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ラブレター

妻と初めてコンタクトを取ったのはミクシィだ。今では廃れてしまったが、当時は若者たちのコミュニケーションツールとして盛り上がっていた。招待制だったのもすごく良かったし、コミュニティというのもあって、同じ趣味の人同士が出会いやすかったのも良かったと思う。全盛期は2007から10年くらいなのかな?懐かしい日々である。

2006年に大学を卒業し、夜勤のコンビニのバイトをしていた07年の夏頃のことだ。マイミク申請が知らない女性から来た。これが後の妻だ。もともと東京に住んでいる人で、大阪へ旅行に来ていたとき、急にライブが見たくなり、たまたまやっていたイベントに来たらしい。そこで初めて僕らのバンドのライブを見て一発で好きになったということだ。

彼女とはミクシィなるネット上で、日記を読みあってコメントを残したり、なんとなく繋がっていた関係で顔も知らなかった。友達づてとか、バイトが一緒とかそういうものでもなかった。赤の他人がふとしたタイミングで繋がったのだ。

でもこれがきっかけで付き合い、東京と大阪の遠距離恋愛の後、彼女が大阪に来て約4年同棲、それから2人で東京へ移住しすぐ入籍結婚、3年後には娘が生まれるなど、ドラマが生まれるなんて思ってもみなかった。人生分からないなと思う。

まだ付き合ってはいないときの初めてのデートが印象的で楽しかったので、よく覚えている。朝に新宿で待ち合わせし、途中と最後は食事もしたが、葛飾の寅さん記念館、浅草の花やしき、お台場のフジテレビを周った。3月のちょうど今頃だと思う。小春日和で気持ちいい日だった。寅さん記念館も花やしきも、くだらなくて楽しくてずっと笑っていた。が、僕は準備していたものもあって、少し緊張していた。

実は彼女と初めて話したのが、その1カ月前の2月の渋谷でのライブのときで(ちなみに3月のデートもライブの前日だ。)、翌日に吉祥寺の井の頭公園の近くのオシャレな居酒屋さんで2人でご飯を食べた。「かわいいし話しやすいな、この娘のこと好きだな」と単純に思った。そして来月また遊ぼうと約束した。帰りしな、新宿の西口のバス乗り場まで送ってくれてバイバイした。すごい淋しい気持ちになって、次のときには告白しようと思った。

家に帰ってから、次のデートの行く場所を決めるという話になり、あーだこーだ話してたら、寅さん記念館、花やしき、フジテレビになった。場所はなぜこう決まったのかは今は覚えていないが、とにかく楽しみでウキウキした。

同時進行で僕は告白する準備を一人でしていて、最初で最後のラブレターを書いていた。直接ドーンと渡すのも恥ずかしいから方法を考えた。小学生のころから好きだった作品で、絵本作家のアーノルドローベルのカエルくんとガマくんが出てくる絵本の「ふたりはいつも」に、ラブレターを挟んだ。

さて、話はデートの日に戻る。デート終盤あたり、ご飯も酒も飲んだので酔っ払ってしまったが、案外シラフの自分もいた。新宿駅で、あれは渡さなきゃダメだ、と思い、フィッシュマンズの空中キャンプのCD-Rと例の絵本を強引に渡した。彼女は何も気づかず嬉しそうに受け取ってくれた。とりあえず今日の目標はクリアしたなと安堵した。そしてそのままバイバイした。

そして次の日の朝、メールが来た。彼女からだ。「手紙読みました。よろしくお願いします」という文面だった。その時、神奈川県に住んでいる友達の家に泊めさせてもらっていたので、恋人ができたとリアルタイムで友達には伝えた。恋人が生まれてから一度もできたことない奴に恋人ができたんだぜ。めちゃくちゃ驚いていた。

それが24歳の春だ。もうそんなに前なんだな。でも変わらず妻のことは好きだなと思う。ベタベタしたりするのは恥ずかしくなってしまったけれどね。

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