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舞台「Wteen」感想

Bチーム観劇。今回、なぜか、Bチームに名前をよく知っている人が集中している事態に。とは言え、Aチームも気になると思っていたところ、配信があり、両方観られそうで安心。

何度も中止や延期、配信公演になるなど、大変な思いをしてきたRAVE塾。そのせいもあり、「再演」の様な形が続いた中、久しぶりに新しい作品を観る感覚になった。

今回はどんな腹黒展開・裏切り展開かと期待していたら、色々と画策はするものの、黒さは薄め。むしろ、やる気のなさを強調した展開。でも油断して行けないのがRAVE塾。騙されることがないように、細かいところにも目を配ろうと思っていた。
最終的に、腹黒く、それこそどう逃げようか、押し付けようかと強く出なかったのは、もしかして・・と思う展開になり、考えるところがあった。

途中、珍しくどよめきが起こったのは合唱シーン。
今回、RAVE塾に初出演の花沢詩織さんの美声に、観客席からどよめきが。アフタートークで、さすが音大出身といわれていたけれど、まさにその能力が発揮された。
その一方、可愛らしい演技も良かった。

生徒会3人の中で、一番動きがあったのがその花沢さんだった。と言っても、役としては少し3人の中でも控えめな感じさえ受けたが、その中で灰谷くるみという役をどう表現するか。
首を動かし、背水5人組が、生徒会3人に自分たちのプランを説明し始めれば、その勝手な都合の展開に、目をパチクリさせる。まるで、漫画の様な演出だが、それがまさに、今まで出遭ったことのない人種と会ったと想像させる。まさに、劇中で言っていた出遭う事のなかったグループと言うのを表現していたと感じた。
これにより、灰谷くるみという人のイメージが掴めた気がする。時に、怯えたような表情も見せていたこともあり、本当なら、背水5人組とあったら、時には目を逸らしてしまうような、関わりたくないとすら考える。でも、普段は露骨に出すタイプではなく、気にしないで素通りするような、自分が空気となって通り過ぎる。
今回はそれが関わることになり、初めて見る人種に驚き、そして、自分たちには見せることになかった佐久間の姿にも驚き、ある意味、彼女にとってはきっといい経験になっただろう。そんな気がした。う表情よりももっと分かりやすい。

花沢さんの出演作品は何本か観たことがあるが、台詞があると少し癖が強い役が印象に残る。一方で、あまり台詞がない役だと、細かい仕草や表情で魅せてくれる。
同じ様な人はいるけれど、彼女の場合はそれが不思議と印象に残る。もう少し、いくつか作品を観ないと、まだ正確な分析は出来ないかもしれない。
1つだけ言えるのは、観に行くと、また次も観てみたいと思ってしまうこと。
今回、RAVE塾には初参戦だったけど、次は全く違う「動」の動きの役で観てみたい。RAVE塾で、優等生ではない側での花沢さんをどう活かすか観たい。そして願わくば、次の時はもう少しグッズが欲しい。

優莉奈さんは、今回が2回目。でも、前回の「帰ってきたQD」の時も、そんな気はしなくて、前にも出てなかったっけ? と思うほどRAVE塾の色に合っていた。
前回は心霊研究から三郎研へと、けっこう重要な役回りで見せ場が大きくあった。その姿を観て印象に残ったのもあった。
そして今回。どのような役回りかと楽しみにしていた。
今回は生徒会長。それも絵にかいたような生徒会長に見える。
「強い」生徒会長ではなく、「優しい」生徒会長。
「強い」背水5人組のような、「住む世界が違う」様な人たちに圧倒されても、純粋にその発想に驚きつつ、でも協力してあげる。
一度だけ、何か言いたげな表情をした様な気がするけれど、ほぼ分からないくらい。
住む世界の違うところは、リハーサルで表現されていた。一番最初のリハーサル。5人組のノリについてけない様子を見せる。そこから、生徒会長の普段の姿が見て取れる。
思えば、クラスにノリのいい、そして5人組のようなグループはいた。そのノリについてけない、でも否定するわけでもない、気にせず他の友達と話している、そんな自分と重ね合わせてしまった。

そこから、生徒会長が少し変わりだした。順応性が早い、優等生らしさを出し、感情表現が大きくなる。先生2人が5人組に罵倒されるシーンでは、先生の怒りに驚き、フリーズ状態に。あの驚き方、分かりやすくていい。
そしてその流れで、2人の先生が立ち去って行ってしまった時は、その場に崩れ落ちた。
ここで1つ、どうして崩れ落ちたのだろうと思った。
驚き、それは恐怖となり、その場が収まったことによる安堵によるものか、それとも、先生たちが怒ってしまい、再び計画が振出しに戻ったことによる絶望感か。自分の心に寄り添ったものか、それとも5人組に寄り添っていたか。
配信でも何度か同じシーンを確認したけど、安堵というより絶望感に近い表情。しかしそれとも少し違う。怯えてて恐怖が一気に降りかかってきたという感じだろうか。腰をぬかした状態。あれだけ激怒した先生たちを見たことがなく、それは恐怖にすら感じた。
あまりにサルの真似が巧すぎて笑いになっていたが、あの様子で、先生たちの怒りの強さがより表現されていた。
劇場で2回目を観に行けてたらきっと気が付けてたと思うだけに悔しい。劇場で気が付きたかった。

