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務川慧悟氏 コンサートレポ(2021年12月後半)

オールショパンプログラムを引っ提げての初サントリーホールリサイタルという大事業を終えた務川さん。余韻に浸る間も無く、超多忙な12月の残り3公演をこなす。というわけで、この記事では、サントリー以降の3公演中、私が聴くことのできた2公演、12月19日千葉県松戸公演と24日奈良県大和郡山公演についてのレポートをお送りしたい。
尚サントリーホールのレポートは後日公開予定なので、よろしくお願いします。

森のホール名曲コンサート
務川慧悟
浮ヶ谷孝夫指揮東京21世紀管弦楽団(2021年12月19日松戸・森のホール21大ホール)


また安定の推しの演奏部分のみで。しかも記憶が大概なのも毎度のこと(汗)。
オケを前に登場した務川慧悟さん。オケは皆なんと燕尾服だったので、期待は高まったが残念(笑)黒スーツと黒シャツ、イエローのネクタイとチーフというお姿。いやもちろんそれもシュッとして素敵なんですがね。
ショパンピアノ協奏曲第1番
オケの演奏始まる。第一主題から第二主題へ。ピアノの入りまでの数分間、1人鍵盤に向かい待機する務川さんは背筋がピッと伸びてらっしゃって素敵。今回は割と前方席だったのをいいことに、ピアニスト(だけ)をガン見&全集中。
指揮者は異なるが、このオケとは10月紀尾井以来2度目のショパ1。務川さんのピアノは全く臆することなく、自身の求める演奏を貫いていた。鍛えられた確かな技術で奏でられる極上の音。フェザータッチの弱音が煌めくスケールが美しいのだが、決してひけらかすような感じではなく自然で曲に溶け込んでいるのよね〜。
務川さんの演奏にはいつもある種の重厚感とその中にどことなく色香が漂うというか趣を感じる。
思い出されるのは少し前に放映された、ショパンコンクール出場時の反田恭平氏を特集したTV番組(情熱大陸)での1シーン。応援のために現地に駆けつけた務川さんが、反田氏のピアノ協奏曲第1番の練習に対しコメントを述べていた。
「重要な非和声音が素通りされているところがある」「和声に何かが欲しい」「痛みが欲しい」
これらのコメントから、務川さんが和声非和声音、コード進行、メロディラインなどの音の一つ一つを大変な時間と労力をかけ分析し、その演奏技術のため日々鍛錬を積んでいるのがわかる。
意味のない音は務川さんには一音も無い、だからこそ聴く者は務川さんの音楽に何か、あるものを感じるのだろう。
さらに逸れるが、この分析と演奏技術、いわゆるインプットとアウトプットについて、務川さんはnote記事やツィッター に何度か書いている。つまりこれらについて常に自問自答しながらピアニストたらんとしているのが伝わってくるのだ。またそれが非常にらしいというか、得難い長所の一つになっているんだよね。それについては、近々公開予定のサントリーホールについての記事で深掘りしたいと思ってます。

第2楽章27小節目。務川さんが美しいと仰っていた掛留音。

美しさとセンス。フランスで培ったエスプリのようなものも確かに感じられる。第3楽章は、推進力ある表現でグイグイ引っ張って行く。
拍手! オケと会場に何度も丁寧に挨拶する務川氏。全く良い人だな〜。
アンコールは即興曲第3番。甘いメロディに聴き惚れながらも、ああこれでショパンシリーズは終わってしまうのねと、音の合間に寂しさがふと浮かぶ。泣けるわー。ショパンへの愛。務川さんのショパン。堪能しました。

岡本誠司リサイタルシリーズVol.2”夜明け、幻想”
岡本誠司(Vn)、務川慧悟(Pf)(12月24日DMG MORIやまと郡山城ホール)

岡本さんの全5回のリサイタルシリーズの2回目。今回は浜離宮とやまと郡山城ホールの2ヶ所で開催された。ちなみに私は前回のシリーズ(反田恭平氏pf)も聴いていて、ロマン派に特化した演奏に大感動した。
そして今回務川慧悟氏pfに迎えての2公演。前日の浜離宮では満員の聴衆を前にしての演奏だったそうだが、奈良もほぼ満員の入り。このホールは反田恭平氏が代表のJNO(ジャパンナショナルオーケストラ)の本拠地である。

イザイの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第5番ト長調Op.27-5
岡本氏1人が登場し演奏。今年ARDミュンヘン国際音楽コンクール優勝という偉業を成し遂げた岡本さんの繰り出す自由な演奏に古都奈良のマインドを重ね合わせて聴いた。岡本さんの身体全体を使っての大きな動きや、弾くのが楽しくて仕方ないといった風情が楽しい。

ベートーヴェン「ヴァイオリンソナタ第10番ト長調Op.96」
岡本さんに続き青いヘンレ版の楽譜を抱えた務川さんが登場。お二人とも黒のスーツに黒いシャツ、胸にはお揃いの赤のチーフ。
ヴァイオリンのトリルにピアノも応え、愛らしい旋律の第1楽章。ノーブルな演奏がお二人のテクニックと音楽性の高さを物語る。務川さんは目線を多く送り、息を合わせる。ヴァイオリンのささやくようなpや素早いfに寄り添い、タイミングバッチリについていくピアノ。美しく暮れゆく夕べのような第2楽章。この感じはちょっとシューマンを思い出すような、と思っていたら、やはり自由な構成がのちのロマン派に通じるところがあるらしい。岡本さんお得意のシューマンを中心としたドイツロマン派で……はっ! これがロマン派の「夜明け」か。と唐突に気づく私。おっそ!
丁々発止と見事な連携を経て、華々しく終わる。休憩。

