🍋🍯本編　第一部第五章　僕と君で思っていることが違う（2）

初めてお越しの方は、下記の記事をご一読ください。

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　初夏、サラが子供たちを連れて、僕の家に遊びに来ることになった。末子が二歳になり、連れ歩くことができるようになったらしい。長子の夏季休暇に合わせて、四人で来ることになった。サラの今の配偶者は漁師なので、この漁シーズンに内陸部に来ることはない。

「今度の水曜日から日曜日に、サラと子供が三人、この家に来る。サラのことを覚えている？」
「ミエルの妹」
「そう。人が来るから、僕は客間を掃除したい。レモーノも手伝ってくれる？　大きな机があるので、移動したい。小さなベッドも並べたい」
「わかった」

　客間のカーテンを開けると、埃が舞って、差し込む光の中でふわふわと浮いていた。最後に掃除した日から、もう一年が経過する。窓を開けると、窓枠に溜まっていた葉が落ちていった。

「思っていたより、掃除が必要そうだね」
「確かに。大きい家に一人で住むは、掃除が大変と思う」
「そうなんだよ……僕はあまり掃除が得意じゃないんだ……」
「一人だと……何という……子供がいると、物がたくさんは危ない。本を棚に……」
「ああ、本を棚にしまう。一人だと、部屋を片付けなくても、問題がない。物がたくさんでも危なくない。本を高く積むと、僕でも危ないけどね。自分一人なら、問題ないと思って、片付けなくなる。この部屋も、使わない」

 

「サラと子供たちは、この部屋で寝る？」
「手紙には書いてなかったけど、その予定だと思う」

　テーブルを端に寄せ、二人で床を掃除する。濡れた床を足で撫でながら、滑って危ないから近寄らないように言われた日のことを思い出した。掃除係だった彼は、今頃何をしているだろう。

「サラたちが来るとき、ボクは、家にいた方がいい？　外にいてほしい？」

　当然にいるものだと思っていた。しかし、レモーノから女性と会話をするのは難しいと聞いたばかりだ。スフィリットの言葉で会話をするのは疲れるだろうし、まして子供が三人も来る。

「僕は……いてほしい、けど……女性のサラと、同じ家で寝るのは、レモーノが苦しい？」
「はい。でも、ミエルがいてほしいなら、ボクはいる。子供が三人なら、大人も三人だと、楽かと思う。子供は、たくさん食べるし、たくさん動く」
「確かに。ごはんもたくさん必要か……」

　子供のお世話は、サラができるだろうと思っていたが、ここに連れてくるのは初めてだ。生まれ故郷とはいえ、頼りにできるのは僕と、彼女の旧友だけだ。
　ただ、母の葬式の折に、サラの帰郷を知った知り合いたちの反応は、芳しいものではなかった。貴族の人付き合いは、これだから億劫である。それがなくとも、三人も子供がいれば、色々手間取ることもあるだろう。レモーノの力は借りたい。

「僕は、ごはんも作れないし、力仕事もできない。レモーノに、ごはんを作ることや、重い物を運ぶことは、助けてほしい。助けてくれる？」
「わかった。でも、ボクはサラとは話せない。嫌いではない」
「大丈夫。僕はサラとなら話せる。君のこともちゃんと説明する」

 

「ミエル伯父さんよ。ご挨拶して」
「こんにちは、ミエルさん。ノブユキです」「いーいー！」
「イリアです」
「……ライラ、はじめまして」

「はい、いらっしゃい。ノブユキ以外は、はじめましてだね」
「そちらは？」

 

「僕と同居してるレモーノ。スフィリットの言葉は、まだ覚えているところで……」
「レモン！」
「合ってる。荷物を置いてから、座って話す」
「そ、そうだね。客間を掃除しておいたんだ。まず、そこに荷物を置こう」

 

「ベッドも用意してくれたの？　こっちに着いてから、ホテルを取ろうと思ったけど」
「この二つだけ、まだ捨ててなかったんだ。でも、誰かは二人で寝てもらってもいい？」
「そうね。ありがと。これはお母さんとミエルさんが、子供の頃に使っていたベッドだよ」

