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2021/3/27 光が丘IMAホールブランチコンサート

2021年3月27日に行われた、角野隼斗さんの光が丘IMAホールブランチコンサートの感想を書きます。私の勝手な妄想と自己満です。ご了承ください。

Note書くつもりなかったんです

角野さんの生演奏を聴かせていただくのは、今回でありがたいことに5回目になります。過去4回はnoteに書いていますが、実は今回は書くつもりはありませんでした。すでに皆さんがたくさんレポをしていらっしゃるし、「ブランチコンサート」なので、気楽に聴きに行ったつもりでした。

それなのにもかかわらず! 当日会場で泣くつもりなんてさらさらなかったのに!(サントリーホールソロリサイタルと、桐生のラフマニノフは泣く覚悟でしたが(笑))、泣けてしまった…。
あまり信じてもらえないかもしれませんが、私はもともと、そんなに簡単に泣くタイプではなく、若いころはむしろ「みんな泣いているのに、自分一人平然としていて、私には心がないのではないか?」と疑ったことがあるくらいです。それなのにもかかわらず!(2回目) 角野隼斗というピアニストには泣かされ続けている。これはいったい何なのか?

角野さんの音楽はいつも情報量がケタ違いで、自分でもなかなか言語化できない感情を引き起こされる。「あーもう、また最高、ヤバい」で済ませることもできるのかもしれないのですが、なんと言ってもご本人が「言語化の放棄、思考の放棄はしたくない」と明言するお方…。

考えたうえで、言葉が見つからないのは良いのですが、最初から探そうとしないとそれに慣れてしまうので。やるかやらないかは自由なんですけど、言語化することで、自分のことも分かるようになるし、表現も広がっていくと思います。

なにより書くことで頭のモヤモヤが整理されることが大きいので「私は何によって泣かされているのか?」 それを突き止めたくて、書くことにしました(前置きが長くてすみません)。

【追記】
結果としてこちらのNoteは、特級グランプリを受賞した後の2018~2019年の良質なインタビュー記事3本のまとめともなりました。まだ学生の頃のインタビューなので、現在とは環境も大きく異なりますが、言っていることがまったくブレてない! ベビーカステラ好きも(笑) さすがだな~。

演奏曲目

第一部は、ピアノ・ソロリサイタル『ショパン』

1)ショパン:バラード 第2番 Op.38 へ長調
2)ショパン:エチュード Op.25-10
3)ショパン:エチュード Op.25-11「木枯らし」
4)ショパン:ワルツ 第6番 「子犬のワルツ」
5)角野隼斗:大猫のワルツ
6)ショパン:ワルツ 第7番 Op.64-2
7)ショパン:ノクターン13番 Op.48-1 ハ短調
8)ショパン:スケルツォ 第3番 Op.39 嬰ハ短調
9)ショパン:ポロネーズ 第6番「英雄」(アンコール)

「有象無象の」ショパンが並んでいます(ご本人にとってはごく一部なんだろうけど)。「HAYATOSM」に収録されている曲(4,5,7,9)や、2020年12月13日のサントリーホールソロリサイタルでも演奏された曲(1,3)がメインですが、私としては初めての曲(2,6,8)も聴くことができました。

角野隼斗:大猫のワルツ

「大猫のワルツ」でまず泣けてしまったんですよね~。。自分でも呆れるんですけど。今まで「大猫が、あまりに平和すぎて幸せすぎて泣けちゃうの」と言っていた友人を内心「それはいくらなんでも」と思ってたのに(笑)。
これはあくまで勝手な想像ですが、はじめの3曲がかなり緊張感を感じたんです。サントリーホールの時とも違う、何かコンクールのような、評価が下される、そのまな板に乗っているような。
それを無事乗り越えて、かてぃんワールドに持ち込めた、その安心感にホッとして泣けてしまったのかと…。アホですね、私。

ショパン:ワルツ 第7番 Op.64-2

憂いがあって美しいワルツ。(PTNA「ピアノ曲事典」より)

角野さんはこれを途中からジャズ調にアレンジして演奏してくれました。HAYATOSM収録の「愛の夢」のパターンですね。弾き終わった後に「かなり遊んでしまいました」と言っていましたが…。

MBSラジオ「メゾンスミノ」2021年2月10日O.A.で、小曽根真さんがご自身のボーダーレスな音楽活動について、このようにおっしゃっていました。

僕は多様性が愛おしいんですよ。歴史があるものは、それを大事にしようとするあまり排他的になってしまいがちだけど、僕は音楽にはそれがあったらイカンと思う。特にクラシックの人たちが(クラシック曲を)自由に解釈して個性を出していくのは怖いし、賛否両論は出てくるだろうけれども、せっかくこの世に生まれてきたのだから、自分の意見をちゃんと言うのはすごく素敵だし、音楽家としての役目だと思う

それを聞いて

「自由にしてええんや!」

と叫ぶ角野さん。そしてこう続けます。

クラシックだからこう、ジャズだからこう、ではなくて、純粋にカッコイイ音楽を楽しむ、文化には愛を持ってそれを伝える

いつものCateen's Liveと違いクラシックピアニストとして、ショパンのワルツをジャズ調にアレンジして弾くことは、王道を踏み外す行為だと言う人もいるかもしれない。ましてやショパンコンクールを控えるピアニストがやることではなかなかない。けれども、ボーダーレスに音楽という文化そのものを愛する角野さんにとっては「純粋にカッコイイ音楽を楽しむ」ことこそが、王道なんですよね、きっと。

