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朗読劇 リーディングガールズ 感想

4作品の朗読劇。内、2作品はアイガクオンラインのストーリーズで上演されていた作品。
ストーリーズは全ての回を観て、アーカイブでも観ていたので、完全に頭に入っていた。
同じものか、加筆・修正されたものになるのか、そんな楽しみも持ちつつ劇場へ。

最初は「なごり雪」。ストーリーズで上演された作品。
ストーリーズの時は、透佳役だけ制服の色が違っていた。その特別感は今回はなくなり、全員が同じ制服。
透佳役は絃ユリナさん。1年半振りの舞台。そして自分が観るのも2回目。最初に見た舞台で感じた【何か】を再確認する舞台。長かった。
第一声。いつも聞いている声とは違ったトーン。透佳のイメージに近い声。すーっと記憶がよみがえった。

ストーリーズの時とほぼ同じ展開で進んでいく。セリフもほぼ同じ、それでも間の使い方がうまく、台本上の読点、句読点、行間、それぞれを間で言葉として表現して、そして聞き取りやすい。
そしてオリエンテーリングで蒼葉が疲れて休憩をとるシーン。蒼葉が「透佳は道に迷っていない」というセリフの部分、最後に蒼葉の方向へ視線を落とした。
オンラインでは、ここまではっきりとした視線を送った人はいなかったと思う。それもそのはず。大きく話が展開するのはまだ先だから。でも、以前に何度も観ていた身としては、ここで違和感を感じた。

そして屋上での掛け合い。ここはほぼ同じ。ここは安心して観られる中で、それでも4人の関係性がしっかりと描かれる大切なところ。オリエンテーリングとこの屋上でのやりとりにおける変化が、時間の経過と友情が紡がれてきた事が分かる。
そこから、蒼葉と透佳の2人のシーンに推移するわけだが、ここで決定的にストーリーズの時と変わるのがわかる。
透佳自身が「1年だけ」というからだ。

このシーン結構好きだった。特に、黙って横にいるだけだった、というところがあって、その時間が好きだった。蒼葉の辛い過去を聞いて、その上で隣に黙っている。それを蒼葉も嫌がってない。心地よいようすら感じ取れた。それができるのは、本当に心が繋がっているという象徴でもあったから。そしてストーリーズでは、透佳自身もこの時は自分の事を分かっていたかどうかということだった。
そこから、透佳は姿を消し、他の3人にのみ、透佳の記憶は残る。任務で傷ついた心をいやすために高校生として送り込まれた、3人との時間が楽しすぎて記憶を消せなかったことから、その後、蒼葉の「2度と会えなくても覚えていたい」とか紫央梨の男前発言とかあったのやりとりが好きで、それで最後、別れていくことになるけど、凄く好きな展開だった。
その時は透佳の傷ついた任務が気になったくらいで、時間があればそこを掘り下げて欲しかったと思ったくらい。

でも、今回は、再び事故に遭う蒼葉を救うため、時間操作をして助けるという展開になった。はっきりとは描かれていなかったけど、透佳は最初から自分のことを知っていた可能性が高い。そうなった場合、透佳自身、ストーリーズの時と大きく変わる。

自分にある期限を知らずに友達つくりをするのと、1年と分かっていて友達つくりをするのとでは、心情的に変わるのではないか。入学式、3年間を思い描くのと、1年で終わりを迎えるとわかっていたらどうなのだろう。
これは未来に戻る期限だった。高校生として過ごすという、それこそが任務だったのかもしれない。任務として高校生活を送ること、どれだけうまくやろうとしても、知らないで純粋な気持ちとは違うのではないか。
ストーリーズの時の透佳は、まさに透明な心を持った明るくムードメーカーとなっていた。それが少し見方が変わった。
そして最後にそう気が付いた時、その視点でもう一度、ユリナさんの演技を観たいと思った。今回、割と情報解禁が公演日と近かったので、すでに予定が埋まっていて一回しか行けなかった。悔しいと思っていたところ、アーカイブが配信されるらしいので、それでもう一回、確認してみたいと思う。
しかし、なごり雪は好きな作品だったので、ちょっと長くなってしまった。どちらがいいというには、あまりにストーリーズの方を回数見ているのでどうしてもそちらよりになってしまった。今回のものも好きになるには、もっと回数観たい。

