)と山名大貴(ボケ担当)により、2013年に結成。谷は口ひげがトレードマーク。山名はロングヘアーの時期が長かったが、最近短髪に。2021年の「M-1グランプリ」で準々決勝進出。同年の「ABCお笑いグランプリ」で決勝進出し、話題に。2022年も「ツギクル芸人グランプリ」で決勝進出を果たした。

パンプキンポテトフライの宇宙人いらっしゃいチャンネル

谷 拓哉(たに たくや)1992年1月7日生まれ 兵庫県出身
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山名 大貴(やまな だいき)1991年8月20日生まれ 兵庫県出身
立ち位置は向かって右。
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取材・文/森樹
写真/向後真孝


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