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All for one story 第二弾

みんなで1人の小説家、みんなで1つの物語
となって遊ぶこのAll for one story。

概要はこちらから!

1回目の物語がこちら!


今回は2回目!
どんな物語になったのでしょうか~


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8:00:グッ。グッ。シャー。シャー。今日は一段と長い。かれこれ二時間も居座っている。どうやら大物らしい。最近は、一時間前後だったのに、とんだロスタイムである。僕の気持ちも考えてほしい。まあ、彼が胃腸が弱いことは知ってるから責めることはできない。
ただ、今日は長すぎる。ビビッっと彼の携帯に通知が来た。見てみると、ケールという人物からボイスメッセージが残されていた。それを見ると、
「おい!モルス。お前今何してるんだよ。遅刻だぜ!早く来いよ!!」。と書かれていた。

どうやら彼の名前はモルスというらしい。

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1時間以上、携帯を置いて出かけるなんて不用心すぎにも程がある。そして携帯がなくても生きていけそうなタイプだろうから、今すぐ携帯を解約した方がいい。
僕が彼、モルスの事を調べ始めたのは、1週間前からだ。毎週火曜日の1限目の、心理学の授業でいつも僕から2つ離れた席に座る女の子から頼まれたのだ。
「この人のこと、調べてくれない?」
そう言って、知らない男が写った写真を渡してきた。調べると言っても、彼がいつどこで何をしてるか、彼女に報告するだけだったし、その男は僕と同じ学科だったから、そんなに難しくはなかった。
ちなみに何でそんな訳の分からない頼みを承諾したかと言うと、その女の子がタイプだったから。それだけ。

8:15: 彼が戻ってきた。

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彼は自分の携帯を手に取りボイスメッセージを聞いたあと、驚いた顔をして走り出した。今から1限目の授業に向かうのだろう。今日は水曜日だから、今から体育の授業のはずだ。体育では授業が始まる前にジャージに着替えておく必要があるし、体育館はここから離れたところに建っているから、まだ授業が始まるまでに時間があるといっても悠長に過ごしてはいられない。
僕はというと、モルスがカフェのトイレに入るのを見届けたあとに注文したサンドイッチとコーヒー、それから追加で注文したアイスクリームをゆっくり味わっているところだったから、彼を追いかけるということはしなかった。それに、僕は体育を履修していない。
アイスクリームを口の中で溶かしながら、1週間で僕が得たモルスの情報を思い返してみる。彼はたいてい彼の親友と行動を共にしていて、朝はカフェのトイレに行くことが多くて、昼ご飯は外で食べるのが好きで、大学近くのレストランでアルバイトをしていて、そこの店長と仲が良くて、カラスとコーヒーが嫌いで、ピーナッツアレルギーで、記憶力がよくなくて、だから幼い頃の記憶はほとんどない。どれも彼の行動や会話の盗み聞きで知ったことだ。素人にしては上出来だろうと思う。
それにしても、どうして彼女は彼の調査を僕に依頼したのだろう。心理学の授業をとっていることしか共通点のない僕に。
9:40 : そろそろ教室に行かなくては。次の授業は僕とモルスの両方が受講している。


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10:00 : 心理学の講義が始まると僕はいつものように自分のスマホを取り出し、Twitterを開いた。
「最近誰かにつけられてる希ガス」
というツイートがTLに流れてきた。このツイートの主はモルスだな。
「心理学!ンゴ!ンゴ!ンゴゴゴゴ!!!」モルスはTwitterで発狂していた。
リプ飛ばしとくか。
「334」
「な阪関無」秒で返信が返ってきた。
ん?よく見るとこの返信の主はモルスではない。あの女の子だ。
「巻き込みリプやめてクレメンス」これはモルスだ。モルスは生粋の2ちゃんねらーのようだ。
「おけ」これはあの女の子だ。
どうやらモルスも、あの女の子も、そして僕も心理学の講義を聴く予定はないらしい。
そうだ。トレンドを見てみよう。
「サイゼリヤ」「身長170cm」「加藤純一」etc…
ああ、今日も日本は平和だ。

11:00: 線型代数。いつもだったらのめり込むように講義を聴くのだが、今日は違った。
 さっきの休み時間での出来事が忘れられないのだ。僕もモルスも忘れてしまっていたが、僕とモルスとあの女の子(百合子)は幼馴染だったのである。
 思い出した。小学校の卒業文集で百合子は将来政治家になりたいと言っていた。「わたしはいまのとせいにまんぞくしていません。じゃくしゃのぎせいのうえになりたつせいじであってはいけないはずです。」確かそんなことを書いていた。あいつはほんとに小学生だったのか。


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数学の講義の内容が頭に全然入ってこない。
色んな記憶が急にフラッシュバックしてきて混乱している。
ここで一度現状の確認をしてみよう…


一週間前が全てのはじまり。
気になってる女の子=百合子から、「モルスを調べてくれないか」と急に言われた。
調査をして、分かったことはモルスは小さい頃の記憶がないことを除き、トイレが長いだけの普通の学生だということ。
それに伴い、思い出したことが百合子とモルスと僕は幼馴染だったという事実だ。

