駄作なのか?8人Yesの「結晶」Unionを今更感想文

音楽界においてYesといえば、プログレ界隈の四天王に数えられるで、オリジナルメンバーや全盛期はもうほとんど居ないものの、半世紀以上活動をしている大御所です。日本では「Roundabout」と「Owner Of A Lonely Heart」が有名でしょうか。

音楽性としては前回紹介したRushと似ているのですが、こちらはコーラスを始めとしたかなりポップスのような印象に反して、歌詞はもはや宗教的(有名なRoundaboutは英国の人も歌詞の内容は分からないらしい)、かなりの大作主義(特にTales From Topographic Oceansは一曲平均20分で計4曲という構成)、日本公演が比較的多い(前回取り上げたRushは一回のみ、こちらはARWも含めて10回ほど)などの違いが見受けられます。

製作背景

さて今回のアルバムは全盛期(1972年のClose To The Edgeと1983年の90125の頃)を過ぎて、1991年に発表された作品なのですが、このUnionは製作までの背景だけで記事が2本ぐらい作れそうな内容の濃さです。

まず最初に1988年に「Big Generator」のライブツアーが終わると、メンバーの中核の一人であるジョン・アンダーソン(ヴォーカル)が件の「Big Generator」が今までのYesの幻想的や抽象的な概念がかなり薄れた作品に仕上がったことに対して失望して脱退、かつての全盛期(Close To The Edgeの時期)のメンバーであるスティーヴ・ハウ(ギター)、リック・ウェイクマン(キーボード)、ビル・ブルーフォード(ドラム)とともにAnderson Bruford Wakeman Howeを結成、1989年に同名のアルバムを発表します。

このアルバムは70年代の幻想的、抽象的な歌詞と音楽に再帰したアルバムで、ライブツアーも大ヒットするのですが、その後メンバーとの関係が悪化してしまい、次作のアルバム「Dialogue」の制作が頓挫します。この時にジョナサン・エリアスがプロデューサーに起用されますが、起用直後は全く持って素材が制作されていないという状態でした。メンバーの関係は思ったよりも深刻なもので、ハウのソロアルバムに用意していたリフなどからアンダーソンのアイデアを膨らませて制作する他ない状況でした。

それでも曲として作品を生み出すことはできず、サポートメンバーを招集して作品を完成させる他なかったのです。結局このアルバムのハウとウェイクマンのパートはセッションミュージシャンに差し替えられているらしい(ハウのパートは分かりやすい)ので、このアルバムのクレジットは結構えげつないことになっています。

一方で本家である90125Yes(クリス・スクワイア、トレヴァー・ラビン、アラン・ホワイト、トニー・ケイ)はジョンの脱退という大きな痛手はあったものの、曲作りとしては順調そのものでデモテープの段階でクオリティはかなり高い楽曲が多いのが特徴です。

今回のUnionはそれら二つの毛色の違う楽曲をまとめたアルバムであるので、はっきり言って音楽性はバラバラなアルバムです。

画像1

UnionのカバーアートはYesでおなじみのロジャー・ディーンです。やはり彼の幻想的なカバーアートはそれだけでも価値があります。ヒプノシスのカバーアートも嫌いではないのですが…

それでは楽曲紹介です。

1. I Would Have Waited Forever

Writer: Jon Anderson, Steve Howe, Jonathan Elias

個人的にはABWH側の楽曲の中でかなり好きです。ギターリフはおそらく前述のソロアルバムの素材ではあると思いますが、何よりコーラスにクリス・スクワイアが居るのが何よりYesの感じがあって安心感があります。願わくばライブで演奏してほしかった楽曲でもありますが、コーラスワークがメンバー的に厳しかったかなと思います。

2. Shock To The System

Writer: Anderson, Howe, Elias

一瞬90125側の楽曲かと聞き間違うようなギターリフですが、実はABWH側の楽曲であります。まあこれはほとんどのギターリフはセッションプレイヤーが演奏しているからです。これに関してはABWHの楽曲の中で唯一セットリストから外されずにUnionツアー中ずっと演奏されていたので、一度ライブ盤を聞いてみると結構ギターリフがアルバム盤と違うことが分かると思います。またライブではラビンがコーラスを担当したり、ロックな感じなギターソロをプレイしたりしています。なお私はこの楽曲はUnionの中で一番好きです。

3. Masquerade

Write: Howe

まさかのハウのソロ。Mood For A Dayと音色は似ているかなって印象。でもこれってソロアルバムで良かった気もする…

4. Lift Me Up

Write: Trevor Rabin, Chris Squire

90125Yesの楽曲です。デモテープの段階からクオリティは高く、良い感じにYesサウンドが出来上がっています。ライブだと8人Yesって感じがものすごく出ていてちょっとしたお祭りみたいで好みです。Unionツアーだけだと思っていましたが、なんと2017年にARWが結成したときにまさかのセットリスト入りです。そのときに25年ぶりに演奏されましたが、アンダーソンもラビンもヴォーカルとしては衰えてしまっていましたが、演奏はまだまだ健在でちょっとうれしかったですね…

5. Without Hope You Cannot Start The Day

Writer: Anderson, Elias

あんまり好きじゃない感じの楽曲。一応この曲はかなりアウトトラックが出ているらしく、しかもこのアルバムは後半部分のギターソロがカットされているので、そっちのほうがはっきり言ってクオリティが高いような気もするのですが…やっぱり尺の都合上ですかね?

