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感想「かえってきたWteen」

前作(初演)も観劇。その時は片方のチームだけを観劇。
劇場に行けず配信のみもあったが、RAVE塾作品は全て観ている。その中で一番好きな作品が「Wteen」だった。
なんとか自分たちの居場所を守ろうとするのは他と似ているが、教師が絡むことでいつもとは大きく異なる。
今回はAチームとBチームを両方とも観劇。驚いたのは、AチームとBチームで、エンディングの曲が異なる事。前回を観て、Wteenといえばあの曲、と思っていたのでAチームを観た時は物足りなさと違和感を感じた・・・のは観た直後の話。
(曲名を出して良いか分からないので、ここでは伏せます)

AチームとBチーム。この構成が実に面白い。
Aチームは最後、バラード曲になる。前作でBチームを観て、その作品が最高だと思っていた側からすると、違和感があった。
ところが、佐久間は前回に近いのはAチームだった。それはヴィジュアル面で。黒縁メガネで真面目そうな印象だが、そこから発せられる言葉はきつく、そしてその見せる姿は辛辣でしかない。
前半、なかなか登場しないのも、観る側の想像を掻き立て、登場した姿はインパクト抜群。きついその言葉は昭和のもの?と思わせるも、実際には現代の正論に近い。
これをBチームは栞菜さん、Aチームは太田薫子さんだった。2人とも何度もその演技を観たことがあったし、栞菜さんはなんとなくイメージもつき、楽しみではあった。
驚いたのは太田薫子さんだった。
今までRAVE塾や他の団体さんの作品でも拝見したが、このイメージがなかった。前作の須藤茉麻さんの作り上げた佐久間に似ていて、それでいて言葉の一つ一つがしっかりと、はっきりと心に刺さる。
その演技が染みいるのは、観劇後だった。
前述したように、エンディング曲がバラードで、あの力強い千聖と佐久間のやりとりから、Bチームのエンディング曲がハマっていると感じたが、太田薫子さんの佐久間は、バラードが合うような後で染み入る言葉の投げ方をしていた気がする。だから、観劇直後よりも、その後ジワジワと、良さが心に染みてきた。

Aチームは、落ちこぼれ5人衆も見た目は色鮮やか。見た目だけでは判断してはいけないし、おそらく、佐久間も見た目で判断しそうでしないタイプだとは思う。しかし、そうは言っても”分かりやすさ”がそこにはある。だからこそ、あのエンディング曲が活きてくる。最後は、じんわりと穏やかな感情の流れになったのだなと。
「今までの自分たちから卒業させてくれてありがとう」
そんな様子に感じた。

それに対して、Bチームは少し落ち着いた感じにさえ見える。ところが、その放つ言葉の一つ一つが、とても鋭い。テンポや間がとても良いからだろう。落ちこぼれ5人衆の崎野萌さんと藤井菜央さんは、もはやRAVE塾でのこの手の役は安定すぎるほど。崎野萌さんは、これまではそれらの集団の脇で主役を立てていたが、今回はその役を藤井さんがしっかりと務め上げていた感じ。
今回は、佐久間という強大な相手役がいる。これが今までとは違う。演じるのは栞菜さん。正直、この二人の会話劇をもっともっと観てみたかったと感じた。

