見出し画像

【詩】次元キャンバス


 「次元キャンバス」

 わた菓子を連ねたような林だ

 毎朝 差し込まれるわずかな時間

 視界の水平120°に手を広げ

 意識と向き合う 静かな林だ

 わたしはその奥行きを未だ知らず

 ましてや 時の奥行きまで知るすべもなく

 それは遠いキャンバスに描かれた

 小さな樹海の油絵に過ぎないのか


 ふと 林の手前で

 青田に隠れて青鷺のこうべが揺れた

 林を見つめる後ろ姿は 心細そうだが

 妙に太々しいところもあり

 にわかに問いただしてみたくなった

 おまえとわたしと
   どちらが先にここに来たのか

 おまえとわたしと
   どちらが先にここを去るのか

 ──しかし鷺には見向きもされない


 そうだ 在りし日のこと

 朝靄の密林に舞い込んできた

 一羽の雉の鮮やかさが

 倦怠に飲まれていた幼児の心に

 ほのかな体温を灯したのだった

 わたしは 生きるのだ これからも

 分け隔てられることのなかった

   時間の続きを

 雉と鷺のあいだにずっとあった

   いのちの続きを


  〈after poetry〉

  鷺の羽ばたきに林がさざめく
  深い緑に光の隆起と畝を刻んで
  緑陰の点描をあまねく落としていった
  まだ足りないと言わんばかりの
  烈しく絶え間ない筆つき!
  おのおのが描き描かれ続ける世界だ
  今こそノスタルジアの名を剥がす時


#詩 #ポエム  #エッセイ

ご支援頂いたお気持ちの分、作品に昇華したいと思います!