「お母さんのベッド……」
「いーいーの！」
「子供のミエルのベッド？　どれ？」

 

「みんなが、見てるのが、僕のだよ……」

「ミエルさんのベッド……」
「お姫様のベッドみたい……」
「お母さんのベッドはこっち？」
「そう」
「やー！」

「たしかに、お母さんの部屋とデザインがおんなじだわ」
「かっこいいでしょ！？　ここにキャンドルを置くと、目が光るんだから！」
「こわい！　やだ！」

「誰が作った？　すごい飾りだ」
「僕らのベッドは……」

　これは僕が話していいのだろうか。サラに視線を投げると、彼女も一瞬気まずそうな顔をした。

「昔、ここで働いていた人に作ってもらったんだったかな？　よく覚えてないけど」

　嘘だ。よく覚えている。僕からサラを奪った男だからだ。
　しかし、同時にノブユキの父親でもあった。二人は意気投合して、勉強会と称して、よく二人きりで部屋にいた。そして、ある日、置手紙をして、彼の故郷に行ってしまった。
　異国の地で、初めて子供を育てることになったサラは、出産後三ヶ月で心身を病んでしまった。半年後、サラは行方知れずになり、父親がノブユキを育て、サラとはこうして時々会う形に落ち着いているらしい。

「私、こっちに寝たい。面白いベッド」
「えっと、それだと、僕は……」

　さすがにノブユキは、もう母親や妹たちと一緒に寝る年頃ではないらしい。それに、普段は彼女たちと生活していない。僕とレモーノのどちらかが明け渡して、僕らは同じベッドで寝るのが無難だろう。

「ノブユキは、ボクのベッドで寝る」

　僕が言う前に、レモーノが提案する。だが、サラの癪にさわったようだ。

「いえ、構わないでください。ノブユキは、私たちと一緒で大丈夫でしょ？」
「いや……その……」
「女性三人と同室は、休まるものも休まらないよね？　みんな長旅で疲れてるだろうから、僕とレモーノで、同じベッドで寝るよ。ノブユキは、大丈夫？　一人で眠れる？」
「はい。その方が嬉しいです。ありがとうございます、ミエルさん、レモーノさん」

 

「レモーノさんは、スフィリットの言葉を覚えているところだって言った？　どちらのお生まれなの？」
「……ミエル」
「ああ、ごめん、えっと、レモーノがここに来る前に住んでいたのは、メルバンカだ」

 

『じゃあ、俺の言葉がわかるんですか？』
『わかる。メルバンカの人間か？』
『いいえ、俺の生まれはキカナ島です。ご存知ですか？』
『ああ、キカナ島か……あの島は、数日だけ行ったことがある。魚料理が旨い。自然も多くて良かった』

「レモーノは、なんて？」
「僕の生まれた国、キカナ島は、メルバンカの言葉が第一言語なんです。レモーノさんも島に訪れたことがあると話されました」
「魚料理が美味しい」

「ノブユキとは、話せるの？　あなた、同性愛者？　でもメルバンカに住んでいたのよね？」
「えっ？　いや、レモーノは、確かに女性が苦手だけど、同性愛者かは……」
「愛情で近付いているならいい。どういうつもりで、ミエルと住んでいるの？　メルバンカで同性愛はご法度のはず」

 

『サラは俺に何を聞いている？』
『レモーノさんはミエルさんを愛しているのかと聞いています』
『愛している、か……サラやノブユキは、メルバンカのことを知っているんだよな？』
『はい。一通りのルールは……』

 

「サラの質問には、ミエルに話すまで、ボクは答えたくない。ボクはまだ言葉が足りない。説明できない。その答えを一番知りたいと思うのは、ミエルだ。ミエルに話さないうちは、他の人に話さない」
「家族として、ミエルが危ない目に遭ってほしくない。一緒に住んでいる理由くらい、答えられるでしょう？　それともやましい気持ちがあるの？」
「なぜサラは怒る？　ミエルは、レモーノが同じ家に住んでいて困ると、サラに話した？」
「話してないよ。でも、サラは、レモーノの気持ちがわからないから、僕が危ない目に遭ってるんじゃないかって心配してる」