6. Saving My Heart

Writer: Rabin

レゲエ感がある楽曲です。ちょっと私はあまり好みではないのですが、でもこれはシングルカットはされていますね。ライブではツアーの後半はLong Distance Runaroundと打って変わって演奏された楽曲で、公式で出されているUnion Livesで演奏されているのが確認できますが、これのイントロのときに後ろから出てくるよく分からないコスプレの集団が出てきてちょっとげんなりします…

7. Miracle Of Life

Writer: Rabin, Mark Mancina

このアルバム唯一の7分台の楽曲。結構複雑なイントロから始まりますが、正直ワンパターン気味で長い…

8. Silent Talking

Writer: Anderson, Howe, Rick Wakeman, Bill Bruford, Elias

この曲に関してはちゃんと尺を取って、インスト気味に仕立てあげれば割と評価は得られた作品だと思います。ギターもキーボードもドラムも結構気合が入った作品であるだけちょっと惜しい感じ。あとこれも最後のパートがカットされていて、最後のフルート(シンセかもしれないけど)のパートが結構お気に入りなのでカットしてほしくなかったなあって思う作品。

9. The More We Live - Let Go

Writer: Squire, Billy Sherwood

この曲は90125Yesの楽曲で、珍しくスクワイア色が出ている作品です。楽曲としてはかなり好み。これはYesというよりスクワイア、そして同じく現メンバーでこの頃はまだ新人だったビリー・シャーウッドの楽曲といったもので、後にこの二人を中心に結成されるバンドでリメイクが作られ、そちらでライブ演奏されることになります。

10. Angkor Wat

Writer: Anderson, Wakeman, Elias

個人的には駄作と言わざるを得ない楽曲です。全体的に暗い雰囲気のまま進行していきますし、最後にカンボジアのポエムが読み上げられて終わりなんですが正直Yesには合わないかな…

11. Dangerous(Look In The Light Of What's You're Searching For)

Witer: Anderson, Elias

これが前作で「Brother Of Mine」とかを作っていたグループと同じメンバーだと言われても納得できる人はあんまり居ないでしょう。それほどに90125Yesのような楽曲に仕上がっています。これも大幅にカットされている楽曲です。最後あたりはちょっとくどく感じるのですが、これもカット前のほうが良かったパターンですが、普通のロックナンバーとして聞く分にはクオリティはそれなりにあると感じる作品です。あと副題がなろう小説並みに長い。

12. Holding On

Writer: Anderson, Howe, Elias

私としては微妙な感じます。それでも前述の「好きではない」と挙げた楽曲よりかは聞けるのですが…というより90125の楽曲の「Hold On」が思い浮かべてしまうのは私だけ?

13. Evensong

Writer: Bruford, Tony Levin

これもインスト…というよりブルーフォードどABWHでベースを担当したトニー・レヴィンのセッションって感じです。1分も満たない楽曲で、何か激しいセッションってわけでも無いのでコメントに困る…

14. Take The Water To The Mountain

Writer: Anderson

歌詞がアンダーソンの世界観が大きく出てる楽曲です。これも例に漏れずに暗い雰囲気の曲調ですが、Angkor Watとは違いそこまで場違いではない感じです。これも大幅カットを食らっていて、後半のギターソロが思いっきり削られています。そちらのほうが楽曲として明暗がはっきりしていてよかったと思うのですが…
あと地味にUnionツアーの初日の一日だけライブで演奏されています。そのまま同じく初日だけ演奏されたSoonに繋がる形でした。

15. Give & Take

Writer: Anderson, Howe, Elias

日本盤と Special European Releaseのボーナストラックとして収録されている楽曲。たしかギターはちゃんとハウが演奏しているこのアルバムでは数少ない楽曲です。それでも良いと言われている楽曲よりクオリティは高くはないです…

最後に

気付いたら4000文字までになっていました。この時期は没曲、没トラックがかなり多く、そちらのほうがクオリティが高いという逆転現象があるということがたまに…

このアルバムの大きな功績というのは8人Yesというメンバーによるライブツアーが開始されたことだと思います。このライブツアーは大きな成功を収め、というよりアルバムは正直おまけのような感じであることが否めません。先行でライブが始まったこともあり(1991年4月9日よりツアー開始、同年4月30日にアルバム発売)、その印象を加速する要因になっていると思われます。

Yesの中で賛否両論であるこのアルバムですが、一部の楽曲はクオリティは高いと思います。長くはなりましたがどうもありがとうございました。

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