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🍋🍯本線 第䞀郚第䞉章 今日はどんな䞀日だった2

ご芧いただきありがずうございたす。
初めおお越しの方は、䞋蚘の蚘事をご䞀読ください。



 仲盎りをしお、数週間が経ち、僕らは䌚話の仕方を芚える仲間に戻った。
 レモヌノにお金の数え方を教えおいるず、ペセフず圌の恋人のキアラが通りかかった。テヌブルにお金を䞊べおいるので、あたり知り合いに芋られたくないシヌンだ。ペセフもキアラの暪で、気たずそうな顔をする。

「ミ゚ルさん、こんにちは。そちらの方は ご兄匟ですか」
「あ、えっず  」 

 レモヌノを知り合いに芋られたくなかった気持ちもある。醜い独占欲だ。圌の方が色んな堎所で仕事をしお、他の人ず亀流しおいるのに。
 キアラの奜奇心ず僕ぞの嘲りを感じる芖線に、僕は瞮こたっおしたう。この堎で䞀番肩身の狭いはずのレモヌノに、぀い暪目で助けを求めた。 

「二人は知り合い。圌はメルバンカの人で、少し前にミ゚ルさんがここで忘れ物をしたのを、倧孊たで届けおくれたんだ」
「あ  そうなの  」 

 助け舟を出しおくれたのはペセフだったが、途端にキアラの芖線に冷たさが宿る。メルバンカの出身であるこずは、䜕か悪い印象があるのだろうか。レモヌノも、物蚀いたげな衚情を芋せたが、圌は始終黙っおいた。

「少しミ゚ルさんに䌝えるこずがあるから、君は先に座っおいおくれる」
「わかった。ゞンゞャ゚ヌルずホットドッグをお願い。それではミ゚ルさん、たたれミで」 

 僕ず話があるのかず切り出そうずしたら、レモヌノの手に遮られた。䜕を蚀ったかはわからなかったが、ペセフを呌び止めたであろう圌の声に、露骚に安堵の息を吐いおしたう。数分の出来事だったが、本圓に息苊しく、僕はどっず疲れおしたった。

『ペセフ、圌女は、なぜ俺たちに軜蔑の目を向けた』
『すたない。圌女は、メルバンカのこずが嫌いなんだ。おたえには悪いが、圌女が君たちに興味を持っお、ここに居座るず困る。俺がわざず怒らせた。その、テヌブルにお金も䞊べお、䜕をしおるかわからないしね  』
『そうか、奜き嫌いは、圌女の自由だ。気になるのは、俺やメルバンカのこずではない。俺は、今、ミ゚ルから、買い物に䜿う蚀葉を習っおいるだけだ。取匕をしおいるわけではない。圌女は、ミ゚ルの名を知っおいたな 二人は知り合いか』
『そうだ、俺ら䞉人は、同じ倧孊に通っおいる』 

 レモヌノの身振り手振りず、ペセフの芖線の先を芋る限り、レモヌノは、ペセフに僕らのしおいたこずを説明しおいるようだ。確かに、テヌブルの䞊に堂々ずお金を䞊べおいたら、怪しいこずこの䞊ない。レモヌノの声が途切れたず思ったら、腕を組んで、眉間に皺を寄せおいた。 

『それは、困るな。俺ずいるせいで、倧孊でのミ゚ルの立堎が悪くなるず、ずおも困る』

 レモヌノは、䜕を悩んでいるのだろう。僕らが友達かどうかの話だろうか。䞀瞬、レモヌノず芖線が合ったが、すぐにペセフの方ぞず移る。

『おたえの助けがいる。ミ゚ルは、俺の先生で、䜕も悪くないず、圌女に䌝えおくれ。俺やメルバンカのこずは、嫌いなたたでいい。気にしおいない』
『  そうか。むしろ、歀方が倱瀌したよ。圌女に代わっお、おたえに謝る。悪かった。そういや、おたえの名前は』
『レモヌノだ。おたえは、ミ゚ルに甚があるず蚀ったな』
『そうだ。少し二人で話をさせおくれ。倧孊のこずで、倧切な話がある』
『そうか。それは俺の話より倧切だ』 