さて、そんな感じで全体を2チーム楽しめたわけだが、ここからは気になった役について。主役である千聖。リーダーということは明確には謳われないが、特に佐久間に対して敵対心を持っているような設定。
Bチーム・崎野さんは、これまでもRAVE塾作品で見せた強い姿がそこにはあった。この作品は、とにかく佐久間が主役となってもおかしくないものでもある。下手をしたら、主役と言えども喰われてしまう。そうならないためのパワーが必要。
5人いて、この5人の連携、チームワークが大切だが、それを引っ張るにはただ舵取りがうまいだけではダメで、5人を引っ張っていくだけの熱量が必要。5人を仕切る分かりやすいリーダーであれば、もっと話も早いだろうが、そうではない分、何かで引っ張っていかないといけない。そのためには、より大きなパワーが必要となる。
今までの役もパワフルだったが、今回は事情が違う。パワーの出力方法も出しどころも違う。そんな中でも、その熱量が伝わる演技を、崎野さんは見事に見せてくれていた。そしてその熱量に負けずに、他の4人もそのエネルギーを発散させる。
そしてラスト。
「敬語つかいなさい」「敬語」とさんざん言われながらも使わず、そして使った時が感謝の言葉、「ありがとうございました」。そしてまた熱量を上げ、更に、その後に続く、「だって、わたしら、先生の悪口しか・・・言い合ってないんだもの」。この部分の落差。かすれるような言葉にまで落ちるその言葉は、あの熱量があるからこそ生きる。
このシーンは、何度見てもグッと胸に刺さる。心が揺れ、泣きそうになる。
細かい演技の評価などいらない。観ているものがこう感じる。それだけで充分。
さすがとしか言いようがない。

あれだけの熱量・パワーを出せるのも、崎野さんの魅力の一つ。RAVE塾作品は勢いがあり、それをどれだけ体現できるか。そしてその分、ラストに待ち受けるホロっとした展開に、どれだけ落差をつけられるか。これが崎野さんはしっかりと持ってくる。主演じゃない時は、見事にそのサポート役をして相乗効果を上げていた。それが主演になり、それまで以上に爆発したかと思うと、今回の5人衆を全体のリズムを創り上げていた。仮に崎野さんがAチームの主演だったら、ここまでではなかったかもしれない。RAVE塾になれた人たちが多いBチームだからこそ、という気もする。

そして驚いたのは、やはり優莉奈さん。優等生役のイメージで、前回のWteenも生徒会長役だった。とは言え、ちょいちょい癖のある生徒会長で存在感もあったけれど。
そして少しずつ、その優等生役から変わっていき、とうとう今回は、主役グループでもある
落ちこぼれ集団へ。
Aチームの同じ役に比べて、台詞が少ないように感じてしまったが、脚本のベースが同じである以上、おそらく同じなのだろう。
これまでの優等生役でも、その表情の豊かさで楽しませてもらった。今回は全く逆の役柄となり、そこに乗る感情が変わってくる。佐久間に対しても、あまり積極的な発言が出てこない。そして表情では、難しい表情をしている。
その理由が、ラストで明らかになった。
優莉奈さんが演じていた杏は、元々、佐久間が好きだったという。ところが、きついことを言われて反抗して、次第に自分の気持ちを抑え込む。周囲も「佐久間は嫌い」と言っているだけに、自分の気持ちをはっきりと表に出せない。
今の時代だと、同調圧力などと言う人もいるかもしれないが、これは学校生活では普通の事。自分の気持ちを抑え込む葛藤が、佐久間への悪口の口数を少なくする。
そう考えた時、優莉奈さんの演技が見事にハマる。言いたくても言えない。そしてその気持ちは表情に現れる。
思えば、佐久間が初めて教室に姿を見せた時、会話の中心で騒いでいたのは杏だった。身振り手振り交えたその姿は、本当はよく喋る。ところが、佐久間を前にするときっと何も言えない。佐久間の事になると、つい、自分にウソをついているような気持ちになり、言葉を飲み込んでしまう。そんな風に見えた。

しかしなにより驚いたのは、Aチームでも、前回の公演でも生徒会長が務めていた「佐久間の役」を、Bチームは優莉奈さんが務めたこと。確かに前回の公演では生徒会長で経験ありとはいえ、わざわざAチームと変えてくるのは、その演技に定評があるからか。今回、優莉奈さんが出てきた時、もはや安心して観られ、なにより、また観られたのが嬉しかった。
そしてラストにようやく素直になれて感情を言葉にした時、一度観て、その感情が分かっていたから、よりグッときてしまった。

