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スカンディナビア半島の記録 #5

 ヘルシンキから北へ825㎞の地点に、サンタクロースで有名な都市ロヴァニエミはある。サンタクロースエクスプレスと呼ばれる寝台特急で、10時間かけて移動する。寝台列車は人生で初めてだった。かなり疲れていたので、すぐに横になりたかったけど、履いてきた防寒ブーツが壊れていて、足がずっと濡れていた。去年アイスランドに行く前に、少し高めながらも、値段は耐久性を保証すると思っていたから買った。この旅でうまれたすべての負の感情をぶつけるならこのブーツしかない。

 寝台列車の移動は静かだった。少しは揺れていたが、特に気にすることなく寝ることができた。

 僕は外で眠るとき、翌日はものすごく朝早く起きる。起きたときはまだ、陽が出ていなかった。GoogleMapでどこにいるのか確認しようとしたが、Wi-Fiも弱く、電波もつかめなかったから諦めた。少し外が明るくなりはじめてきたので、部屋からでて、目の前にある大きめの窓から外を眺めてみた。寒い地域特有の細い、枝が立っているような見た目の木々の間を、電車は走っていた。

 Hが起きてから、二人で食堂車を探しに行った。とりあえずコーヒーとパンを頼んだ。本当はもう少ししっかり食べたかったが、食費は気を許すと一瞬で増える。後から知ったが、フィンランドでは、一日にかなりの量のコーヒーを飲むらしい。だからコーヒーもおいしかった(気がする)。

 予定では10時着だったが、少し遅れてロヴァニエミに到着した。電車から外に出た瞬間は、感じたことないほど寒さだった。気温を確認したら、マイナス16度を示していた。マイナス16度というのは、よく分からない寒さだ。寒いことには寒いが、ここまで気温が低いと、別に寒くないような気もする。寒いけど寒くない。サンタクロースの服装が、そこまで厚着でなさそうなのもこのせいか。

 荷物が重いので宿にそのまま向かい、荷物だけはおいておくことにした。ロヴァニエミでは一泊二日することになっていた。観光のメインはサンタクロース村であるが、翌日も時間があったので、そのとき行くことにした。それだけじゃない。夜にはオーロラを見に、ツアーに出かける予定なのだから、そっちに体力を温存して置かなければならなかった。オーロラツアーというのは、ツアーなんていう気楽なものではない。極限サバイバルなのだ。いうまでもなく夜は寒さが厳しくなる。なぜか寒い夜は眠くなる。これらとの格闘の末にオーロラは現れるのだが、それもまた運次第。

 街は至って普通だ。ただ、雪が道路の上にもびっしり覆いかぶさっているはずなのだが、それにしては車のスピードが速い。絶対滑らない技術でもあるのか。車が突然自分の方に向かって滑ってこないか警戒しながら、街のなかを歩いてみることにした。

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 大抵は美術館や博物館に行くのが習慣なので、ARKTIKUMという街一番の博物館に行くことにした。何が展示されているのかも全く調べないまま、博物館についた。途中、同い年くらいの日本人の集団がいたが、やはり日本人観光客も少なくないのだろうかと思った。博物館に入ると、すぐ受付ではなく、ちょっとしたロビー?エントランスホール?なんと言えばいいのかわからないが、そういったスペースがあった。まっすぐ進めばチケット売り場、左手にはカフェ、右手にギャラリーがあった。パンフレットがおいてあったので、いつものように英語表記をもらおうとしたが、なんと日本語表記のパンフレットがおいてあった。「北極圏への着目」なんとなく不自然な感じがしなくもない。ところで、この博物館、正面の入口からかけて奥に長い。 

 奥に進むと受付があり、そこでチケットを買うのだが、なぜか通り抜けることができてしまった。結局戻ってちゃんとチケットを買ったのだが、もしかして、なくても見れたのではないか。博物館の中身は、科学センターと郷土博物館の2つだった。英語の表記もしっかりあるので、それらを読めば展示の理解の手助けになる。ただ、あまりにも長いし、疲れるからちょろっと読んで終わりにする。だいたい、名詞がよく分からない。特に動物の名前を表す名詞なんか全く分からなかった。Reindeerがトナカイだということに気がついたのは博物館を出たあとだった。TonakaiかSanta's animalとかにしてほしい。

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 どうやら、博物館の裏手に景色が綺麗な場所があるらしいので行ってみることにした。博物館とその場所の間には、大きな道路があるので少し回り道をしなければならなかった。途中、小川にかかる橋があったが、橋の高さと同じ位まで雪が積もっていた。ようやく目的地付近に辿り着くと、小高い丘のような風景が広がっていた。どうやらこれは、川の堤防のようである。堤防を越えるとそこには、これこそ「あたり一面の銀世界」というのにふさわしい光景が広がっていた。

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 ここは、オウナス川とケミ川という2つの大きな河川が合流する地点のようだ。しかし、この気温では、川は全面が凍結し、雪をかぶっているために、地面との境が全くわからない。あたりには自分以外だれもいなかった。細長くのびた博物館の、先端部分からも眺めることができるからだろうか。だけど、来てよかったと思える場所だった。寒いし、疲れたが。

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↑堤防の上(多分)に、止まっていた自転車。他に誰かいたのかもしれない。

 宿に戻ることにした。フィンランドにはいってから初めての宿だった。滑らないように気をつけながら、急ぎ足で宿へ向かった。

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