ここで謎が2つ浮かんでくる。

なぜ彼女はモルスを調べてくれと僕に頼んだのか、ということ。
そして、どうして僕も小さい頃の記憶、僕たち3人が幼馴染だったことを忘れていたのか、
ということ。

12:00 数学の講義が終わると同時に部屋を飛び出した。

12:03 心理学の教室。彼女の姿はない。

12:07 体育館。彼女の姿はない。

12:12 カフェ。彼女の姿はない。

一体どこにいるのか、

17:00 彼女はずっと見つからず、謎と記憶が頭をモヤで包み込む。気づけば、今日の講義はすべて終わってしまっていた。

なんで百合子のことも、モルスのことも忘れていたんだろう。
なんで百合子はモルスのことを調べさせるように、僕を促したんだろう。

学校の近くの駅まで歩き、電車に乗って、最寄りの駅までの間、ずっと考えても答えはでてこない。
気持ちと一緒に、辺りもだんだん暗くなってきた。

18:00 家の近くで彼女を見つけた

なんで彼女がここに?何をしているんだろう?
そんなことは一切思い浮かばず、彼女を見つけた僕は無我夢中に走っていき、荒々しい声で問いただす。
「なぜ僕は忘れてしまっていたんだ!僕たちは幼馴染だったじゃないか!!
なぜ君はモリスのことを調べるようにと、僕にお願いしてきたんだ!
答えてくれ、百合子‼!!」

たくさん走ったせいか、
一気にしゃべったせいか、
僕の荒い息の音がうるさい。

そんな僕を気にも留めていないかのように、ゆっくりと彼女は答えた
「あら、やっと思い出したのね」

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「フンミン、私とモルスとあなたは小さい頃一緒に遊んでたのよ。海も行ったし、山へも行った。でもね、10年前、何があったか覚えてる?」
「10年前?」
「思い出したぜ、百合子!!!」
後ろを振り向くとそこには、たくさん走ったせいか、一気にしゃべったせいか、荒い息をするモルスが立っていた。
「モルス・・・」
「フンミン、お前が俺のことを、百合子のせいで着けていたのは知っている。お前も俺のこと思い出したんだろ?俺らは大の親友だった。近所から何て言われてたか覚えてるか?本当の双子みたいねって。でも今まで忘れていたんだ、笑っちまうよな。」
「モルスも思い出したのね。それでは、10年来の約束を果たしに行きましょう。」
僕とモルスは声を合わせて言った。
「もちろん!」

19:00 僕らはある公園に着いた。そこには、大きな大きな樹がそびえ立っていた

その木はあまりに大きくこの町の守り木になっている。周りには草が生い茂って、誰も近寄りそうにない。
「あの入り口よ」
その木には、下の方に小さい子どもがやっと入れそうな穴があった。いかにも、子どもたちが秘密基地!とか言って楽しみそうな穴だ。恐る恐る入ってみる。
そこには、子どもたちの記憶、思い出、夢が詰まっていた。
しかし、一つだけ、一つだけ、僕らにとっての因縁のある”それ”がそこにはあった。


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暗くて狭い穴の中をスマホのライトで照らすと、鈍く反射して光るものがあった。それは、見覚えのある、古びたステンレスの容器。
モルスと僕は目を見合わせる。がつん、と殴られたように頭が痛む。
僕たちにはまだ、忘れていたことが。ひとつ、あったのだ。
そうだ、僕たちは10年前……ここにタイムカプセルを隠した。そしてその次の日_
百合子は交通事故で死んだのだ。

ああ、どうして気が付かなかったんだろう。僕たちを10年越しで巡り合わせた目の前の女の子は、目元がよく似ているが、百合子の妹の沙都子だ。たしかにこれまで彼女は一度も、自分が百合子であるとは言っていない。

「……騙すような真似をしてごめんなさい。でも、貴方たちがいつまでも忘れているから」

僕と百合子とモルスは、生まれた土地も環境も異なっていたけれど、とても気があう親友だった。歳なんて気にしたことがなかったから、卒業したんだと卒業文集を見せられた時初めて、彼女が僕たちより2つも歳上であることを知った。

幼かった僕たちのたくさんの思い出には、百合子が不可欠だった。百合子の死に幼かった僕とモルスは耐えられず、心を守るために記憶を封印していたようだ。
記憶が無いにも関わらず、僕は人生で出会うひとびとに百合子の面影を見て、そして強く惹かれていた。見事に約束も、昔の親友たちのことも忘れていたのに。

ああ、そうだ、約束。
百合子の声が脳裏に蘇る。

『ふたりが20歳になったら、またこの場所で会おう。いっしょにタイムカプセルを開けよう。
_私たちはいつまでも、友達よ!』

隣でモルスが涙をこぼす。

「ああ百合子……ずっと忘れてて、ごめんな」

沙都子は、少し離れて僕たちを見守っていた。

「沙都子、僕たちのために……ありがとう」

僕がそう言うと、彼女は寂しそうに目を伏せる。

「……姉さんに、あの日頼まれていたの。もし私が行けなかったら、って。貴方たちが忘れたままだったら、姉さんが報われないでしょう」

沙都子が回りくどい方法で、僕たちを巡り合わせた理由が、今はわかる。きっと、記憶を取り戻す時にかかる精神的な負荷を減らすためだったのだろう。

「なあ、フンミン」

「ああ、百合子との約束を守ろう」

僕たちはタイムカプセルに手を伸ばした。

19:15:僕たちは、ようやくあの日の約束を果たす。


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