カーテンレースから青い光が入ってくる 午前5時半 私は天窓を開けて顔を出した 小さな屋根裏の小さな窓 私の自慢の部屋だ まだ何にも染まっていない純粋な朝の空気が 頬を撫でる 至福の30秒 すると少し離れた向かいの家の桃子さんが 玄関を開けて出てきた 桃子さんは毎日この時間に外に出てきては 庭の愛する子供たちに水をやるのだ その中でもザクロの木は桃子さんにとって 大のお気に入りである 「オコトちゃん 今日も黄昏てるの?」 茶目っ気いっぱいな声がする 桃子さんは私を「オ
交わったり すれ違ったり 近づいたり 離れたり そう簡単にはいかないけれど 私はけっこう幸せだったわよ もちろんいろんなことがあったけれどね 悲しいときは助けてもらえるわ 悲しいことと嬉しいことは 一緒にやって来ることがあるの 悲しいけど助けてくれる人がいたら 嬉しいでしょ? 人生っていうのはね 簡単なものじゃないのよ でも人生ってステキよね 私が生まれてきたって ひょっとしたら ものすごくステキなことだったりするわ あなたもそうおもうでしょ?
子供の時にだけ、あなたに訪れる まだ何も知らないっていうのは 色んなものが見える、色んなことが知れる そういう事なのかもね 誰にでも子供の頃がある あなたにも素敵な出会いがありましたか? さつきとメイのひと夏の物語 いずれ2人にもトトロが現れなくなる日が 来るだろう それは大人になるっていう素敵なことで 少し悲しいこと 夢だけど夢じゃなかった! 不思議な出会い
二郎は空に憧れて夢を追った。 その彼の夢は滅びと死を生んだだけだった。 だが、彼の飛行機は美しい。 ただただ、美しかったのだ。 菜穂子は夢を追う彼を愛した。 死を受け入れることになったとしても 彼を、彼と共に生きることを選んだのだ。 二郎は夢と愛、どちらをも求め、 菜穂子は死と愛を選んだ。 二郎が夢を捨てきれなかったことは 罪なんかではなく、菜穂子はそんな彼を愛していた。 生きることは時に辛く悲しい。 だが菜穂子が手に入れることが出来なかった 生きることは、美しく、捨
甘くて、苦くて、もの哀しい ジーナは深い哀しさを背負ってしまった女だが とても美しい。 女は哀しさと比例して美しくなる。 飛行艇乗りと3度も恋をした恋多きジーナ 1人が死ぬたび次の男と恋に落ちる。 恋に取り憑かれている彼女は 一生、愛した男たちを思い出の中に閉じ込めて 生きていく。 彼女は1人生き残ってしまったポルコまでも 愛したいと願ってしまった。 そんなポルコは 誰も愛さないと決めているように思う。 それをジーナは分かっている。 2人の関係は言葉では言い表すことができ
私は ずっと幸せになりたがっている 幸せを追いかけている 追いついたかと思ったけれど やっぱり、まだ先にある 私は ずっと大人になりたがっている ただ歳を重ねたいという意味ではなく 深く、地面まで行き着いた私になりたいのだ 何年も生き続けている、森の木々 世界中を旅している、風 地球をまわり続けている、水 私はそんな存在になりたい 誰かが現れて、 私を幸せの場所まで連れて行ってくれたら そうすれば幸せになれるだろうか 私には何が足りていないのだろうか
今日は赤いマニュキアを塗った 毒毒しい赤だ 私が赤いマニュキアを塗るときは 心に傷がついたとき もう泣かないと決めたとき でもマニュキアが乾くまでの あの淋しい時間だけは 泣いていいことにしよう
古本屋で日に焼けた詩集を買った だいぶ古い本なのだろう ところどころシミや傷もある その日の夜 ベッドの上で 過去の匂いがするその詩集を読んでいると 何故か涙が出てきた
窓際の机に置いた緑たちが全部窓の方を見る あーあ だから夏は嫌いだ あーあ また蜘蛛が出た それも巨大な ほんと嫌になる 夏 私は幸せになりたくなる 青すぎる空 綺麗すぎる緑たち その全てが私を虚しくさせる 夏って時間が長い なかなか過ぎていかない でもね 夏の音だけは好き 夏の音は懐かしい音 私の味方をしてくれる音 ずっと昔から知っている音 私の大好きな音だ
永い夢をみていた気がする 夕陽の粒がカーテンレースから入ってきた途端 分からなくなった 長い昼寝の永い夢 記憶は消えてしまったけれど なんだか湖から浮上してきたみたいな 美しすぎて恐ろしい そんな気持ちになった
あなたたちはいったい何処へ向かっているの? スマートフォンという小さな箱は いろいろな世界と繋がっているわ みんな広がった世界に夢中なのよ でも あなたは違うわ 黄昏時___みんなが疲れきっているその時間に あなただけが顔を上げているもの 参考書でも 自己啓発本でもなくて 小説を読んでいるステキなあなた 時々本から目を離して 空から降り注ぐオレンジ色の光を見ているわ たぶん この中の私だけが あなたに気がついたと思うの だって私もあなたと同じなんだもの 少しだけ自
いつもステキに笑う優しい人 いつもそばにいてくれる優しい人 いつも気配りができる優しい人 彼らは皆、重い荷物を抱えている 優しさとは簡単に手に入るものでは無い それには代償が伴っている 辛く悲しい時間を捧げた人 深い孤独を味わった人 理不尽な目にあった人 やさしいひとは、世界一脆く、哀しい 私は、そんな彼らを好きにならずにはいられない
別れとは美しい 新たな出会いへの希望と 後ろに残してきたものの美しさ ふたつを抱えて生きていく 儚く、残酷で、美しい 別れとは思いやりだ 自分を守るため相手を護るため 人は別れを選ぶだろう 別れを選択できる人は 大人で、かっこよくて、淋しい人だと私は思う
ここまででやめておこう これはネガティブな感情なんかではなく余韻だ もっと進めば良いものが待っているのかもしれない だが私はここで止まる 今こそが1番素晴らしい場所だと信じている 今いる場所の余韻にしばらく浸ろうではないか 「進まない」なんて贅沢なのだろう だがこの贅沢には少しの淋しさがついてくる この贅沢に気づかないことこそが本当の幸せなのかもしれない 進み続ける人は強く儚い 進み続けることは私を削っていく だから私はこの場所にとどまることに決めたのだ