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演劇「フェザーズ ~ショートストーリーズ~」感想

ホームセンターズピリオド

1本目がバスケットボールチームに対し、ガラッと変わる物語。テーマも命がかかわり、少し大人のコメディと感じられる作品。

やる気のないような案内をしているところから始まる。いそうな店員と言えばそれまでだが、そこに練炭200KGを買い求める異常な客が訪れる。
一気に目が覚めたようになり、物語は動く。
オープニングの暗さ。やる気のなさ、飛び込んできた客の暗さ、嵐の前の静けさ、色々なものを表現しているかのように感じた。

ホームセンター。今は複合ショッピング施設のように品ぞろえが豊富。練炭どころか、刃物も売ってる。毒劇の販売許可もあるだろう。道具は、人がどう使うかで変わる。
練炭も自殺に使うために売っているわけではないし、販売した練炭で自殺をされたからと言って、店側に責任を問うのは酷だ。
でも、今回は200kg。普通じゃない。明らかに怪しい。そして動き出すホームセンターの店員(プラス警備員)たち。

普通に見たら、知らなかったで通しても良さそうなものだが、劇中に自殺ほう助という言葉が出てくる。確かに量が異常とは言え、厳しすぎる気もする。
ただ、彼女たちを突き動かしたのは、自殺ほう助の罪に問われるから、ではなく、結局、人を死なせたくないという優しさからではないか。そう考えると、彼女たちは皆魅力的に見えてくるし、なにより、演じている人たちがそう見えるように役をつくっていた気がした。

A・Bチームともに、何度もみたことのある人たちが多い。バスケットボールダイアリーズは、バスケチームという性質上、若い人たちで固まっている印象だが、ホームセンターという場になると、色々な年代の人がいて当然。楽しみで仕方がなかった。

今回、一番楽しみだったのは、稲葉麻由子さんだった。落ち着いた雰囲気を見せているものの、演技をすると色々な特徴的な役もこなす。固定されたイメージの役というものがない感じがする。
今回は、コメディということもあるが、非常に騒がしくも、経験豊富な店員としてアドバイスもできる役。こういう役を演じる時、麻由子さんの言葉はテンポが良い。間のとり方も巧く、四方八方へから飛んでくる矢もどんどん捌いていく感じ。
観劇後に、麻由子さんを他の役で観たいとしたら、と考えた時、真っ先に浮かんだのは美鶴だった。その佇まいには華がある麻由子さんが、どうやって華やかさを消し、どこまで暗さを表現するか。コメディ作品であるから、そこまでの暗さではなく、生きていく元気あるじゃないかと思わせるものもある。相反するような二つのものを背負う役は、麻由子さんの真骨頂。そんな気がする。
まあ、黒い服を着ると、だいぶ気品あふれてしまうのも知っているが面白い美鶴になった気がする。

Aチームでは、結城美優さんの凄さを改めて感じた。
RAVE塾での活躍も記憶にある中、今回の綾乃役。RAVE塾では、毎回のように声を張り上げ、とにかくやりたい放題、腹黒いような役が多いが、UDA☆MAPなど他の団体さんでは、ガラッと雰囲気が変わる。
でもどの舞台でも、とにかく凄く声が響く。脳に響く。記憶に残る。それでいて、なんと聞きやすい。声を張り上げるような役でも、「よく聞き取れなかった」がないのが、結城美優さん。凄く元気なイメージがあるけれど、静かな雰囲気の中で行なう朗読劇を観たいと思った。過去に朗読劇への出演があるみたいだが、また機会があれば観てみたい。
思えば、一番最初に観たクォーツで注目していたけれど、最近は特に精力的に舞台出演が多く、アフタートークなどで観る姿も魅力的。ついついブロマイドなんかも買ってしまう。
いつか会う機会が出来たら、今更だけど会って話がしてみたいと思う。
それだけ、忘れられない存在になってきているなと感じる。

そして馬渡直子さん。この人は、毎回、魅せてくれる。
稲葉麻由子さんと久しぶりの共演というのも楽しみだったけど、あまり絡みもなく。
それでもやはり独特の雰囲気をまとい、万引き主婦とのやりとりはクスクスと笑ってしまう。馬渡さんは、最後に全てがひっくり変えるような役を演じる時、最後はその姿にゾクッとさせられるが、今回は純粋に漫才のようなやりとりを楽しむことが出来た。

今回、一番好きなキャラクターは、長谷川麻由さん演じる高倉詩音だった。夢月さんが演じるのも良かったのだが、よりぶっとんだ感じに見えてしまった。夢月さんの時は、こんなだったっけ?  と思うほど。
長谷川麻由さんはのファーストインプレッションは、真約・魔銃ドナーでのコートニーでのカッコ良さで、その後も色々な作品でその姿をみたが、やはりその印象が残っていたからなのかもしれない。はせまゆさんとは何回か会ったけど、話しやすい人だったのを覚えている。その後、コロナで面会中止とかになったけど、改めて好きになった。
その役のイメージで観てしまうということは、それだけハマり役と思わせるだけのものを創り上げているという事。違和感が一つもなく、1人の人間を創り上げる。その幅が広く深い。これからまた注目していきたい。

物語は、練炭での集団自殺というところから、学校での教師いじめへと提起される問題が変わっていく。そして体育館での集団殺人かというところまで話が飛んでいく。
もし実行されていたら、間違いなく歴史に残る惨劇だった。寒気を覚える。
それをコメディで笑わせながら、伏線が張り巡らせながら、細い糸が絡んでいく。
大量殺人を止めた綾乃は、まさに救世主と言える。
だけど、綾乃が救世主となれたのは、その優しさがあったから。壮絶な過去は大きな痛みのはず。普通であれば、それこそ自殺していてもおかしくない。
自殺に一番近い人間が、自殺をしないで真っすぐに生きている。

その綾乃が優しいのは、痛みを知っているからではない。
痛みを知った綾乃に、手を差し伸べた紀美子がいたからだ。酷いあだ名で呼ばれる中、名前で呼んでもらえるということがどれだけ嬉しいか。
綾乃の優しさが、紀美子を優しくし、その優しさがまた綾乃を救った。そして、その時に育まれた友情が元に戻ったのは、また優しさだった。
優しさは連鎖する。連鎖していくことで、人と人とを繋ぐ。差し伸べた手をすぐにとってくれるとは限らない。でも、差し伸べてくれたことは心に残り、長い時を経て、忘れたころにその手をとるかもしれない。それは優しさが紡ぐ奇跡なのだろう。

手を差し伸べる勇気と優しさがあったら、誰かを救うことが出来るのかもしれない。
そして救われた人にとっては、その人は救世主に他ならない。
今、こういう世の中だからこそ、一人一人が手を差し伸べることができれば、もっと楽しい世界になるのではないか。そんな風に考えさせられる作品でした。


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