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おばあちゃんへの手紙 エピローグ05

「朝ごはん出来ていますよ。」

「ああ、おはよう。ありがとう。今行くね。」
 と答えながら、ふと思いついて質問を重ねた。

「そういえば、今日の朝起きる時、
何か夢を見てなかったかな?」

どうにも私はついさっきまで
一緒にいたような気がしてならない。


「夢ですか…」

愛は考えるように宙を見上げ
顎に手を当てる仕草をしてみせた。

その時である、

「あっ!」
私は思わず声をあげ、その手を指差していた。


びっくりした細君は一歩退きながら
「どうしたんですか?」
と、きょとんとしている。


「あーこれ。
随分前にお母さんに頂いていたんです。

そもそもお母さんがお嫁に来られた時、
おばあちゃまからいただいたようで、

その時
おばあちゃまがおっしゃられていたことでは、
『赤の他人が結婚指輪をして
血の繋がった親族以上の
夫婦という絆で結ばれていくように、
私はあなたを実の娘と思って
親子になりたいから、
どうかその印に
この指輪をプレゼントさせてくれる?』と。

お母さんはそれが嬉しくて嬉しくて
それからずっと
この指輪をしていたようなのですけれど」


言われてみれば、
母は右手の薬指にいつもリングをしていた。

男の私には興味がなく、
それがこの金のリングだったかは思い出せない。

母はお遍路を始めた2年目の年に亡くなっている。

高知を回った年だ。

母は家族でお遍路を始めた時、
とても喜んでくれていた。

「確か、おばあちゃまの供養をかねて
お遍路を始めるとパパさんが言い出した頃です。

『それならば、
愛ちゃんに渡しておきたいものがある』と。

『私も愛ちゃんを自分の娘と思っているから、
この指輪を譲り渡したい
ぜひ、今回の旅に連れて行ってあげてほしい。
私ももうそんなに長くないのはわかるから
こういう機会があってよかった。』と。」

言いながら、愛は大事そうに
自分の指にはめられている
そのリングのなめらかな感触を確かめていた。


「ママさん、実はさっき夢を見ていて…」

そう私が言いかけると、
愛はその先を遮り言葉を被せてきた。

「この指輪の夢ですね。
昔の古いお家に訪れて…」

「えっ」
私は言葉を失った。

何をどう言っていいのかわからない。


いつもより凛とした眼差しで愛は語を継ぐ。

「私にとってもパパさんは誇りです。
私を選んでくれてありがとう。

そして、
おばあちゃまにお母さんに伝えたかった。
“私を受け入れてくれて、ありがとう!”と。」


私は膝から崩れ落ちそうになるのを
懸命に堪えた。


その様子を見て、
愛は、今度はイタズラっぽく
ニヤリと笑い私に顔を近づけて言った。


「パパさん。
私がいつも何にもわかってないと思って、
甘く見過てはいませんか。
知るべきことはわかるんです。
どういうわけか昔から…」


「はは…」
思わず上の空の笑いをこぼすと
私は小さく呟いた。

「おみそれしました…」


どうやら不思議な人生のストーリーは
まだまだ続くようだ。


-あとがきによせて-

幼い頃、一緒にびわの種を蒔いて
大きく成長する事を祈ったおばあちゃん

その結末をおばあちゃんは
知る事なく旅立ったけど、

大きく大きく成長したびわの木は、
40年もの間、毎年たくさんの実をつけて
家族を喜ばせ続けてくれました。


この作品を、
亡き祖母に感謝の気持ちを込めて捧げます。


作者

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