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240116 おかわり

 初めての入浴介助を無事果たすべく、着替えて臨むのか、脱いで臨むのか、わたしは前夜から悩みに悩んだ。天気予報によれば、めっちゃ寒いというのも悩みの深さに輪をかけた。
 ただでさえ動作がとろい上に、段取りよくやらなければ利用者さんたちに迷惑をかけてしまう。のだから着替えて臨むのではなく脱いで臨むことにした。
 ここまでは良い。問題は何を着ておけば下に何が着られるのか、である。 
 最初考えたのがスモックの下にロンT+ウールの厚手のスパッツという組み合わせだったのだが、それだと脱ぐと生足になってしまう。生足で階段昇って(エレベーターより階段昇ったほうが早い)次の利用者さんを呼びに行くのはどうなのか? いろいろいろいろ考えた末、脱ぐのはセーターとダボパンと靴下、介助はその下に着た薄手の長袖Tシャツとsou・souの高島縮みのえんゆう穿きでいくことに決めた。介助が必要なのは2人だけなのだが、なにしろこちら初心者なのでたぶんずぶ濡れになるだろう、ということで、ドライヤーまで終わったら風呂に戻って掃除をし、そのあとトイレに駆け込んで急いで着替えることにして、濡れたものを入れる袋と乾いたおパンツとスパッツを入れて、これを着てその上に最初に着ていたセーターとダボパンと靴下を履けばいい、よし準備万端!と意気揚々、GHへ向かったのであった。
 ところが……お出迎えくださった施設長さま、「今日は入浴介助ないからゆっくり夕飯の支度をしてくれればいいわよ」と。あら?

 というわけで入浴介助は次の機会におあずけ。

 言われたとおり利用者さんと夜勤さんの夕飯をつくった。といっても、パスタとできあいのパスタソースでメインはもうすでに決まっていて、サラダも要らないと言われて、わたしがつくったのはスープだけ。
 利用者さんは「おいしい」と言って、「おかわりしてもいいですか?」とスープの入った椀を差し出した。そして食べ終わると自分で流し台に食器をもっていき、自分で洗い、「薬を飲みます」と言った。とても礼儀正しい。無理してないか?
 部屋に帰って30分ほどしたら降りてきて、「何時までですか?」と聞かれたから「8時までです」と答えたら、「敬語やめてください」と言われた。「うん、そのうちね」と言ったら、「はい、そうしてください」と言われた。それから「次はいつ来ますか?」と聞かれた。「金曜日に来ます」と答えたら、「また夕飯をつくってください。それから敬語はやめてください」と言われた。「次は敬語じゃなくても話せるかもね」と答えたら、彼女が笑った。
 
 です・ますと話しかけられて、●●じゃん、とは言いにくい。彼女がほぐれるまで、まあ、そのうちだ。ゆっくりゆっくり。
 また、おかわりしてね。

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