春のこと

とりあえず段ボールに放り込んだ  

2年続けた日記帳
期限切れのクーポン券
何に使うかわからなくなったネジ
君からの手紙

これから僕の行く先は
少し遠い場所


電車を乗り継いで9時間
新幹線なら5時間半
飛行機は、出ていない

手紙は2日くらいかかるだろう
メールならすぐだけど、

君がメール嫌いなこと
忘れてない。

「いつでも帰ってきてな。」
家族も、友達も、口をそろえて言う

「身体に気をつけてな。」
じいちゃん、ばあちゃんは心配そうだ


―――


荷造りは終わった

こんなにたくさんのもの  持ってたんだ
18年分の年月の重さだって思ったら
山積みの段ボールが存在感を増した

置いていくものも  ある
全部は、持っていけないから

1Kの部屋をなるべく未来のために
使おうって 決めたから

何が待ってるか ほとんど未知
未来はいつだって誰にも分からないけど
こんなにも分からないものかって
胸のあたりが騒ぐ

「がんばってね。」
君の小さい声、僕は聞き逃さなかった
心細そうな背中  さすってあげたら
涙をこらえてる君が  少し震えた


―――


家を離れて17年目の春

引っ越しのトラックを見るたび 思い出す

電話や手紙やメールやチャット
いろんな手段があるのに
距離ってものはやっぱり飛び越えられない。

つながってる
それは信じることを  ともなわないと 意味をなさない。

最初の1Kの部屋に
未来のために、なんて空けた空間では
足りないくらいの未来があったよ

それは
ただ楽しいだけの未来じゃなかった。

18歳の想像力なんてたかがしれてる

それなのに、なんだか分からない万能感があって、
どんな未来も明るくできるって
本気で思ってたんだから、
若さは強い。


君も結婚して、子どもが生まれたって
どこかで聞いた


もう会うこともないだろうけど
なぜだろう  君を思い出すとき

あっという間に生まれた街の風が吹く


―――


さて。
僕も、進まなきゃ。


楽しいだけの未来じゃなかったけど
苦しいだけの未来でもなかった


だから、きっと
これからもそうなんだ