フリーライティング#20 花と窓
【フリーライティング#20】
2023/8/15 p.m. 15 min.
「iPhoneのストレージがいっぱいです」のメッセージが煩わしかった。脳のメモリを肩代わりしてもらってるにもかかわらず。文句を垂れている自分を恥じて不要なアプリや写真を消し始めるまで、少々の時間が要った。
そんな中で見つけた、3年前の春に撮った花の写真。通勤路に一本だけ立つ中背の樹に咲いていたものだ。
通るたびにその鮮やかさに目を奪われるものだから、事故を起こす前に写真に収めようとして停車して撮ったのがこれだ。
花の名前を知りたくてnoteに投稿したところ、親切な方がすぐに「菊桃ですよ」と教えてくれた。
……不思議なことに、翌年以降、この花は咲いていない。実際には、咲いているのを見ていない。この時期にこの道を通っていないはずがないのに、どうしても菊桃の花を見た経験を記憶から取り出せないのだ。
まるで「世にも奇妙な物語」の世界に迷い込んだかのようだ。
僕は認知も記憶も「窓」だと思っている。世界に対して開いている時と閉ざしている時がある。個別の対象に対して開いている時と閉ざしている時がある。一方で、世界の事象が自分に対して開いている時と閉ざしている時もあったりする。
菊桃の花が僕に対して窓を閉ざしている。そうとしか考えられないような、花をつけない3年間があった。来年こそは見てやろうと思うのだが、その窓はヒトの意思で開け閉めできるようなものではない気もする。来年の春を乞うご期待。
もしかしたら、悪徳企業が除草剤を撒いたりしたのかもしれない。笑 だとしたら、この写真は最後の開花としてとても貴重なものだ。ストレージがいっぱいだからといって、迂闊に削除してはいけない。
結局、削除するのは、スクショ画像や、備忘のための書類の転写になってくる。花の写真は決して消すものではない。「たまたま」両者の開かれた窓越しに撮られたものなのだから。
ご支援頂いたお気持ちの分、作品に昇華したいと思います!