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【詩】 安息池

  

  ダム見つけたよ
  こんな大きなダム
  どこに隠れていたのだろうか
  側壁に這う蔦に埋もれて
  蛇口がひとつ
  ひとつだけ
  え、こんなんじゃダメだよね?
  「洪水吐」を探さなくては

  観測を任せた鷹は
  帰ってこない
  ビキニの美女は
  端からいない
  永遠の疲労

  歩けども、歩けども
  ない、ない
  ダムというより
  壺みたいだな
  放水などできるのだろうか
  溢れるのをただ待つのだろうか
  ない、はずはない
  歩けども、歩けども

  やっぱり
  この小さな蛇口ひとつだけか
  キュッキュッキュ
  チョロチョロ
  口径半分にも満たない水流
  どこか詰まっているのだろう

  喉が乾いて
  変若水(おちみず)を口に含んでみると
  錆と落葉の味がする
  いま僕に分かるのは
  この味くらい
  案じるのは
  どれだけ水が貯まっていたか
  だというのにね

  側壁にもたれかかる
  森林と青空にピントが合う
  遠くに一羽、鷹の鳴き声
  役立たず
  お前はずっと自由でいろよ!
  ところでさ、ビキニの美女は
  まだ来ないかな

  チョロチョロ
  チョロチョロ
  じれったいな
  チョロチョロ
  チョロ いったい
  何しているんだろう
  ……僕は

  水は細筆で地図を描くという
  薄墨で取説を印刷するという
  けれど午睡には塗りつぶされる

  落葉はいつか
  消え去るだろうか
  頑張れよ、プランクトンたち
  錆が蛇口を塞ぐのが先か
  勝負
  人が勝手にこしらえた争い
  何もかもは
  自然の摂理で動くだけなのに
  ……僕だけは

  ここに座っている
  か細い水音
  聞き漏らさずに
  蔦もいつかはこの身に纏うかな
  永遠の安息
  永遠の安息
  元からダムとは一体だった



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