人体と文明のミスマッチとしての「座りすぎ」

 自宅からあまり外に出ないで、パソコンの前に座りながら仕事をし続ける。感染症の流行にともなって、こうしたライフスタイルの人びとが増えているのではと思います。

 しかし、一日のうち長時間座っているのは、生物としてのヒトにとってはかなり「不自然」なことです。生物としてのヒトは二足歩行を特徴とする哺乳類であり、身体の構造や機能が歩いたり走ったりすることに適したものになっています。これは狩猟採集生活に役立つ特性です。ヒトはその長い歴史において、歩きまわり走りまわることで、生きるための食べ物を手に入れてきたのです。実際、今でも狩猟採集生活をしている民族は男性の場合で毎日およそ15キロメートルくらい歩いたり走ったりしているそうです。

 ところがヒトは定住生活をするようになり、乗り物を利用するようになり、さらに情報通信技術を発展させて、自力で移動することが少ない生活を営むようになりました。

 そして、近年の調査研究によって、長時間座っているのは健康に悪影響を及ぼすことが明らかになってきました。座っている時間が長くなるほど、血行が悪くなり、代謝が低下します。そして、糖尿病、脳血管疾患、がん、認知症などの発症リスクが高まります。そして死亡リスクも高まることが報告されています。

 生物の一種としてのヒトの身体のあり方と文明の発展との間に矛盾が起きるのは不思議なことではありません。現代においてはそうした矛盾がさまざまなかたちで現れていると言えそうです。「座りすぎ」もそのひとつです。この問題を本質的に解決するのはなかなかむずかしそうです。

参考
『「座りすぎ」が寿命を縮める』  岡浩一朗  大修館書店


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?