前半、笑いと勢いのまま、ノンストップで続く中、ストーリーは少しずつシリアスな展開を見せる。佐久間の辞職する理由が、いじめが関係しているらしい。
佐久間がいじめに加担したんじゃないか、だから責任をとらされる。劇中で5人はそう言って笑う。だけど、最後まで見れば、それが本心ではないということが分かる。
彼女たちは、本心を隠していた。
佐久間の言葉に腹を立て、いつしか5人の中で佐久間は「敵」という認識になった。そんな中で、誰かがその本質に気が付いても、言い出すことが出来ない。素直に佐久間を認められない自分もいたかもしれない。でも、5人は佐久間がいて、より結束が強くなった。そんな気がしていたのかもしれない。同調圧力。それに近いものがあった。

そして彼女たちはバカだと言われているけれど、それは知識的なところなんだと分かる。
いじめをしていた生徒がいて、それを叱った佐久間がいて、それに対して文句を言う親が悪いとはっきりと言う。いじめなんかダサいと言う。

佐久間に「ルールを守ることがダサい? そう思う事がダサい」と言われた彼女たちが、いじめはダサいと言い切る。彼女たちの中で、いけない事ははっきりと分かっていると伝わってきた。「ルールを守るなんてダサい」-----これは多くの人が思い、小さな反抗として行動する、行動しやすいこと。程度の大きさはあるとして、一つくらいは誰しも経験があるのではないかと思う。
「いじめはしてはいけません」とは一般的に言われるルール。それを破った生徒をダサいと言う彼女たち。本当は分かっている。普段の言動は少しの反抗。でも佐久間は、その反抗もいいと思っている。ただ、いつまでもするな。ということを伝えたかったのだろう。
今回、彼女たちは高校二年ということが分かる。そして進級がかかっている。
進級するということ、大人になるということ。ルールを破るということがカッコいい。そんなことを言うのは、もう卒業しないといけない。

不愉快な顔をしている者には不愉快なことしかない。佐久間はそういった。だけど、じゃあ、その不愉快になった時、笑顔になるにはどうしたら良いか。それは明言していない。
それは自分たちで考えなさい、いや、もう分かっているのでしょう。そんなメッセージが伺えた。

そんな佐久間の姿は、言葉は悪いけど凄く愛情のある先生に見えた。あれだけはっきりと言ってくれる。彼女たちのレベルに合わせて言ってくれる。
社会に出た時の話が劇中でも出ていたが、社会に出るとレベルの低いものに合わせるのではなく、レベルの高いものに合わせることで、組織のボトムアップに繋がると言われる。低いところに合わせると、高い者たちが窮屈になる。それなら、低いもののレベルを引き上げろ、と。だが、そうなると、彼女たちのように、2点しかとれない者たちは置いていかれてしまう。
そもそも、彼女たちがバカと言われるのはなぜか。進級できないレべルなのはなぜか。それは、どこかでついていけなくなった彼女たちを、そのまま放置してしまった教師がいたから。
教師は生徒を叱らなくても給料を貰える。
時間外で教えること。それは何の得にもならない。もしくは忙しいからと、手が回らないからと、たった数人だからと放置した教師たちがいた。
佐久間の姿は、そんな教師の残した仕事を何とか自分が埋めたい、そんな風にしているように感じた。

真剣にぶつかるのは佐久間だけだった。それは、教師に限ったことだけじゃない。周りの生徒からも、少し距離を置かれていたかもしれない。劇中で生徒会とのやりとりで、「睨まれたことはあるよ」と返されている。そういったところから距離感が出て、彼女たちには関わらないようにしよう。そうなると、誰も本気でぶつかってきてくれない。
それが当たり前だったところに、本気でぶつかる佐久間が出てきて、困惑したものの、でもその温かさに気が付き始めた。そしてそれは、時間のかかる作業でもある。

佐久間が「中途半端でごめん」と謝っていた。時間のかかることだと分かってた。教師の仕事っていうのは、すぐに結果が出るものではない。数年、数十年経って、あの時の先生に感謝ということも少なくない。そしてその時、教師の仕事は報われるのかもしれない。
それを佐久間は分かっていたから、「ごめん」と言う言葉が出た。
そして生徒たちは「先生のいる間に変われずごめん」と最後に言う。その言葉が出る事自体、彼女たちが変わった証拠。周りの事なんか関係ない、しっかりと本気で自分の言葉を発して周りに合わせることなく感情を出せた。

そしてラスト。贈る言葉が流れてフィナーレ。
それで感じた。ああ、今では問題と言われることもある金八先生の物語に似ている。本気でぶつかり合う教師と生徒の姿は、かつて自分も再放送を見てハマった金八先生の雰囲気がある。前述した、教師の仕事は結果がすぐ出ないというのも、金八先生の言葉。
熱血が正しいとも、偉いとも言うわけではない。サラリーマン教師も攻めることはできない。でも、どんな教師に出逢えたかで、大きく変わる人生もあるということを改めて、この作品を観劇して思った。

これから先、贈る言葉を聞いたら、この作品が最初に頭に浮かぶのは間違いないと思う。


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