 

「レモーノに、この家に住むように頼んだのは、僕だ。彼には、忘れ物を届けてもらって、そのお礼に言葉を教えることになった。ちょうど部屋も空いていたし、レモーノは仕事もして、料理もできるから、生活を支えてもらってる。僕の説明が下手で、誤解を生んで、二人ともごめんね。レモーノは悪い人じゃないよ。親切で、いつも冷静で、よく助けてくれる」

「いいえ、私も失礼なことを言った。ごめんなさい、レモーノさん……怒りっぽくて……」
「気にしていない。説明できないボクが悪い。ミエルが安心して生きてほしいのは、ボクも同じ。ミエルを傷付けるつもりはない」

「ノブユキ、ちょっといい？」
「はい」

 

「さっきレモーノにミエルをどう思っているか聞いたの？　同性愛者かって、サラが聞いたとき」
「母はレモーノさんがミエルさんを愛しているのかと聞いている、と話しました」
「ごめん、そんなこと聞いて……」
「謝ることでは……ただ、レモーノさんも僕に答えてはいません。メルバンカのルールを僕と母が知っているのか聞かれて、基本的なことは知っていると答えました。あとは、レモーノさんがスフィリットの言葉で言った通りです」

 

「ありがとう、変なことを聞いてごめんね」
「いいえ。僕の方こそ、お二人にご迷惑をかけているので……」
「ううん、次はもう一台ベッドを作っておくよ。よく休んで、困ったことがあったら、いつでも言ってね」
「はい、ありがとうございます」

　ノブユキは、しっかりした子だ。まだ十歳にもなっていないのに、妹が二人もいると、しっかりせざるを得ないのだろうか。いや、一緒に住んでいるわけではなかったか。
　寝室に戻ると、レモーノはストールを首に巻いていた。夏にも関わらず身に付けるということは、外で寝ようとしている。飲みに出掛ける火曜日と一緒だ。

「レモーノ、外で寝ようとしてる？」
「はい」
「僕と一緒に寝るのは、嫌だ？」

　同性愛者と思われるのは、堪えたのだろうか。メルバンカでご法度なのは有名らしく、僕もレモーノがメルバンカでどう過ごしていたのか知らない。

「ミエルはボクと一緒に行く？」
「え？」
「ボクは、月を見に行く。パニックになっている。女性に怒られるのは……少し……男性に怒られるのは、喧嘩になっても大丈夫。女性は、わからない。多分ダメだ。歩くと、パニックが減る。いつもの公園にいる」
「ああ、言いたいことはわかる。女性相手は、どうしても言い返すのが難しいよね。力に差があるし、怒っていると自分を見失う」

　どうしたらレモーノのように感情を表に出さずにいられるのだろう。

「そしたら、今夜は一人の方がいいかもしれないね。僕を夜に連れ出したなんて言ったら、またサラが怒ると思う。でも、レモーノも気をつけてね」
「ありがとう。朝のごはんには戻る。おやすみ」
「おやすみ」

　一緒に寝られるかなと期待してしまった。レモーノも気が立っているようだし、変に同行して、僕に気を遣わせない方がいいだろう。
　自分たちの間に、愛や性欲が存在するのか問われるのは、存在している僕でも、どうしても堪える。
　僕は一度として、サラの配偶者に、どういうつもりで結婚するのか、聞こうと思ったことすらない。家族の間で話すものなのだろうか。だが、彼女は二度の離婚を経験しているし、今の配偶者とは“会わないから上手くいく”と言っているくらいだ。毎日人と生活することに、どうしても心配になるのだろう。

　なんとなく寝付けないので、キッチンでウイスキーを飲んでいると、サラも起きてきた。飲んでいいかも聞かずに、自分のグラスを用意する。聞かれても、熱が出たのかと疑うところだ。