シューマン「幻想小曲集 Op.73」
再び岡本さんとヘンレの青い楽譜を携えた務川さんが登場。
曲が始まるとまさにシューマン! 6月に聴いた岡本誠司さんのリサイタルシリーズ第0回のディートリヒ, シューマン, ブラームスのFAEソナタを彷彿とさせる。
刻一刻と変化するまさにロマン派なメロディを岡本さん務川さんの巧者2人が弾きこなす。ここで突然の推しタイム! ソロで一心不乱に演奏する姿もオーケストラの中で王様のように演奏する姿も素敵だけど、デュオで寡黙な職人のように演奏する姿もとても素敵。踊るように身体を動かすヴァイオリン(岡本氏)に対し、ピアノ(務川氏)も割と身体を動かすタイプなので非常に、その、良きです。

シューベルト「ヴァイオリンとピアノのための幻想曲 ハ長調 D934」
務川さんの楽譜はオレンジ色のベーレンライター。ピアノの下行するトレモロに静かに震えるヴァイオリンの細い声がスーッと乗ってきて曲が始まる。自由な雰囲気で曲が進行し、カノンあり変奏曲ありカデンツァ風ソロあり、スケールの大きな上下移動は粒立ちの美しさが光る。互いの技術とヴィルトォーゾが遺憾なく発揮された。拍手。

さて一旦引っ込んだお二人が今度はマイクを手に登場。まあ、ここは話術も達者な岡本さんにお任せしていれば安心ですわ。それでも一応マイク口元、右手左脇下ポジションの推しがかわ…(以下自粛)
期待通り岡本さんが来場の礼と全5回にわたるリサイタルシリーズについて、演奏した曲がなかなか難しい作品であることなどを淀みなく話す。ここで話を振られた務川さんが「最上級に難しい」と発言したのも良かった(笑)。その後岡本さんは、奈良の地でJNOがこれからも演奏して行くことをなんとなく広報的な雰囲気で話したことに少し驚いた。JNOというと、どうしても代表である反田さんの意思として強調される傾向にあるが、岡本さんの発言を聞いてメンバーみんなも同じ気持ちであることや、それが非常に前向きで確固たるものであることが伝わってきた。
さてラストの一曲ということで、お二人がアンコールに選んだのはシューベルトの歌曲「夜と夢Nacht und Träume」。いつも岡本さんはナイスな発音のドイツ語で仰るのよね、さすがだわ。 

Heilge Nacht, du sinkest nieder;
nieder wallen auch die Träume,
wie dein Mondlicht durch die Räume,
durch der Menschen stille Brust. 
Die belauschen sie mit Lust;
rufen, wenn der Tag erwacht;
Kehre wieder, heilge Nacht!
Holde Träume, kehret wieder!
聖なる夜、君は下へ沈む
下では幾つもの夢が揺蕩っている
君の部屋を過ぎる月の光のように
夢は静かに人の胸を過ぎていく
楽しげに耳をすませる
目覚めとともに呼ぶ
戻ってきて、聖なる夜よ!
親しい夢よ、戻ってきて!

…訳が下手すぎか! 聖夜に幾つも夢を見て、目が覚めたらあーもう一回見たいわ〜てやつかな? あ情緒無くしてごめんなさい。しかし聖夜になかなかお洒落な選曲ではないですか?(※ちなみに前日の浜離宮も同じだったそう)
技術系の曲で華々しく終わるアンコールもいいが、しっとりと静かに夢への思いを馳せたアンコールも、大人なお二人には合っている。聖夜にふさわしく、静かな安らぎと明るい未来へ誘ってくれた素晴らしいリサイタルだった。
岡本さんのシリーズはまだ続くが、ぜひまたピアノに務川慧悟さんの登場をお願いしたいもの。

さてさて、このリサイタルが我が推し務川慧悟さんの弾き納めとなったよう。
2021年はエリザベートあり、サントリーでのオールショパンあり、TV出演ありと大変なご活躍の年だった。その何度かをリアルタイムで追うことができ、私もファン冥利に尽きた。感謝しかない。

2022年もいきなり大忙しの推し様です。
1月1日 群馬 第32回高崎元旦コンサート(サン・サーンス/ピアノ協奏曲第2番 ト短調 作品22 から第3楽章)
1月3日 名古屋 NHKナゴヤニューイヤーコンサート2022(ピアノ協奏曲第5番 ヘ長調 作品103「エジプト風」から(サン・サーンス作曲)
1月4日 埼玉 2022NewYearConcert横山幸雄ピアノリサイタル(ショパンバラード3、カルメンの誘惑と幻想)
ここで恐らくパリへ!(涙)
しかし嬉しいニュースが飛び込んできましたねー
1月7日 配信で無料ライブがあるとか!
うわーいワクワクじゃないですかー。なんかアーカイブもあるそうなんで本当に楽しみです。あ、またこれもレポするのでお楽しみに!←いえ単なる置き言葉で。言ってみたいだけです。


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