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2022年 57th 全日本合気道選手権~力強いカムバック劇~


12月4日(日)

東京は快晴。気温は8℃。
ビル風の隙間から、3年前と変わらない冬景色が顔を出す。
静岡に比べると関東は寒い。人となりの違いや仕事に対するスタンスの違いもこういう所から生まれるのだろう。今でもたまに関東人と仕事で絡むとテンポ感やリズムの軽妙さにシンパシーを覚えるけど一抹の寂しさもまた、同時に感じるものだ。

話が逸れた。

身体が覚めないので、筋肉を解すために朝8時から営業している菊川三丁目の「松の湯」へ。公衆浴場もこのコロナ禍の煽りを受け、東京は今年からまた値上げ。今はついに500円台に突入してしまった。ただ、ここの銭湯は別料金取らずにミストサウナに入れてくれた。
気持ち良く汗を流し、目も覚めた所で浜町へ向かう。
聞いた所によると、今回の大会の設営に当たり、相応のバイト代が出たという。選手には賞金出ないのになあ~!?等 戯れ言を言い合いながら階段を昇ると変わらないイチョウ並木が広がっていた。イチョウと言えば外苑前が有名だけど、ここだって負けてないと思う。

会場には既に北海道や立教の学生もちらほら。
いいねえ。本番って感じ。

中村宗家がスッと目の前を歩き抜けていくもんだから思わず直立不動になりながら、コートに入る。
コロナ禍での開催なので観客はいないとのことだったが、会場には観戦用の椅子が用意されていた。観られている喜びってのは選手特有のもので、こうやって少しでも大会が熱を帯びてくれそうな要素があるだけでテンション上がるもんなのです。

トーナメント表に目を落とす。
綜合、捕技組ともにAコートが乱戦になりそうだなと予想。
綜合ではまさかの松下先生参戦。俺とはコートが違うため、当たるとすれば決勝だが試合を観れる楽しみが出来た。ものの……自分にそこまでの余裕はなく。

捕技は加藤、佐藤(兄)、鈴木先生の3名(敬称)が堅いかなと予想。加藤先輩がテンション変わらず乱取こなしちゃえばスーっと行っちゃうかな、なんて軽口を叩いていた。加藤先輩はいつも通りニコニコマイペースである。かわいい人だ。

綜合は菊地、瀬戸、松下の3名(敬称)が順当なら来ると予想。Bコートのもう一人は全く予想立たず。

自由型徒手はまさかの第一組。出走馬はほぼ勝てないんだよねえ。終わった。笑


大会スタート。
綜合も捕技もまんべんなく楽しみながら観ていた。
捕技も後輩がたくさん出場していた。
特に矢野主将、森、川崎、佐藤(ま)の四名は長年チームの屋台骨を支えてきた頼れるメンバー。川崎さんは初出場ながら3位!健闘でした。

他の面々は今回残念ながらベテラン連中の後塵を排す結果とはなったけど、見てると捕技は出れば出るほど勝つ確率が年々上がっていく種目の様に思えて仕方ない。ここからまた一年は大変だと思うけど、今回残念な結果だった人ほど続けていって来年一段階も二段階も玄人になって再チャレンジしてほしい。また、皆の実力ならそれが出来るよ。

加藤先輩の安定感の鬼っぷりや佐藤先輩のシルバーコレクター問題、嫁の等速運動体捌き問題、かほちゃんは山が悪かったなあ等々触れたいものの、尺の都合で自分のいたAコートの綜合を中心にダイジェスト形式で振り返る。

1回戦~2回戦

1回戦は恩田×松尾の2人がベストバウト。
お互い打間がしっかり取れていたし、打ちも綺麗で力強く、残心も良かった。相打が多いのはご愛嬌。恩田くんのがやや腰が低い分胴をくぐったが、ほぼ差はなし。いい勝負でした。


良い写真ばかり。石井さん本当有難う。

僕は2回戦から登場。緊張もなくスッと試合には入っていけたが、どうも打間が合わない。結局距離に納得が行かず、かといって試合を止める訳にも行かないので投間を詰めつつ3分間誤魔化しきる。ケンカ四つは難しいね!