 䜕を話しおいるかはわからなかったが、僕の名を繰り返し、『倧孊』の音は䌌おいるので、倧孊のこずを話しおいたのだろうず掚枬する。キアラが誰か聞いたのだろうか。レモヌノが他人に興味を瀺すのは、あたり嬉しくなかった。

「レモヌノは、なんお」
「僕がミ゚ルさんず話したいず蚀いたした。新しい飲み物を買いがおら、少し話したせんか」 

 もっず色々な話をしおいたこずくらい、僕でも聞き取れる。レモヌノに芖線を向けたが、埮笑んで銖を暪に振られた。僕に話せないようなこずを、二人は話したのだろうか。

『レモヌノ、おたえは 䜕か飲みたいか 詫びずしお受け取っおくれ』
『必芁ない。ミ゚ルのフォロヌず盞殺しろ。ああでも、ミ゚ルず同じ飲み物を買っおほしいず、ミ゚ルに蚀っおくれ。俺は、ミ゚ルから蚀葉を習う代わりに、飲食を奢る玄束があるんだ』
「僕のこず 䜕を話しおるんですか」
「圌の飲みたいものを聞きたした。ミ゚ルさんず同じものでいいそうです」
「ああ、レモヌノはい぀もそう蚀うんですよ。ここの店員さんは、圌ず話せるのになあ。この囜の蚀葉を芚えるのに、ずおも熱心なんですよね」 

 苛立っおいる。嫉劬ず、焊りだ。どうしおレモヌノは、盎接僕に蚀わないのか。舌の䞊にじゃりじゃりずした感觊が広がる。

「あずで話す。怒らないで、ミ゚ル」

 ペセフが背を向けたのを芋蚈らっお、レモヌノは僕の耳元でそう囁いた。人の心を読むなず、芖線で蚎えるず、困ったような笑顔を浮かべられた。

「レモヌノさんは、買い物に䜿う蚀葉を習っおいるず蚀っおたしたけど、本圓ですか 倉なものを買わされおたせんか」

 レゞには数組の客で列ができおいた。ちょうどお昌時だ。ペセフは、内容が内容なだけに、小声で話しかけおくる。

「本圓ですよ 机の䞊のお金も、圌のお金ですし、倉なものを売っおるわけではないです」
「それならいいですが  倧䞈倫かな  」 

 僕も小声で返すが、語調は無駄に匷くなっおしたった。突然話しかけられたのもあるが、レモヌノず離れたこずで、さらに焊っおいる。僕は、レモヌノだから萜ち着いお話せるようになっおきただけで、ペセフずは倧孊の倖で䞀察䞀で話すような仲ではない。

「蚀い蚳になるかもしれたせんが、キアラがあの態床に出たのも、僕がミ゚ルさんを心配するのも、理由があるんです」
「えっ」
「メルバンカは、瀟䌚制床がここよりも遥かに厳しい囜です。経枈犯眪や、芏定の婚姻制床から逞脱する恋愛ですら、極刑になるほど。男尊女卑の傟向も匷く、圌らの結婚は、倧半が政略やお金、家の存続が理由です。良く蚀えば、血統を絶やさないこずを重芖しおるんです。キアラは、故郷の女性の暩利向䞊を目指しおいるので、メルバンカは、特に嫌いなんですよ。圌女の故郷よりは、職業遞択ず枡航の自由がありたすけどね。メルバンカは、お金ず猫が物を蚀う囜ですから」 

 それで、キアラは、メルバンカの人だず聞いお、嫌そうな顔をしたのか。レモヌノがメルバンカの出身だず知るたでは、キアラはレモヌノのこずが気になるそぶりを芋せたから、少し異様だった。

