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おばあちゃんへの手紙 15-1

いよいよ、お遍路開始4年目の夏。

これまで65のお寺を巡拝し、
今回残り23のお寺を廻り結願を目指す。



思い切って、この旅に
踏み出した4年前が何か遠い記憶に感じられ、
まるで過去世を思い出すかのようだ。

子供達もずいぶん大きくなった。

当時小学生2年生だった佳乃は
小学5年生と高学年に、
保育園の年長組だった勇一は小学3年生。
得意のVサインで
2歳をみんなにアピールしていた勇作も
もう5歳になっている。

3歳、4歳までは
スリーピース、フォーピースと
高らかに指を突き出し、誇示していたが、
ファイブピースのパフォーマンスは
もうしてくれない。

「いくつ?」と聞かれても
「5歳です。」と
はにかむように答えるだけになった。


片道800kmの四国への道中も
もう慣れたもので、
子供達もかなり夜中遅くまで起き、
お喋りしている。


深夜、明かりが少なく
真っ暗な淡路島を高速で抜け、
鳴門海峡にかかる鳴門大橋を渡る時は
相変わらず興奮してテンションが上がる。


四国の玄関口、
巨大な建造物といったその大きな橋に
吸い込まれるように包み込まれ、
やがて四国というお遍路の舞台に躍り出ていく。

今年廻るのは香川県。

うどんが美味しいことで知られている。
特徴はコシが強くて太いため、
食べ応え抜群で腹持ちが良い。

当然お昼は毎食“うどん”ということになった。

また今までの3県に比べ、平野部が多いため、
車での移動もスムーズでずいぶん楽になった。

山を分け入って山寺というのも少ない。

お寺自体も、
近代的に非常に整備されているものが多い印象だ。



順調に初日7ヶ寺を廻り夕刻となる頃、
8ヶ寺目の第73番札所、出釋迦寺に着いた。

時間的に今日最後の巡拝となるだろう。


駐車場で車を下り、準備を整え、
大師像が立つ鐘楼門の方へ向かって歩き出した。

すると途中売店があり、
そこに出されていたベンチに
2人の女性が座っているのが見えた。


1人は中年の女性、
もう1人は80歳を超えると思われる
おばあちゃまである。

我々家族に気づくと、
ハッとした顔で
なにやらお互いに頷き合っている。

そして意を決したように
2人は立ち上がって我々に近づいていた。


その足取りは、
中年の女性がおばあちゃんの肩に手を回し、
介添しながら一歩一歩
辿々しく歩くといった感じで、
決して元気そのものといった様子ではなかった。


どこか具合が悪く、
何かの助けを求めての行動かと勘違いした愛は、
駆け寄って手を差し伸べた。

「どうなされました、大丈夫ですか。」

細君の呼びかけに
心底喜んだような笑みを浮かべたおばあちゃまは、
その差し出された愛の手を
自分の両の手で包み、
か細くはあるんが透明感のある声で言った。


「あの、不躾ではございますが、
あなたたちが来てくれるのを待っていました。」

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