Bチームは、RAVE塾常連と言える崎野さん・藤井さん・優莉奈さんの三人が5人衆の中にいて、テンポがよく、それがBチーム全体のリズムを生んでいたように思えた。

RAVE塾の作品は、誰かの心の闇まで掘り下げるほどの展開はない。いじめられていたという事実があったとしても、そこで回想シーンに入ることもない。回想シーンに入るのは、裏で暗躍した時のネタばらしの時くらい。
だからこそ、楽しく見ることも出来る。闇深くなると、作品の雰囲気も変わり、求められる演技も変わってきてしまう。それはRAVE塾のカラーではない。

崎野さんは、他の団体作品では、逆に闇を背負った様な作品にも出演してきた。彼女の魅力は、そういうものを背負った役の感情表現が秀逸なところだと思っているが、深すぎない役を演じると、また違った魅力になる。だからこそ、RAVE塾に出る時は見逃せない。

そんなこともあり、いつもは崎野さん・藤井さん・優莉奈さんが出るBチームだけを見ることが多いが、今回はAチームも観劇。
Aチームには、中島明子さんが生徒会長役で出ていた。コロナ前に一度、直接お会いして、その後は客席から見守っていた。今回、久しぶりに直接会う機会もあるということで観劇へ。とはいえ、あまりに久しぶり、はじめましてと同じ状況のため、どうしようかと思っていた。
中島明子さんは、所属劇団での舞台にも出演されていて、観るたびにその演技に驚かされていた。「激流ノ果テ」では、全く笑顔もない役で、あまり人と絡むこともない中、その存在感が作品全体を引き締めていた。その印象がある中、今回の役。楽しそうな姿を観ている内、こちらも元気になった。佐久間の代役もこなしていたが、そこでは笑わせてもらい、雰囲気は優莉奈さんがかつて演じた生徒会長とはまた違う生徒会長像。
「激流ノ果テ」を観たからこそ、感じた今回の”明”の演技の魅力。次は主演とのこと。こちらも楽しみにしたい。

そしてAチームに出ていた絃ユリナさん。彼女の出演作を観ていて、RAVE塾、合うんじゃないかと思っていたらバッチリ。あきりべとか合いそうな気がした。今回が初出演ながら、色々な意味で難しい役どころもきちんとこなし、丁寧な演技。また出演されるのが楽しみ。

しかし、前回もあった「猿芝居」の部分。柏木椎名さんの演技が良かったなあ。衣装も含め、「待ってました!!」と思ってしまった。前作ではミスコン優勝候補という綺麗どころだっただけに驚いてしまった。でも、まだ印象に残っているくらい強烈だった。

最後に。
エンディング曲の違い。改めて考えると、その意味合いが大きく変わる。
Aチーム。
それまで嫌っていた佐久間。嫌いなものは排除しても良かった。劇中で言われていた「授業で寝ていても」許される日々。それまでも、他の教師たちに注意はされていただろうが、佐久間ほど強く、しつこく、そして未来のことまで具体的に絡めて叱ってくれる人はいなかった。ヴィジョンとして見えてしまう言い方で見せられた未来。そしてそれまで逃げていた自分たちを卒業しよう。
Bチーム。
Aチームと違うのは、言葉として受け取ったのではないかと思った。一つ一つの言葉が刺さる。刺さった言葉は、やがて自分たちへのメッセージだと伝わる。メッセージを貰ったからこそ、自分たちも言葉で返したい。
貰うだけではなく、渡したい。伝えたい。だからこそ、あの振付も活きてくる。
そう感じた。

この作品は、やはり面白い。
佐久間自身は、言葉遣いなどに対してはほとんど何も言わない。彼女たちは、佐久間の悪口を言うが、面と向かっては何も言えなかったのだろう。佐久間は、感情をぶつけてこない、そんなところを彼女たちに伝えたかったのではないかと感じる。そこには言葉遣いなんかいらない。まずは自分の気持ちをぶつけて、人から逃げるのではなく、人にぶつかってごらんと。佐久間を主役にすると、ただの学園物になってしまうかもしれない。それでも、観てみたいと思ってしまう。
次の作品にも期待して、佐久間の教えを胸に日々を過ごそう。

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