「あの、レモヌノはペセフず、キアラの話もしおた ちょっずキツ  険悪な空気だった  あ  ごめんなさい、レモヌノず話すずきの話し方が抜けなくお  」
「構いたせんよ。この囜の人が聞くず、普通に話しおも、キツく聞こえるでしょうね。僕らの話し方は『ラゞオ蚛り』なので、優しい方です。キアラの嫌悪感は、やはり圌も気付いおたした。露骚でしたしね」
「レモヌノは、怒っおたした」
「いえ、ミ゚ルさんのこずを心配しおたした。自分ずいるせいで、ミ゚ルさんの立堎が悪くならないようにしおほしいず、頌たれたしたよ。奜き嫌いはキアラの自由だ、ずも蚀っおいたしたし、確かに、圌は䞍思議な人だなあ  ただ、仕事でメルバンカの蚀葉を䜿っおるだけなのかもしれたせん。職やお金を埗るなら、メルバンカの蚀葉の習埗が䞀番儲かりたす」 

 レモヌノは、本圓に、䞍思議な人だ。あの䞀瞬で、どうしおそこたでの気配りができるのだろう。むしろ僕が圌を庇わなければいけなかったのに、キアラの豹倉ぶりに怖気付いお、䜕もできなかった。

「そう、話しおいたんですか」
「この囜に来たずいうこずは、圌にも理由があるんでしょうね。でも、入れ蟌たない方がいいかもしれない。少なくずも、なぜここにいるのかわかるたで――たあ、䜙蚈なお䞖話ですね。蚀い過ぎたした」
「いえ、お気遣いありがずうございたす。メルバンカのこずは、ほずんど知らないので、助かりたす。それに、キアラさんのこずは、僕からもお願いしたいです。その手の采配は、ペセフさんの方がお䞊手ですし、僕も政治的な察立は䜜りたくありたせん」
「キアラのこずは、勿論、僕がフォロヌしたす。レモヌノさんの出身を話しお、先皋の倱瀌を招いたのは、僕ですしね」

 レモヌノずペセフの間では蚀葉が通じるずいう情報だったわけではなかったのか。以前、ペセフはレモヌノの出身地がメルバンカでないかもしれないず蚀い、キアラが出身地の話を嫌うこずも思い出したので、話題にしたこずが気にかかっおいた。

「そういえば、ペセフさんは、メルバンカのご出身なんですか」
「いえ、スフィリットに生たれ育ちたした。僕の実家は、叀くから貿易商を営んでいお、倖囜語の習埗は、家の仕来りなんです。メルバンカは、䞻芁な取匕先の䞀぀ですね」
「そういえば、そうでしたね。瀟亀界に足を運ばなくなっお長いので、倱念しおたした。倱瀌したした」
「僕もです。倧孊の飲み䌚にいる方が、遥かに有益ですよ。人同士の察立も、面倒事も、僕の日垞ではよくあるこずなので、キアラの噛み付き癖にも慣れたものですが、レモヌノさんはただ、ここの蚀葉を芚えおいるずころでしょう 䞀方的に詰められるのは可哀想だ」 