そこを巧く詰めながら捨身を使っていたのが菊地先輩。本人曰く「出た」との事だったが腕を掴めるくらいの間合から逆腰車の捨身が出た。あの形はもうケンカ四つ相手の型だよ。素晴らしかった。

準決勝までの4人が出揃った。
綜合は菊地、瀬戸、片山、松下の四名(敬称)
捕技は加藤、佐藤(兄)、瀬戸、川崎の四名(敬称)

拳法は既に決勝の2人(松下、小黒)を残すのみ。

中村は判定で負け、瀬戸はスリップして自爆していた。

自由型(徒手&武器)


嵐の前の清涼剤、自由型。
自分たちは運悪く第一走者。
だけど内容自体は悪くなかった。きっちり78点を取りに行って、79点だった(しかも先頭で)のだから大満足だ。腕当~腕巻込で俺の体重に持ってかれる嫁が少し面白かった。


妻と僕

立教組は準優勝と敢闘賞。特に敢闘賞組と僕らは0.1点差。危なかった。入賞経験がどれだけ苦しい時の自分を支えるか、骨身に染みて分かっているつもりだから、2組とも入賞出来て本当に良かった。
準優勝組は細かいミスを流せるだけの「流れ」がふたりの中に出来ていた様に思う。緊張してたねえ。ふたりとも顔が硬いよ……なんてとても話せる雰囲気になかったよ。笑

富山大学の学生さん2人もきっちり3位入賞。おめでとうございます💪
話した所未だ段持ちではないとのこと。驚く

自「上段相打からの当廻捨身は、綜合をやっている先輩からのアドバイス?」
学「いえ!当廻の受身をしたくて……」

自「……」

ちゃんとマニアックでどこか安心してしまった。今度合同稽古しましょうね。

武器形。小黒先生は間合のコントロールと型が本当に巧いんだなあと感心してしまった。やっぱり型が巧い人は強い。

準決勝(綜合)

3年間磨いてきた残心の型。逆Cである。

第一試合は菊地×瀬戸。

僕は腕巻込➡️腕当返の展開と右胴の使い方がキーになると踏み、初っぱなから試合を動かしに掛かる。受返右胴が決まり、先制。その後は菊地選手、崩れない、崩れない。岩の様に静かに試合を進め、僕が焦れて間を詰めた所に腕当の捨身!
ほぼ理の型の合体のような形の腕当が決まり一対一のイーブンになった。心境的に終盤の投げが決まるってのは結構しんどいものがある。
傾きかけた流れを強引に引き戻す作業が必要になるからだ。もうそこまでのスタミナも自力も、あの時俺に残されてはいなかった……。

第2試合は片山×松下先生。
片山は今回いい間合で試合をしていたと思う。
右胴を上手く使いながら、間合が詰まったら内刈に、逆内刈に、と変化しつつ遠間から左胴も打つスタイル。
しかもその打ちが速く、正確。冗談抜きに、左胴は恐らく出場選手で一番速かったと思う。

準決勝でも打撃は冴えていた。
具体的には、右面~正面打ちを巧く使えていた。
角度を変えつつ、対角線を駆使した先制攻撃。がしかし、松下先生はそんなことでは動じない。
特に2本目の松下先生の右胴がお見事!!
初っぱなの面連打が後半になってボディブローのように効いていたのがよく分かる右胴でした。

3位決定戦(綜合)

3決は立教大学出身同士、所謂同門での戦い。

よくもまあここまでお互いこの競技に拘ってやってるよ、とぼやきたくなる瀬戸×片山の一戦。

段審査では初段戦~四段戦と同じタイミングで昇段するため定期的に試合している。'22年も7月に四段戦を綜合乱取で行った。ちなみにこの時は僕が右胴打、逆内刈で勝った。

公式戦では'16年秋新人戦以来、実に6年ぶりとなるカード。ちなみにこの時は両者技なし、判定によって片山が勝っている。

序盤。打ちの冴える片山の間合を潰そうと積極的に右胴から攻めていく。
片山は応酬し、内刈へ。
そこを狙っていた瀬戸、右足を引きながら相手を呼び寄せ、逆に片山の足を抱え逆内刈へ。

先制。

余談だが足技で技ありを取った後は抑込を狙える姿勢且つ下からの反撃に備えてマウントポジションを取れる縦四方の位置取りをするよう、心掛けている。綜合乱取のコンセプト上、組討が根っこにある為、短刀での組技や首を狙う姿勢等はとても大切なことの様に思う。乱取という競技を通じて組討(コンセプト)に思いを馳せることは武道家として肝に命じたい。

