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ちくわ。

    ちくわはさびしそうだ。だって、真ん中に穴が空いているじゃないか。人に食べられるために生まれただけでなく、その容姿にもさびしさを感じさせるものがあるのだ。なんとも恵まれない。何故穴が空いているのだろうか、その穴は一体なにで埋まるのだろうか。理由などなくてもきっとそこに見いだせるものがあるのではないか。


    ポカンと口を開けた子供のよう。

    育ちきったヤツメウナギの口のよう。


    ちくわはたのしそうだ。白い肌と綺麗な茶髪が太陽光によく映えるのである。夏は海に行って泳ぐのだろうか。冬はみんなを盛り上げるムードメーカーになるのだろうか。きっと、君がいるだけで周りは明るくなるのだろう。悲しげなフォルムなど気にしていないかのような素振りだ。

    ちくわはよく、身体を焼く。自分を逞しく魅せるためだ。うまく焼けたちくわには、えも言われぬ感情を抱いてしまう。


    ちくわはおいしい。僕の口の中で最後の息をする。勿論、あの埋まることのない空虚な穴からだ。絶えず鼓動してきたちくわの生命は、僕たち人間のエゴによって全てが無に帰してしまう。いや、ちくわは私たち人間の中で栄養という名の記憶を紡いでくれるのだ。その事実と必然性に胸打たれながら、今日も僕はちくわを食べる。


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