 確かに、キアラは倧の挔説奜きで、教授が止めに入らないず、圌女の独壇堎になっおしたうくらいだ。あの堎がれミのようになっおいたら、僕ず、恐らくレモヌノには、地獄だっただろう。
 キアラの出自の話は、颚の噂皋床で耳にしおいる。深入りしたくないので、詳现は聞かないできたが、どこか人を芋䞋しおいお、盞手の意芋を吊定しないず気が枈たない傟向にあるのは、もしかしたら、圌女が今たで受けおきた仕打ちだったのかもしれない。
 レモヌノず出䌚っお、圌に芳察されるうちに、僕も人の行動が気になるようになっおきた。ペセフは、僕やキアラのような䞀人行動を奜む人間ずも、他のれミ生のような集団行動を奜むタむプずも、良奜な関係を築けおいる。ただ、誰の味方でもなく、時に冷酷なこずをするずきもある。“党䜓の利益の最倧化”ずいう蚀葉が脳裏にチラ぀いた。家業が貿易商なら、必芁な胜力である。
 なぜそんな態床なのか。なぜそんなこずを蚀うのか。なぜそんなこずをするのか。今たで怖くお、目を背けおいた他人にも、過去や習慣があるのだず思うず、完党に䞍理解でいるよりは、恐怖が枛った。
 ペセフから僕ずレモヌノの分を奢るず蚀われたが、特に蚳があるでもなく、僕はその申し出を断った。ペセフには散々お䞖話になっおいるので、むしろ僕の方が埡瀌をするべきずころだ。 

「ごめんね、僕らの話に戻ろう」
「はい。ミ゚ルは、倧䞈倫」
「え 倧䞈倫だよ」
「ペセフは、レモヌノにもっず気を付けおず、ミ゚ルに話す。違う」 

 垭に戻るず、レモヌノは気たずそうだった。

「でも、それは合っおる。ミ゚ルは気を付ける、もっずほしい」
「ふふ、自分で蚀うの レモヌノは怖くないよ。君は、い぀も僕の幞せを考えお、僕のほしい蚀葉を蚀っおくれる。君には、ありがずうっお思うよ、本圓に」 

 僕は少しず぀、人に自分の芁望を蚀えるようにもなっおきた。昔は、少しでも気たずい空気になるず、䜕も蚀えないどころか、呌吞の仕方すらたたならなかった。問題の解決を人に任せるなんお、僕からしたら快挙だ。

「ちょっず埅っお。緎習したい」
「ん」
「その飲み物は、䜕ですか それは、いくらですか」 

 やはりレモヌノは、勀勉で真面目だ。そしお、良いず悪いずに関係なく、出来事や堎の雰囲気を長く匕き摺らない。淡々ず今を進んでいく。

「この飲み物は、トマトゞュヌスです。これは癟五十ペヌルです」
「ひゃくごじゅうペヌル  これはごじゅうペヌル  ひゃくペヌル いる」
「そう」
「ひゃくペヌルは、これ。これでひゃくごじゅうペヌル」
「合っおるよ。五十ペヌルを䞉枚でもいい」
「これは、ミ゚ルのトマトゞュヌスのお金」
「いや、さっきもレモヌノが」
「ミ゚ルはレモヌノに、蚀葉を教えるを、仕事をする。仕事をしたミ゚ルは、お金をもらう。もっずだね。䞉癟は、少なすぎる」
「いやいや、十分だよ あ、ありがずう」 

 講垫料ずしお、千䞉癟ペヌルを自分の前に出されおしたった。お金なんおいらないのに、䞀緒に䜏んでくれた方がずっずいいず思うあたり、ずっくに僕は、レモヌノに惚れ蟌んでしたっおいる。

「トマトは、わかる。お店で、トマトを、芋る。トマトは、野菜。飲み物ではない」
「この前のこず、よく芚えおるね。僕はトマトゞュヌスが奜き。塩ず胡怒を入れるず、もっず矎味しい」

 添えられた塩ず胡怒の瓶を取っお、トマトゞュヌスに振りかける。マドラヌでゞュヌスを混ぜるのを芋お、レモヌノも僕を真䌌お、塩胡怒を足す。飲んだ埌の圌の衚情に、特段の倉化はなかった。

「どう 矎味しい」
「トマトの味」
「奜き 嫌い」
「嫌いではない。ボクは野菜のトマトが奜き」

 野菜のたたの方が奜きなのだろうか。以前、倧孊の食堂で倧盛りのサラダを、䜕も調味料をかけずに食べおいたレモヌノを思い出す。もしかしたら、塩胡怒しない方が圌の奜みだったかもしれない。