中盤の打合は五分。お互いしっかり打ちきれていたし、気持ち良く残心も取れた。

試合は終盤へ。出鼻、右胴にタイミングよく脚を抱えてきた片山、予想外の動きに驚くも豊嶋先生に教わった脚をスイッチさせ逆内刈を逆内刈で返すやり方を実践。

返逆内刈技あり、試合それまで。

結局今年、片山からは段審査含め逆内刈で3本技ありを奪ったことになる。

次は変化させて内股を狙いたいな(悪い顔)


3位決定戦(柔拳法)


遠間から懐を伺う私。守りを固めるあっくん。

拳法の3決は中村あっくんと。
あっくんは性格的に堅い(めちゃくちゃ)なのでこちらから試合を動かさないと面白くならない。
ので、こちらから攻める。
昨夜、鈴木(博)先生、豊嶋先生との会話を思い出しながらの攻め。下段払い蹴りで出足を止めながら上段ないしは中段を攻めるという形。
また、相手の背中側へサークリングしながら強い蹴や突を受けにくくするという体捌きの形。

2本目は慣れてきて、上段にフェイントを入れながら中段をやや浅く打って間合を取る、なんて芸当が出来た。
非常に満足。

一本目の中段突きの感触が、いつまでも左の拳から消えていかない。

決勝(綜合)

菊地×松下(敬称)による頂上決戦。

序盤、互いの胴打がポンポンと決まり合い、展開が止まるも、間合のシビアさ、積極的に抱腰や逆腰車を狙い合う2人の温度のヒリつきが、肌を刺すようで痛かった。

中盤は松下先生の展開。ジリジリとプレッシャーを掛け、鉄壁の菊地選手をコート隅に追い込んでいく。中盤のプレッシャーはとんでもなかった。だがここで菊地選手はキレず、堪えきった。ここが凄い。俺だったら堪えきれず形を崩してしまう展開だが、菊地選手は違った。堪えきったのだ。それが、最終局面の正面打ちに繋がっていったのだと思う。今思えばあの粘りは菊地先輩の命綱だったのではないかと思う。細くて、一本手繰り寄せ間違うと脆くも切れてしまう命綱。
こんな薄氷を踏む局地を、よくも耐えきったものだと、観ながらに涙と感動を禁じ得なかった。
そして最終局面、窮地を脱したのは菊地先輩の力強い面打ちだった。あの面が松下選手の脚を一瞬止めたのだと、そう思えてならなかった。

判定は2-0で菊地先輩に。

2010年代の、10代終わりの頃の先輩ではなく、2022年に、20代の「強い」菊地先輩がカムバック。遂に帰ってきたのだ。
個人的には2017年に肩の怪我で迷惑を掛けたことがずっと引っ掛かっていたこともあって安心したいというエゴがあったことは否めない。
だが、あの頃の怪我の影響を微塵も感じさせない強い先輩が、再びチャンピオンとして帰ってきたのだ。これ程嬉しいことはない。

いつまでも、拍手は鳴り止まない。今年の主役は間っっ違いなく貴方でした。

まとめっぽい何かpart.1


いつからか、自分は綜合乱取を通じて何かを表現しきれるだろうかという思いを抱えながら稽古してきた。
綜合乱取の持つコンセプトの重層性、スピード感、力強さ、間合のコントロール、野性味、知性溢れる駆け引き……そういった身の詰まった筋肉質な魅力を、当事者である自分たちのものだけじゃないんだと、ごくごく身近な立教部員や武道に興味を持つ身辺の人たちに伝えるにはどうすればいいのかと考えてきた。

そして、求心力を持つ乱取をする為には先ず自分がその「魅力」を実演出来なければダメだと思っていた。だから自分に足りないと思った寝技の理解度を高めるためにブラジリアン柔術を始めたり、立ち技の理解を深めるために柔道の実力を身に付けようと思い、実際稽古してきた。
今日の決勝戦が僕自身理想としてきた綜合乱取の極致だったので、自分が当事者になれなかった悔しさはありつつも、本当に良いものは皆の力で作るものなのだと、改めて教えられた。

綜合乱取の持つ可能性をこんなにも力強く表現する人たちが身近にいるという喜びを誇りに思う。

今年も武道を心身に携えて生きてこられた。
耐え難い悲しみや別れもあった。
新しい出会いや萌芽を目の当たりにすることもまた、出来た。

いいものは、みんなで作っていくもんだよね。

来年もまた、皆変わらず走っていくのだろう。


池袋綜武会の面々。気鋭の若者たち。
(加藤先生が混ざっているのがらしくて良い。)

お し ま い  





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