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1年半待ちの貸し出し

忘れていた。
流行病に倒れていたころ、1通のメールが届いた。
約1年半前に区立図書館で予約した沢木耕太郎の新作「天路の旅人」。
ようやく私にも貸出の順番が回って来たらしい。

2024年の目標の一つに読書を月2冊する!と掲げたような。

毎朝新聞は読んでいるものの、書籍の読書については1月実績0冊だった。
1冊では不足だが、救いの神であることには間違いない。
500ページ超の大作を読もうと、病も完治した1月末に図書館へ赴き受け取った。

面白かった。
一人旅人のはしくれとしては、到底真似できない「密偵」だが、西川一三さんの朴訥さと気持ちのムラがない人間味が尊く、読み進めるたびに強く惹かれてしまった。

地図に1枚の写真に収まるが、行程に費やした8年の記録は膨大だ

400ページを過ぎたあたりから、特に感情移入している自分に気づいた。
中でもこの箇所が印象に残っている。

かつてバルタンとチベット国内で托鉢したときは「お恵みを」と言いながら家々の前に立った。だが、ただ恵んでもらうだけの存在にはなりたくなかった。できれば、こちらからも、何かを返したい。そのとき頭に浮かんだのが御詠歌だった。せめて詠歌くらいはうたえるようになり、金や食べ物を恵んでくれる人たちにその調べを聞いてもらえるようになりたい。
西川は、火葬場の老修道層について、御詠歌がうたえるようになるまで修行したいと思ったのだ。

「天路の旅人」

一方的な施しや憐れみではなく、堂々と対価を得たい。
そんな西川さんの姿勢に共感できた。
そして、自分も異国で「生きる術」を身に付けるためには、一体、何ができるのか。
文章を読みながらも、頭の片隅ではそのことばかり考えていた。

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