フリーライティング#11 雨を抱く
【フリーライティング#11】
2023/5/20 a.m. 10 min.
昨日の雨の激しさは久方ぶりだったように思う。街角で強く降られて広げたのは、数年前に東急ハンズで購入した「風に強い」傘だ。スーツ着用の男性を想定した無機質なデザインで、丈夫さ以外には愛着要素の少ない代物だった。
その傘がふと優しい音を鳴らし始め、心底から驚いた。決して穏やかでない雨粒の連打音が、わずかな丸みをもって感じられたのだ。昨年まではもっと硬質な音だったはず。なかった音が突如現れた。そのことを持ち主のメンタリティの問題に帰することもできるが、そればかりでは少し寂しいではないか。
手がハンドルを求め、ハンドルが持ち主の手を求めるように、生地も雨を求めて抱擁したのだろうか。だとしたらなかなかにドラマティックな瞬間に立ち会えたものだ。
しかしこの後、僕は再び熱にうなされたのだった。
ご支援頂いたお気持ちの分、作品に昇華したいと思います！