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舞台「幸が思うにそれはきっと『 』だった 感想

観劇に行くきっかけは、三姫奈々さんが出演されるという事だった。
でも内容的にも自分の好みで観劇前にはワクワクしていた。

閉じ込められた8人。そして腕輪が付けられている。
王道と呼んでもいいストーリー展開ではあるが、こうなると、ここからどう展開するか。
よくある話ほど、どう展開させるかが難しい。たくさん使われていればいるほど、多くの人がそこから派生して物語を作っている。

腕輪や置かれている状況に不安を感じている中、死んでいると思われていた直人が目覚め、一瞬、バタバタとし、暗い雰囲気を明るくする。
その直後に起こるアナウンス。懺悔しろという。
そして物語は始まっていく。

最初、この作品を知った時、「幸が思うに」とタイトルにある。
でも、役名を見ると、どこにも「幸」はいない。「思うに」とある以上、人であるとは思っていた。擬人化した動物という事もないことにはないが、内容からして人間かと。
そうなると、幸はどこにいるのか。8人の中にいるのか、それとも、もういないのか。
そんなことを思いながら観ていると、ストーリーは進む。突然。田中が手紙を見つけたと言い出し、そこから最初の罪としてナナの罪が浮き彫りにされる。電車内で人にぶつかったというもの。最初の罪。これが些細なものであればあるほど、後半に効いてくる。
事実、ナナもそんなことが罪になるのかと言う。よくあることじゃんという。
8人もそれ自体は否定しない。ただ、そのまま放置したことを責める。
それでも聞こうとしないナナ。

「ナナ」という人物像は、ここまでで完成していないといけないと感じた。始まって15分くらいだろうか。観ているものに強く「ナナ」という人物を強烈に残さないといけない。
言葉遣いは乱暴に、そして態度は悪く。直人が明るくしているときでさえ、退屈そうにし、手紙が爆弾かもしれないと騒いでいる時も、バカにしているような態度。
明らかに年上であろう人たちにも悪態をつく。
「一番年下のくせに生意気だな、こいつ」
それこそ、こう思わせることができれば、仕掛けは完成している。
「若いから仕方ないよね」という同情の余地すらなくせば完璧。

罪を暴露された後も変わらぬナナ。そこで仕掛けにハマった人たちは、感情移入対象が変わっている。最初はナナに、「まあ、よくあるよね。仕方ないよ」と感情移入させた後に、変わらない態度に「いや、その後なにしないのは良くない。私ならする。なんなの、この娘」とほんのわずかな時間で感情が移らされることで、より、ナナがヒール役と引き立っていく。

ここでヒールになればなるほど、最後、ナナが「もう二度と笑わない」と決意を込めた一言が重く聞こえ、最後はナナに対してプラスの感情を持つことになる。
よくある罪だからこそ、罪と認めたくないという気持ちもわかるから、でも、それではダメだとわかっているから、ナナの変化・成長が自分の事を観ているようにすら思ってしまう。
そう考えた時、演じた三姫奈々さんの創り上げたナナは、本当に賞賛するしかない。
三姫奈々さんは実際、可愛らしい役が似合いそうで、そういう雰囲気もある。アイドルもやってるし、その印象が強い。実際、そういう役を演じたら、また魅力的だろう。
でも、前回の舞台でも闇の部分を演じていたけど、見た目の印象と全く違う役を演じても違和感がないこと。そしてそういう役を演じた時、違和感がないくらいに自然なこと。
今回のナナは、ヒールとして創り上げられた。素行の悪さも見て取れるほどの役。だから前半の表情は、「こいつ~」と思うくらいに、憎らしい表情に見える。そしてそこから最後のシーンになると、許してあげたくなる優しい目になる。
こういう部分を見せられると、本当にまた違った役で観たいと思うし、創り手側も役を任せるのが楽しいのではないかと思う。

しかしこの物語、少しずつ違和感を感じさせるところがあった。でもそれが、うまく最後への伏線になっていた。
最初の手紙の部分。あのタイミングで手紙が出てきたか。手紙を見つけていたのなら、もっと前に出すところは何度もあった。忘れていたとは少し考えづらい。同様に、けんとが出した時、他の人たちからは気づくだろうって言われていた。
そして爆弾かもしれないと言って、恐怖感を煽っていたのも田中。そもそも手紙見てその考えに行きつくなら、それをしまっておいたというのも少し理解に苦しむ。そして爆弾の知識。94年の事例を持ってきた。更に詳しい知識。普通に考えたら、なかなかない。94年なんて具体的な例、しかも自分が生まれる前かもしれないくらいの事を、あれだけ言えるとは。

ただ、不思議なことに、それでこの田中が、「田中」と呼ばれることに対しての違和感はなくなった。田中が幸だということを隠したかったからだと思うけど、他の女性2人が下の名前で一人だけ「田中」と呼ばれることに違和感があった。直人なら、下の名前も聞きそうだったし。ただ、「田中」もちゃん付けすると不思議と可愛らしさがあるから、そんなものかなとも思っていたけど。
ただ、この妙な知識と行動で、可愛らしさが消えてお堅い職業、普段から男女差のない環境にいるのか、田中も納得と思ってしまった。

そして解消されなかった違和感。
どうしてこの8人だったか。この8人にした理由。これは観劇しながら、ミッシングリンクを探してしまっていたので、余計に気になった。
脈絡もない8人だからこそ、そこにより恐怖感と謎が生まれるけど、最後までここは分からなかった。
そして共犯者はいなかったのかということ。これだけの人数を集めること、そして自分もあの中にいながら、音声を流し、腕輪の解除も行なう。リモコンでできそうなものだけど、それもなかなか難儀なはず。
これらを考えると、まだ何か、本当は隠された真実があるように思えてならなかった。
その謎を考えただけで、自分の中でこの物語は終わらないし、楽しめる。
観劇した後、配信でも観たけど、やっばり面白い。

そしてこの劇場を選んだのもまた良かったなと思った。。アトリエファンファーレ東新宿は過去にも行ったことがあったけど、ここまで暗くなり、この作品の舞台にふさわしいとは思わなかった。だからこそ、余計に良かった。

今回、舞台・立ち呑みパラダイスで拝見していた永井なおきさんが出演となり、「優しい」か「迫力」のある方かと楽しみにしていた。結果、「迫力」が勝る役だったけど、それを観られて良かった。やっぱり、「迫力」の勝る役だと、カッコよさが引き立つ。優しい役も柔和で良かったんだけど。
あすみさんも、どこかで観たと思ってたらやはり立ち呑みパラダイスだった。去年観て、カーテンコール時の写真にも収まっていたのでしっかりと確認。
全然違う役だったけど、個人的には今回の役の方が似合ってて好きかも。


幸が思うにそれはきっと『  』だった。
ここには、観た人がそれぞれ、色々な言葉を入れられると思う。自分も入れて感想を終えようと思った。でも、それは書かない方がいいのでは思った。あくまで自分の心の中に、大切にしまっておいた方が良い気がした。
そして幸本人からしたら、きっと、最初と最後でこの中の言葉は変化しただろうと思った。

演劇集団AN。
次回が楽しみな団体さんになりました。


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