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メルヘンとファンタジー【エッセイ】

山梨県を観光した際、河口湖木ノ花美術館という場所に惹かれて足を運びました。絵本作家・池田あきこさんの描く不思議な世界を五感で楽しむ美術館、と銘打っています。
皆さま「ねこのダヤン」ってご存知でしょうか?

この子。ファンタジー小説・絵本のキャラクターです。革製品や文具が全国で売られているので、見たことある人というは少なくないのではないでしょうか。小窓から覗いているのはダヤン仲間たち。

めいっぱいミモザを抱えるダヤン。展示されていた絵があまりに素敵で、気づいたら手帳を手に取っていました。館内はわちふぃーるどにまつわる絵画、フィギュア、ジオラマ、オブジェなどで溢れ返っています。それほど広い建物ではありませんが、作品数が多いのでゆっくり観ようとしたらそれなりの時間が必要です。

さて、ダヤンの住むのは「わちふぃーるど」という地球とは別の世界。元々は地球の一部であった世界があるとき切り離され、ゆっくりとした時間の流れの中で存続しているのです。分離のきっかけとなったのは神々と巨人族との激しい戦いでした。国土を荒らされることを恐れた雪の神が「わちふぃーるど」を守るためにそうしたのです。ダヤンは元々地球の猫でしたが、雪の魔法によりこの世界にやってきて、暮らすようになったとのことです(公式HPを参照)

かわいらしいキャラクターや牧歌的世界観とは裏腹に、背景には惨烈な神々の戦争があったのですね。美術館に足を運んで初めて知ったこの世界設定は、個人的にかなり印象的だったのでした。ファンタジーやメルヘンの技法が重層的に用いられることに興味を惹かれたのです。

お作法の話をするのは野暮と承知の上ですが、古典ファンタジーには3つの類型があるとされています。それぞれの型は代表作の名をつけて呼ばれているので分かりやすいです。
①指輪物語型:描かれる世界の全てが異世界
②ナルニア型:現実世界とは別に並行する異世界があり、2つの世界を繋ぐパイプが存在する
③トトロ型:現実世界の内部に含まれる形で異世界が点在している

一方でメルヘンとは、狭義には、空想的な文学(つまりファンタジー)のうちで汎神論的、牧歌的な世界観を物語背景にしたものです。メルヘンとファンタジーの境界を引くのは難しいと思いますが、ある人が「手続き」の概念で説明していました。ファンタジーは背景世界を成立させるための手続きが必要、一方でメルヘンはその手続きが不要、とのことです。自分なりの解釈だと、ウサギとカメが話していることに説明が必要になってくるのがファンタジーで、説明なく受け入れられるものがメルヘン、といった感じでしょうか。

もともと神話世界の内部にあった「わちふぃーるど」が切り離されて並行世界となり、私たちにはメルヘンとして届く。な、なんか凄いぞ。ファンタジー・メルヘンの全部乗せや!と感動に打ち震えたわけです。分析的に見てしまうのは無粋の極みですが(大人ってこれだから……)これまで「わちふぃーるど」に感じていた名状しがたい魅力、没入感の成因がよく分かった気がするのです。人々を魅了する作品の背景には並々ならぬ試行や思案があるのだと思います。

こうしてファンタジーとメルヘンのことを考えていると「では神話はどういうものだろうか?」という問いに行き着きます。人間界の自然・超自然の事象を、神々の世界の比喩で語る。そういった二重写しの技法だけでなく、現実との関係について、もっと様々な型や作法が散りばめられていそうです。多くの神話は寄せ集めです。編者や後世の語り部がどのような手続きをとったか、そういった内容とは違う方向からのアプローチも面白そうです。

取り留めもなく失礼しました。

*写真商品の著作権は株式会社わちふぃーるどに属しますので、複製や無断転載などはお控えください

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