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掘り起こされた記憶|三岸節子展

先月から参加しているnoteのメンバーシップ「オトナの美術研究会」の月イチお題記事執筆企画今月のお題思い出の展覧会」で、先日サビニャック展について書きましたが、調子に乗って番外編をひとつ。

思わぬところで再会するというのは記憶に残るものです。そして私にはこれが度々起こります(犬も歩けば的なことかもしれないけど)。たまたま訪れたサビニャック展がパリから地元にやってきたのは前回お話しした通り。

その他にもフランス語の先生に街中で何度かばったり会ったり(学校から離れた別の街の店先などで)、その学校の校長先生にはなぜかパリの空港の搭乗手続きでやはり何回か遭遇。いつだったか、上野の噴水の手前で待ち合わせしていたところへ、しばらく会っていなかった兄がたまたま向こうから歩いてきた時にはあまりの偶然に笑ってしまいました。

今日はそんなちょっとした再会の話。

1989 日本橋三越本店

1989年、日本橋三越本店の三岸節子展に行きました。

なんで行くことにしたのか、実はさっぱり覚えていません。三岸節子という画家。恥ずかしながらそれまで知らなかったのに。チケットをもらったのか、案内をもらったのか。それとも誰かに誘われたのか、すすめられたのか。

ぼんやりと会場や入り口の光景は覚えているのですが、その他のことは思い出せません。
ただ、強烈な印象を受けたこと以外は。

ほとんどが風景画だったような覚えがあります。
スペイン、アンダルシアの風景。
けれども記憶に残っているのは描かれている対象よりも
大胆で力強い色。特に赤。深く燃えるような、心に残る赤。対比。
デフォルメされた独特の画面構成。なんてかっこいい絵なんだろう。

風景画ばかりでこんなにインパクトのある展覧会は初めてでした。(そんなに展覧会に行ってたわけじゃないけど)
それまでろくに知らなかったくせに、迷わず図録を買いました。

図録もかっこいい

2022 偶然の再会

昨年、5年ほど前に一度お会いしただけのフラワーアーティストの方から突然連絡があり、仕事をすることになりました。
独立・起業されたばかりのカタログ制作依頼。撮影も頼みたいとのこと。

「スタジオは決めてあるんです。」

そうおっしゃって、見せてくれたリーフレットがこちら。

三岸アトリエ・アトリエM リーフレット

三岸アトリエ……? ん? 

そう、三岸節子画伯のアトリエだったのです。

当アトリエは画家 三岸好太郎・節子夫妻のアトリエとして昭和9年(1934年)に建築されたものです
好太郎が向かいの藁ぶき屋根の農家を気に入り、土地を農家から買い、デザインを描き、ドイツのバウハウスへ留学した友人の山脇巌に設計を依頼し建築しました
好太郎は竣工を待たずして胃潰瘍で亡くなりましたが節子がアトリエを完成させその後住宅兼アトリエとして使用していました
三岸アトリエ公式HPより

制作が決まった後は早速ロケハンへ。

こちらは映画やドラマ、CMなどの撮影にも使われているとのことで、確かにどこもかしこもフォトジェニック。特に吹き抜けの螺旋階段は絵になります。

螺旋階段

作品こそ置いていないのですが、あちこちにイーゼルや画材などがあって雰囲気抜群。家具も凝っていますし、窓枠などもヨーロッパの趣。ドアなど、アクセントとなる色も微妙なトーンで味わいがあります。あちこち修理が必要な箇所もありますが、それがまた何とも言えないんです。

懐かしい感じのする画材も
こういうディテール。ぐるぐる好きの私にはたまりません
絵になるソファ

場所は中野区。最寄りは西武新宿線鷺宮駅。以前住んでいた地域にも程近いので、このあたりは行動範囲内だったはずなんですが、全く知りませんでした。住宅地の中にあって入口すら見つけにくい、隠れ家的な存在です。

赤く塗られたドアが印象的な旧玄関につながるこの通路も、中に入らないとわからない。

吹き抜けのメインフロアは周りの込み入った区画からは想像できないような解放感で、まさに創作意欲をかき立てられるような空間。天井まで大きく取られた窓からのたっぷりの光が、時間と共に表情を変えていきます。ここであの力強い絵を描いていたんですね。

きれいに晴れた撮影日。色鮮やかなアレンジメントが、建物のあちこちでしっくりと収まります。モニターを見せてもらうと、まるで絵画のようにも見えました。

2階、撮影前のセッティング。
撮影終了後。撮影機材なども溶け込んで様になります。

この投稿のために図録を引っ張り出して見てみたら、あれれ、なんだかシンクロしているような…… 記憶では風景画の印象が強かったのですが、花の絵もたくさん描いていたんですね。

完成したカタログ。後ろにあるのが図録。

フラワーアーティストであるクライアントの鬼頭さん、実は三岸節子をご存じなかったよう。たまたまスタジオを見つけたとおっしゃっていたのですが、なにか共通のものを感じ取ったのかもしれないですね。

そういえばプロフィールの取材で聞いたところによると、ガウディに憧れてスペイン・バルセロナに行き、そのまましばらくヨーロッパを放浪していたんだそうで。
アーティストは南を目指す…のかな。

30年以上前の強烈な記憶が、奇妙な偶然で今と繋がった仕事でした。

花永美術カタログより
フラワーアレンジメント:鬼頭量一(花永美術)
撮影:佐藤朗(フェリカスピコ)
企画・アートディレクション&レイアウト:レスカルゴデザイン 

国の登録有形文化財でもある三岸アトリエ。なにしろ90年近く前の竣工なので保存には苦労されているようですが、こういう価値ある建築物はなんとか残してほしいものです。修復についての記録もサイト上で公開しています(結構リアル)。
見学や、カフェなども予約限定で営業しているようなので、ご興味ある方はHPでチェックしてみてください。

今回制作した花永美術様のカタログについてブログに書いています。こちらは制作寄りの内容になっています。良かったらご覧ください。

*この記事は花永美術様の許可を得て投稿しています。

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