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読む、れもんらいふデザイン塾vol.9【森永邦彦】

センス・オブ・ワンダー

人が感動する時、その手前にはいつも「驚き」が隠されている。アンリアレイジは、常に人が心を動かす〝きっかけ〟をデザインしている。目に見える形で、あるいは、目に見えない領域で。それは旧来の「服をデザインする」という概念を塗り替える。

美しいものを美しいと感じる感覚、新しいものや未知なものにふれたときの感激、思いやり、憐れみ、賛嘆や愛情などのさまざまな形の感情がひとたびよびさまされると、次はその対象となるものについてもっとよく知りたいと思うようになります。

(レイチェル・カーソン著『センス・オブ・ワンダー』 訳:上遠恵子)


感覚の発露。それは細部に宿った神の仕業。ファッション・デザイナー森永邦彦がデザインするのは「服」がまとうセンス・オブ・ワンダーである。


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こんにちは、嶋津亮太です。今回はファッション・デザイナー、森永邦彦さんの講義です。

アンリアレイジは、ファッションとテクノロジーの融合によって僕たちを別世界へと連れて行ってくれます。それは、服の可能性だけでなく、ライフスタイルの可能性を暗示します。脳内の空白を想像力で満たし、体験した者のクリエイティビティを促します。

ファッションによって、行動を変え、創造を促す力。装飾というデザインを超えた「デザイン」がそこにはあります。このデザイン塾を通して一貫すること。それは、魅力的なクリエイターは共通して概念をアップデートさせています。右のものを左にずらすという表現の調整ではありません。または、表現の進化でもありません。

僕がれもんらいふデザイン塾を通して学んだことは、表現の新たな意味を提示することです。

そして、森永さんの講義にも、そのエッセンスが散りばめられていました。それではお楽しみください。


※当レポートの写真は伏見歴堂さん


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ANREALAGE

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日常と非日常と時代をコンセプトにしています。AとZを重ねたロゴデザイン。対極なものを交えた時にファンタジーが起こるのではないかと思っています。

ANREALAGE(アンリアレイジ)というのは、ANREALAGEとは、A REAL(日常)、UN REAL(非日常)、AGE(時代)をミックスした造語である。ミース・ファン・デル・ローエの「神は細部に宿る」を創作信念としている。


森永
アンリアレイジは2003年───僕が大学卒業後、23歳の時につくったブランドです。今年で17年目になります。

僕たちは「日常」、「非日常」とよく言うのですが、日常というのは洋服の当たり前だとずっと捉えていて。その「洋服にとって当たり前のこと」を少しずつ揺るがしていこうということがテーマのつくり方になっています。

千原
パリに行ってからと、その前とでは大きく変わったことはありますか?

森永
パリに行った後の創作の姿勢は変わりません。でも、東京コレクションの時には届かない人へ、コレクションを見てもらうことができるようになり、出会う人もグローバルになっています。そこからファッションではない企業と関わる仕事も増えています。

世界に行って、自分たちの洋服をたくさん売るという魅力はもちろんあるのですが、それ以上に洋服がいろんな人を繋げてくれる可能性が広がりました。

千原
テーマに合わせて、新しいテクノロジーを使用したり、単純に「服を着る」ということだけではないおもしろさがある。「服」に対する新しい解釈を提示するコレクションをされていますよね。「着る」だけじゃない、エキシビジョンがたくさんあるというのは、アートとしての感覚のようなものがアンリアレイジにはありますよね。

森永
売上規模で勝てないブランドはたくさんあります。ですので、そこではないポイントで闘うという軸を置きはじめています。言うまでもなく「売る」ということは重要なのですが。


このレポートを読んでいる人の中にはアンリアレイジのファッションを知らない人もいるかもしれない。ここで、5つのコンセプト(COLOR、REFLECT、BODY、SENSE、SUSTINABLE)のもとにつくられた服を紹介する。


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COLOR

森永
一つ、「色」というのは重要で。まさに今回フェンディ(2020-21年秋冬ミラノメンズコレクション)でやっていることです。簡単にいうと環境で色が変わる洋服なのですが、室内でいる時と外に出た時で色が変わります。太陽光の下では色が変化する。

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光が当たっている部分が可視化されるので、普段は襟の裏や腕の裏など、光が当たらない部分がある───つまり、洋服には常に光と影ができているというのを感じとることができます。

太陽の成分というのは、時期と場所によって異なります。ですので、今、水色っぽく見えている「青」が異なる季節の異なる国では、より濃厚な青になったり、赤みを帯びた青になったりします。基本的には「色の概念自体を持たない洋服」というのが、この服の特徴です。

光がなくなるとまた白に戻ります。こういうことが僕たちの日常と非日常、二つの状態が一緒になっているということです。

そこから技術がアップデートされ、今ではダークな色やチェックのような柄を出せることにも成功しました。人の影だけでなく、建物の影でも、瞬間的に洋服に映しとることができます。今まで洋服では感じられなかった感覚を、感じることができる。

色が変わっているのですが、実は色の見え方が変わっているだけなんですね。人の目にどう映るかという「反射」が変わっているんです。光を全反射する白から青の波長しか反射しないように色素を変えている。紫外線を当てることにより反射構造が変わります。



REFLECT

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「反射」と「色」は密接な関係にあります。この服は光の反射角度を狭めて、光源に対して忠実に光を反射するようになっています。洋服自体は変わらないのですが、見る人の目線の前後に光があると反射の具合によって、受け取る情報が変わってくる。

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