2本目は月の光。
大正時代の幽霊、星野月子を演じた石川凜果。今回の衣装、短くなった髪型を見て、明治とか大正の和装も似合いそうだよなあと思っていたら、大正時代の幽霊の役。なんか納得。
最近、カッコよい役とかしっかりした役ばかり観ていたので、少し印象が違う役。
コメディっぽい要素のある作品でも、真面目な役があてられることが多く、そんなイメージが定着していたので、今回、凄く貴重だなと思った。
作品は花梨さんとほぼ二人芝居で進み、この2人の掛け合い、どんな雰囲気になるのかと思っていたら面白い。2人とも多くの経験値もあるだろうし、テンポも良く楽しい。

テンポも良いと書いたが、他の作品がゆったりとした時間が流れ、ホロリと来るような話の中、この作品だけは物凄い速度でキャッチボールしているかのような感じ。改めて台本でセリフを見ても、その疾走感が出てる。「テレビなかったの? 電話もないの? でもコタツはあった? なんか分かんないけどすごいね」って、このセリフだけでも置いていかれそうな。そしてご来光へのくだりと行くけど、いや、このあたりだけ見たら、とてもヒカリがひきこもりだなんて思えない。
そしてそこから唐突に、引きこもりの原因になった出来事が語られる。そしてこれもサラっと。
彼女は視線に苦しんだ。リアルの視線。SNSでの誹謗中傷という最近のものではない。それは昔から人間が持ち続ける「悪い顔」。
相手をさげすみ、優越感に浸る。子役やってていい思いしたんだろ。落ちぶれたな、ざまあみろ。そんな視線だろうか。
人の妬み・嫉妬は、現実でもネットの世界でも小さな種になる。そしてそれはちょっとしたきっかけで突然芽を出し、他者へと向けられる。視線が怖い。
劇中、ヒカリは明るく元気だからこそそうは見えないが、それは物凄い恐怖。でも、共感できる人はあれだけの説明でも凄く共感し、そしてそれでもあれだけの明るさを見せるヒカリの姿に元気を貰えるのではないか。そう感じた。
そしてツキコ。
作家になりたかった事が心残りという。ツキコがなくなった理由は明かされなかった。関東大震災は生まれる前の年、そうなると病気か事故か。
空地の地縛霊ということを考えると、あの空き地が家だったか、そこで事件か事故に巻き込まれたのか。
そしてここでずっと現代まで幽霊として生きてきた。その場から動けないとしたら、その空地は空き地ではなかった時もあっただろう。それなのに、この空き地に家が建つことが終焉のように表現されている。ツキコの方にもドラマがある。それでもツキコの方は何も表現しない。聴き手に想像する楽しみをくれている。

そして「あれ、キママって出てくるんじゃないの?」って思ってたら、まさかの着ぐるみで須山朱里さん登場。朗読劇だと思って、聴くことに集中していたら、この作品の目玉を見逃すところだった。物語の終焉が見えてきたところで、まさかの着ぐるみキママ。いや、着ぐるみと言ってはいけないのだけど。
そしてこのキママがまた男前なセリフ。かっこよすぎる猫。このセリフには力がいる。命を持った言葉としないといけない。
なぜなら、ここから別れが続くからだ。
ツキコは成仏。
ヒカリはひきこもった自分。
そしてキママ。
最後に訪れる別れと新たな道に進むため、そのために背中を押すのがキママ。
そうなると、須山さんがキママということは納得。あの力強い声は、背中を押す声にピッタリ。不思議と勇気が沸いてくる。格好に騙されたけど、言葉の一つ一つはしっかりと心に刺さった。

3本目はメモリーレコード。
これもオンラインで何度も観た作品。この作品は玲紋と笑美が演じる人によってイメージが変わる印象。
須山さんは笑美役もやっていたかなあと思っていながら観ていた。そして気が付いた。須山さんはアンドロイドに見えないって。ストーリー上、アンドロイドに見えてはいけないのだけど、凄く人間らしくて、アンドロイドでしたって言われても、ウソでしょって喰い気味に言いたくなるくらい。オンラインの時は、電池が切れたような表現があって、それはそれで分かりやすくて良かった。でももしもう少し先の未来であれば、本当にそうだとしたら、停止の仕方も人間らしいのがいいのではないかと思った。
そして一番の違いを考えてみた時、それは目じゃないかと思った。
アンドロイドで停止した時、それは目が一番わかりやすい。目の動きは表現できても、目に宿る光はやはり人間特有のものがある。
須山さんの場合は、特にそれが強いから、未来型のアンドロイド、より人に近いものになっていると思う。あと何より、須山さんの姿で事切れる姿があまり想像できないというのがあるかな。なんせ、笑顔のイメージだから。そういう意味では、まさに笑美という名前はふさわしい。
オンラインでのなごり雪で、蒼葉を演じていたけど、凄く好きだった。笑顔の少ない蒼葉が笑顔で溢れていく姿を演じているのは良かった。
そんなことを考えた時、とても人間味の溢れる、人間臭い役で観てみたいと思った。例えばと言われたら困るのだけど、何となく頭の中にイメージはある。
そんな役を演じた時、「ああ、人ってやっぱりいいな。人と人とのつながりっていいな」ってそんな風に思わせてくれる演技をしてくれそうな気がする。