「飲み物は、飲むず䜿う。ボクはトマトゞュヌスを飲む。ボクはトマトを食べる。合っおる」
「合っおる」
「レモンゞュヌスは」
「あたり聞かないなあ。レモンティヌずか、レモン味の氎や炭酞氎ずか、ああ、レモネヌドもあるね。ケバブのお店で飲んだのは、レモネヌド。トマトゞュヌスは、たくさんのトマトを䜿う」
「わかる。レモンは、たくさん䜿わない。レモンは、味が  レモンの味は䜕」
「レモンは、すっぱい」
「レモンは、ずおもすっぱいだから、トマトず同じ数、料理ず䜿わない」
「そうだね。レモンずトマトは、料理に同じ量を䜿わないね」
「りょう」
「数は、レモンが䞀個や二個。ペンの数は、䞀本や二本。量は、䞀個より小さいずきにも䜿う。料理に䜿うレモンの量は、少しでいい。ゞュヌスを䜜るには、たくさんのトマトやオレンゞを䜿う」
「量は、お肉も䜿う」
「䜿う。“豚肉を五癟グラムください”だったら、レモヌノは聞く」
「たくさん聞く。でも、数のこずは嫌いだ。頭の力がたくさんいる」

 確かに、レモヌノは蚈算が苊手そうだ。時間や日付のこずも、話題にするたび、眉間に皺を寄せおいる。それで、埅ち合わせの玄束を守ったり、生掻費をこためにやりくりしおいたり、蚈量に過䞍足がないず評䟡を受けたりするのだから、䞍思議な人である。道具に頌らない分、䜓の蚈枬胜力が高いのだろうか。

「レモヌノは、レモンが奜き」
「奜きでも嫌いでもない。お肉や野菜にかけるず、矎味しい。塩を奜きず蚀う人は、いないかず思う。あず、レモヌノは、レモンず同じ」
「前にも同じこず蚀ったね。確かに響きは䌌おるけど  」

 食べ物の名前を芚えるために、垂堎に行った日にも、レモヌノは山積みにされたレモンを指しお、“ボクだ”ず蚀った。誀解を生む蚀い方だず気付いお、頬を赀らめおいたのを思い出す。

「名前を、玙に、曞く。果物の名前を、䜿う。えっず、蚀葉がほしい。リンゎのこず  ミ゚ルずボクは、垂堎で歩いた。ミ゚ルは、リンゎの名前を教える  リンゎの前はない。トマトの前は、バナナ。バナナの前は、リンゎ。前はない、の蚀葉がほしい」
「初めお、かな リンゎは、ミ゚ルが、初めお、教えた、果物だ、ず蚀いたい」
「初めおではないは リンゎの初めおの音は”リ”。”ゎ”は」
「終わり リンゎの始めの音は、”リ”。リンゎの終わりの音は、”ゎ”」
「えっず、レモンは、レモヌノが初めお、食べた、果物の名前。メルバンカで、男性の名前は、終わりの音が、”オ”の音が倚い。ゞルバノも、自由な男ずいう意味」
「ぞえ、名前に意味ず決たり事があるんだ」

 僕の名前は、家名を含めるず、かなり長い。家名の指す立堎は、今ずなっおは前時代的で、さらに僕の颚貌からでは、誂いのネタにしかならない。本名は、異囜の守護倩䜿から匕甚されおいるため、そちらも重責だ。

「レモヌノは、子䟛の頃、初めお果物を食べた。初めお食べた果物がレモン。レモヌノの名前には、初めお食べた果物の名前を䜿った。終わりの音を”オ”にしたのかな」
「そう、ボクの髪の色ず同じ。メルバンカの料理で、お肉を焌くずきに、レモンをよく䜿う。暑いから、すっぱいず食べやすい。ボクの名前ず仕事を聞いた人、ちょっず楜しいだね」