「レモーノさん、怒ってた？　出て行っちゃったよね？」
「戸惑ってたみたい。朝食までには戻るって。国のことが原因で、女性と話すのが難しいんだ。メルバンカって、そんなに、男女差別が厳しいの？」
「どうだろう。私も現地に行ったことはないけど、女性も逞しいって話は聞くかな。血の気が盛んなんだと思う。裸になっても暑いらしいし」

 

「それより、レモーノさんって本当にメルバンカの人なの？」
「僕の大学の知り合い、ヨセフも、レモーノの生まれは別なんじゃないかって。レモーノが僕の忘れ物を届けてくれたときに、ヨセフも一緒にいたんだ」
「そうでしょうね。肌と髪の色が濃くて、小柄なイメージがある」

 　メルバンカの人には、共通のイメージがあるのか。それほど人種の入り混じる国ではないのか、それとも、そういう身体つきでないと生きていけない特殊な風土なのかもしれない。色素の薄いレモーノが、暑さや日照りに強そうには見えない。

「ヨセフと言えば、キアラは、覚えてる？　僕と大学が一緒で、母さんのお葬式に来てくれた人」
「覚えてる。というか、新聞で嫌でも目にする」
「新聞に載ってるんだ。知らなかったな」
「本が好きな割に、新聞は嫌いよね。それで？　キアラさんがどうしたの？」

　新聞に書いてあるような話には、どうしても興味が持てなかった。世の中の出来事でしかなく、人々が漫然と話す噂話と何が違うのかわからなかった。

「レモーノと一緒にいるときに、キアラに声をかけられたんだ。レモーノがメルバンカの人だと知って、ちょっと空気が悪くなったんだよね」
「まあ、彼女からしたら、憎い相手でしょうね」
「わかるの？　僕が世間を知らないだけか。でも、レモーノは、自分のことはどうでもいい、キアラが僕を嫌わないように、仲裁に入ってくれって、同じ場にいたヨセフにお願いしたんだ。今日もそうだけど、いつも僕が庇うべきところで、レモーノを庇えないんだよね」
「そうね。彼の方が、揉め事に慣れているんでしょう。ミエルとは、踏んだ場数が違うと思う」

　それについて異論はない。
　ただ、メルバンカがどんな国で、レモーノはどんな経験をしたのかが気になる。どうしてレモーノは、詰問されてもパニックにならず、逆上もせずに機転が利くのか。
　さっきの感じだと、男性相手なら喧嘩になってもいいと言っていたし、今までは女性が相手だから大人しかっただけかもしれない。この先、僕とレモーノの間で対立したら、圧倒的に僕が不利だ。

「他の人の意見はいいわ。あなたは信頼できるの？　レモーノさんなら？」
「わからない。人を信じるとなると、どうしても……まだ、知らないことは、たくさんある……それで、僕らはこの先どうなるんだろうって怖いとも思う……あ、でもね、レモーノには甘えることができるんだ。自分のことを話せるだけで、僕にはすごいことだから」
「そっか。それは、すごいことだね。私たちには、本当に」
「うん」

　サラは自己主張が強いようで、陰ではよく泣いていた。嫌だと言うことはできても、どうしてほしいのかを言えなかった。甘えることや相手を信じることは、出来ていなかった。
　僕らは、特に相手にしてほしいことを伝えるのが、本当に苦手だ。母に言えば、面倒そうにされ、父に言えば、“使用人に言え”と言われ、使用人に言えば、母から“勝手なことをするな”と彼らの職が奪われた。いつしか、兄妹の間で解決するようになった。サラが、ノブユキの父と出会って、この家を出て行くまでは。

「ノブユキのことも、ごめんね。ここまで来るだけでも、色々手伝ってもらってきたのに、いざ、あの子が要望を言ったら……わかる？　母さんがミエルにしたことと同じだって、ミエルの言葉を聞いて、気付いた。レモーノさんに、子育てに干渉されるみたいで……ノブユキのこと、手放したのは私なのに……」
「ベッドのこと？　そうだね。ノブユキは、僕と似てるなって思った。彼の方がしっかりしてるけどね」

 

