【DAY16】姉と医学と志望校。

冬休み課題で厄介なものが出た。
「志望理由シート」と題されたそれに、志望学科を志したきっかけを書くという課題である。
どんな教科の課題より辛い。俺には、これが書けそうにない。

俺の志望学部は、医学部。
その理由は、死んだ姉と共に生きるためだ。18トリソミーという先天性の病を抱えて生まれ、俺がこの世に生を受けるその前に死んでしまった、俺の最愛の人。姉が姉として、俺が俺として、この世に生まれてきた意味を証明し、一緒に未来を生きるための選択。逢うことの叶わない命に報いる方法。それが医師になることだった。

読んでの通り、これは内向き、つまりは自分用の言葉である。今回の課題では、これを外向きの、簡潔な言葉に変換しなければいけない。容易なことではない。どんな言葉にしても、自分の思いに嘘を吐いてしまうような気がする。

第一、こんな思いを自己紹介のためにまとめるなんて不可能だ。
シンプルにすればするほど、伝わらなくなる。実際、どんなに言葉を尽くしても、「なんで同じ時を生きることのない命にそこまで拘るのか」と詰られることだってあった。俺のことを何一つ知らない人に、こういった思いを表明することは、ひどく恐ろしくて、残酷だ。

しかし、いつかは向き合わなければならない。志望理由書を書くことは、避けられないのだから。そしてそれは今であるべきなのだ。わかっていても、書けないものは書けないのだ。

担任の先生は、俺のこういった思いの全てを知っている。洗いざらい打ち明けている。だから、この課題が出たとき、俺が「他の先生は課題を見ますか」と尋ねたら、「大丈夫、私しか見ない。他の先生には絶対に見せない」と請け合ってくれた。
そういう先生だから、書けなくても許してくれると思う。書けないなら書けないで、一緒に考えてくれると思う。
でもそうして捻り出した言葉は、本当に俺の言葉なのか。

姉さんと向き合うとき、頼るべきものは言葉だけであった。直接顔を合わせて、触れ合って、笑い合うことも叶わないのだから、自分の中の表現を練り上げることでしか、姉の存在を感じることができなかった。
それが、俺にとっての「言葉」の重みであった。だから、生半可なことはしたくない。姉さんに、これまで積み上げてきた「言葉」に、不誠実なことはしたくない。

大人にならなければ。折り合いをつけなければ。こんなもやもやを抱えたまま、年越しをせざるを得なくなりそうだ。

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