 それでさっきレモヌノず自己玹介したずき、ペセフはレモヌノの髪に芖線を移したのか。

「わかる」
「うん。食べ物のお店で勉匷したずき、レモンのこずを芋お、君は“ボクだ”っお蚀った」
「そう。倉な話だったね」

 ミ゚ルの名も、幌い効が僕の名を発音できなかったので、幌子でも芚えられるように簡易にしたものだが、暪着しお今だに䜿い続けおいるのは、考えものかもしれない。しかし、今曎家名や本名で呌ばれおも、自分が呌ばれおいるず認識できない。
 ペセフもキアラも、確か本名ではなかったはずだ。子孫や独自の仕来りが残っおいるずはいえ、王政が解䜓されおから癟幎を経た僕らの代では、貎族制は過去の遺物だ。
 そうは蚀っおも、家や家業を継がなかったずころで、僕は䜕がしたいだろう。継ぎたい、家を残したい気持ちがないだけで、他にやりたいこずがあるわけではない。

「ミ゚ルは、今日、レモヌノのこずをもっず知る。えっず、聞きたくない話だった」
「いや、聞きたい話だったよ。レモヌノが話せるこずが増えたずわかる。僕は嬉しい」
「そう 嬉しいの顔ではなかった」
「ああ、ごめん、僕の名前のこずを考えおたんだ。レモヌノのこずを知るのは嬉しいよ」
「キミは、キミの名前を倉えたい」
「いや、倧䞈倫。ミ゚ルが、本圓の名前ではない。本圓の名前は、ずおも長くお、呌ぶのが倧倉だ。僕も、本圓の名前は、奜きではない」
「わかった。名前を倉えたいずきは、教えおほしい。ボクの名前も、キミの奜きな名前に倉えおいい」
「ふふ、君は面癜い人だね」

 䜙蚈なこずを考えお、レモヌノに誀解を䞎えおしたった。
 気を取り盎しお、数字や時間の衚し方を教えお、僕らは解散した。

 本人に聞くこずはできなかったが、僕はレモヌノ以倖の名前が圌にあるのではないかず思った。初めお食べた果物の名前を䜿ったの説明から掚枬するに、おそらく、レモヌノずいう名前を䜿い始めたのは、圌が蚀葉を芚えおからのこずだろう。芪や保護者だったら、レモンよりはリンゎやオレンゞなどを䞎えるはずだ。それずも、肉料理に添えられおきたものを食べおしたったのだろうか。
 時を重ねるほどに、レモヌノに぀いお䜕も知らないこずを思い知らされるばかりだった。圌をもっず知りたいず思う䞀方で、ずんでもないものが出おきそうで、怖くなっおしたう。䜕も知らないたた、圌の広く枩かな背䞭に隠れお、守られおいたい。 

「ダメだ  僕らは、玄束したんだから  」

 自宀で䞀人、僕は玄束のネックレスを眺めた。早くレモヌノが僕の銖にこれをかけお、この家に䜏んだらいいのに。
 レモヌノがここに䜏みたがらない理由は、僕ず蚀葉が通じないからだけなのだろうか。本圓は、もうメルバンカに婚玄者がいお、結婚を前に自由を満喫しおいるだけ、そんな話が脳裏に浮かぶ。スフィリットに留たれない理由があっおも、おかしくはない。 

「レモヌノは今日  僕のこず  守っおくれたじゃないか  」

 最悪のパタヌンは、僕の臆病が生み出す幻想で、レモヌノの倧切なネックレスが僕の手元にあるのが、玛うこずなき事実だ。
 レモヌノが蚀葉を芚えたら、圌は僕にこのネックレスをかけさせおくれるのだろうか。僕の恐怖を薄めおくれるのだろうか。䜕を蚀われるのだろう。䜕が埅っおいるのだろう。

「わからないな  䜕も  」


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