「でも、自分を責めることないよ。サラは、自分の子供を守りたかっただけだ。僕や、多分レモーノは、ノブユキが女性三人と寝るのは、気まずいかなと思った。サラもノブユキとは久しぶりでしょ？」
「うん……でも……」
「サラも、とてもよく頑張ってるよ。三人が元気に育ってるのが、その証拠だ。みんな、遠くからこの家まで無事に来て、すごいよ。サラは、僕らの母さんじゃないし、ノブユキは僕じゃない。それぞれに、それぞれのできることや、したいことがあるよ」
「それぞれに、できることやしたいことがある……」

「レモーノの受け売りだけどね。僕とレモーノは違う、僕を傷付けてきた人とレモーノは違う。前に、そう言ってくれた。当たり前なんだけどさ、やっぱり先入観ってあるなって思う。僕がこうだったから、きっとレモーノもこうだ。僕の周りがこうだったから、きっとレモーノもこうだ。でも、レモーノは、自分のことは自分で話す、ミエルが決めないでほしいって言ってくる」
「ふふ、そんなこと言うの？　哲学者？」
「うん。どんな人生を歩んだら、思い付くんだろうって、話を聞いてて思う。というか、忘れないでいるのかな。他の人が当たり前になって忘れてしまうことを、レモーノは覚えていられるのかも」
「当たり前になって忘れてしまう。そう言われると、そうね。自分のことは、自分で話す。もう、自分で話せる歳なんだよね、ノブユキもライラも……私たちも……」
「どうかな。レモーノは、僕が子供でもいい、無理して大人ぶらなくていいって言うけどね」

 

「好きなのね、レモーノさんのこと」
「……うん」
「でも、まだ、ミエルの本心は話してないんだ。やっぱり母さんとあの人のせい？」
「それも、ある。でも、レモーノは大切になりすぎた、かも。変に欲張って、台無しにするくらいなら、こうして二人で暮らしているだけで、十分かなって……」
「本当に？　あんないい男に、他の人間の目が向かないと思ってるの？」

「そこなんだよ……レモーノは、カフェで働いてるけど、同じカフェで働いている女性が、レモーノを好きなんだ。あからさまなくらい……待って、サラもレモーノがいい男だと思うの？」
「まあ、ミエルがいなかったら、狙ってたかもね」

 　サラなら間接的に家族でいられるからいいかと思ってしまうくらい、僕は妹に甘い。

 「妬くか、張り合うかしてよ。そんな弱腰じゃ、その女性に盗られちゃうよ」
「でも……僕では……」
「まあ……大丈夫、きっと向こうも好きだよ、なんて思ってもないことを、私は言えないし、あなたも思わないでしょ？　ライバルがいるなら余計に」

 

「でも、ミエルもだけど、レモーノさんも何か大きな傷や秘密を抱えてると思うわ。二人は、仮に打ち明け合おうって意欲があっても、相手の言葉を知らない」
「サラも、そう思う？　レモーノの過去は、どうやって聞いたらいいのかなって……僕は、少しずつ話してるんだけど……」

「彼はあなたに話す気でいたじゃない。早々いないよ、自分の気持ちを一番先に知っていいのは、ミエルだって豪語する人。愛の告白じゃないなら、何なのかしら」
「あれは僕も驚いたよね。ちょっとドキドキしちゃった。でも、よく言うことでもある。僕の幸せが自分の幸せだとか平気で言うし」
「それでミエルは？　そんなに弱腰なの？　キスの一つでもしなさいよ」
「花祭りのときに、花の意味を聞かれて、恋人やキスの言葉を教えたけど、そうなんだみたいな顔しかしなかったんだ。あのときはここを出るつもりでもいたし、本人に聞かないと、何考えてるか全然わからないんだよね」
「鈍感鈍足同士ってわけね」

 

「まあ、きっと似てるのよ、あなたたち。ゆっくり知り合えばいいと思う。関係を壊したくないなら、慎重になるくらいでいいかもね、特に私たちは。それに、本当によかった、ミエルに話し相手ができて。心配してたんだから」
「ありがとう」

 　その後、僕とサラは近況報告で盛り上がった。