4本目は、唯一度だけ
高校の同級生で、社会人になっても関係性が続く、それも1年に決まった行事として続けられる。そんな関係性は、長い年月を重ねれれば薄れていく。
観る人が歳を重ねているほど、その事を分かる人は多いかもしれない。卒業してしばらく決まったメンバーで飲み会してて、一人これなくなって、また一人。やがて、会もなくなってしまう・・・。ましてやコロナ禍の今、これが原因でそういうものを中止して、もしかしたら、このまま流れてしまう。そんな風に感じた人もいるかもしれない。

そんな人間の心をつく作品だった。
この3人はまだ26歳。高校卒業して8年ほど。台本を見ると、二湖がクラス委員、零華が目立つ存在、七海が目立たない存在。零華と七海は、普通に考えると正反対にグループに属していて、その中間の存在として二湖という感じがする。それでも仲が良さそうな三人。
しかしそこに、冒頭の「嘘」の話。何かあるのではと邪推する。
そして占いをしてもらうかどうかの場面では、意見が食い違う。

零華は頑なに占いを拒否する。勝手にあたるが占った結果も聞こうとしない。目立つ存在だったというだけあって、強気なのだけれど、何かあるのかと思うほどに拒否する。
零華を演じていたのは石川凜果さんだったけど、こういう役は本当に似合う。儚げな役が似合いそうなビジュアルと声なんだけど、こういう役の時になるとまた違った雰囲気になる。
いつもはただ聞いていて心地よいステキな声なんだけど、しっかりとした役、強気な役などになると、その声の印象が変わり、切れ味の良い言霊になる。最短距離で相手の急所を貫くような感じ。そういうセリフを言わせると凄くハマる。
結果、仕事に悩んでいたということが分かり、そこで零華の心の弱さが見え始める。折れ始めた心も見える。
特に、「アナウンサースクールで一緒だった子がテレビに映る度に・・」という部分。
零華は目立つ存在で、輪の中心にいるような人間。それが学校を出たら、うまくいかない。学校とは目立つ種類が違う。そして挫折を味わう。自分の希望の仕事に就いたのならなおさら。せっかくスタートラインに立ったのに、どんどん先を行かれ、置いていかれる。希望の仕事だからこそ、言い訳ができない。周囲からはまさに劇中でもある通り、「希望の仕事につけて良かったね」と言われる。
そんな葛藤を抱える頃。占いは良い結果だけいうわけではない。それが怖かったのだろうとは思う。
そしてこのセリフ。これはまさに演じている役者さんたちも感じていることなのかもしれないと思ったら、余計にその重みを感じた。
普通の会社員でも同期が出世しただとのあるけれど、それでも一定の居場所はある。よほどの事がないとなくならない。アナウンサーも会社員と言えるかもしれないが、アナウンサーの仕事ではない仕事を任されたら、それは夢を断たれたとの同じ。
役者業も同じような苦悩を抱えて、苦しみ、葛藤するんじゃないか。そんなことが頭をよぎった時、このセリフに対する想いは、我々よりもより強く、他のセリフに比べて重みが違うんじゃないかと感じた。


他の作品からも、人はいつどうなるか分からない、今を一生懸命生きようというメッセージが伝わってくるが、それが最後の作品ではより直接的に、「死」をイメージさせることで抽象的なものから具現化されたものになる。

唯一つだけのウソ。でももしかしたら、このウソのおかげで、彼女は来年、昔ながらのスパゲティを紅来られるのではないか。そう感じた。
最後に水難の占いが当たったのは皮肉めいているが、彼女の占いが当たるのはこれで最後にして、旅行は最後にならないでほしい。
いや、そうか。
あの占いはウソで作られたものか。本気で占った時の結果知りたい。そう感じた。

オンラインの時でも満足度は高かったけど、今回、劇場で観ることでそれを超えてきた。
こんなご時勢ではあるから仕方ないのだけれど、情報解禁がもう少し早かったら、間違いなく複数回行っていたと思う。
今度は、コロナ渦で荒んでしまった人々をテーマに、でも人の心と心のつながりを今回の作品の様に綺麗に描いてほしい。それらを観る・聴くことで、疲れた心もきっと修復される。
そんな朗読劇をまた開催してほしい。切にそう願う。


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