でもこのような場所では、どこまでそれを出したらよいものか探り探りやっている感じがあって…、怖さと賢さが同居した絶妙なサジ加減を感じる「ワルツ第7番」でした。

【追記】
このコンサート後に行われたCateen's Live ”70万人ありがとうLive from CASIO Studio” でも、このワルツ第7番Op.64-2が演奏されていました。CASIOキーボードでのCateen's Liveということもあり、こちらは好き放題、指パッチンまで入る縦横無尽かてぃんワールドなJAZZアレンジでしたね。

ショパン:スケルツォ 第3番 Op.39 嬰ハ短調

私は特にクラシックに詳しいわけではないので、この曲はこの日、初めて聴いた曲でした。なんてドラマティックで美しい! 印象的な下降音が、角野さんのキラキラと丸い水玉がこぼれおちるような音にぴったりで、「これは角野隼斗が弾くべき曲だ」と感じました。
そして聴くうちに、目の前にワルシャワフィルハーモニーホールが悠然と現れて…(よく知らないのに!)、いつの間にかワルシャワに連れていかれてしまっていました。またもや角野隼斗マジック
(こうやってシチュエーションに連れていかれたり匂いがしたり、音だけのはずなのに4D映画かよ?! という信じがたい表現力を越えた表現力にも、そろそろ慣れてきました。ちなみに私は妄想力はたしかにたくましいですが、通常なにか別の音楽を聴いてどこかへ行ってしまうことはありません(笑)。フラを踊っていて、深く入り込みすぎることはたまにありますが…)

それと同時に演奏から伝わってきたこと。
ショパンコンクール、本気も本気、でした。いえ疑ってたわけでないのですが、何せこのタイミングにブルーノート公演2DAYSをぶっこんでくる男です。嬉しいのと同時に「え?このタイミングに?」と(いつもながら)度肝を抜かれたのは事実です。

どこで見聞きしたのか探せなかったのですが「勉強を14時間はできないけれど、勉強7時間、ピアノ7時間ならできる」という彼独特の論理が働いているのかな?と(どなたか正確な出典をご存じの方いらっしゃいましたら、教えてください。こちらのインタビュー「迷ったらどっちもやる」には近いことが書いてありました。インタビュアーさんの「一日って24時間で合ってますか?」というツッコミに震えます)。

つまり、私のような凡人レベルに置き換えると、「甘いお菓子ばかりだと飽きるけど、甘いの、しょっぱいの、甘いの、しょっぱいの、だったら永遠にループできる」という感覚で(?)、ショパンコンクールに本気だから、ショパンに集中したいからこそ、ブルーノート公演をやるんだと理解しました。
うん、これは泣けても仕方ない。この決意たるや。間違いなくどっちも本気。

【追記】
友人のホース係さんにおしえていただきました! ありがとうございます。ホース係さんもこのコンサートの第二部についてNoteを書いていらっしゃいますので、ぜひお読みください。

昔から、勉強が辛くなってきたらピアノへ、ピアノが辛くなってきたら勉強へと、お互いがお互いの気晴らしになっていました。1日に勉強だけ14時間続けることはできないし、ピアノだけ14時間練習もできない。でも勉強7時間、ピアノ7時間ならできる

ショパン:ポロネーズ 第6番「英雄」

アンコールは「英雄ポロネーズ」でした! 
角野隼斗さんが演奏する英雄ポロネーズは、英雄そのものを描くのではなく「沿道を埋め尽くすおびただしい群衆が、大地を揺るがすような大歓声で英雄を迎えている、その人いきれと埃っぽさ、興奮と熱狂を余すところなく描写することで、ひとりの英雄を浮き彫りにしている」のだと思っています(以前のNoteに詳しく書きましたので、良かったらご覧ください)。

なのでHAYATOSMでは、私にとって聴くときによって浮かび上がる光景が違ってくるのです。ある時には父親に肩車された子どもが「ねぇママ、あの人だれ?」と問い、母親が「あのお方はね…」と誇らしげに語ったり。またある時には老人たちが「生きている間にこんなパレードを見られて良かった」と満足げだったり。たぶん群衆の数だけ、味わっても味わっても飽きることがないでしょう。音がなめらかだとか美しいとか気品があるだとか、そんなことは当然で…こんな「英雄ポロネーズ」が他にありますか?!

と思っていたのに! この日の演奏は、それをさらに上回っていた!!

あの左手オクターブの連続、多くのピアニストが苦労する部分の、右手の和声の、内声がさらに豊かに聴こえるのですよ…。なんなんだ、これは?! とずっと考えていて、ようやくわかりました。あれです、よくサッカーの試合で「オーオー」と歌われる「アイーダ」。あの興奮と一体感。HAYATOSMでは烏合の群衆だった人々が、今日は肩を組み、心をひとつにして「英雄」を讃え、歌っている…!

いやね、これは泣けますよ。うん。しかも新しくやることが目白押しで、時間が恐ろしく足りない中、何度も弾いているレパートリーを、さらに進化させているなんて…!

おわりに

幸いなことに、第二部「ミニチュア楽器祭」にも参加させていただくことができました。楽しかった! こちらでは自己紹介を「かてぃんです」と言っていましたね。そして階段を下りるのが早いとか、50m走が6.4秒だったとか、質問に答えてくれたり、またいつもながらの神業マルチタスク(アンケートの中からリクエストを選び、それをつなげて即興的に演奏する…体を開いて向かい合わせになっているグランドピアノとキーボードを弾いたり)も見せてくれました。

なにより、子どもたちとの共演が素晴らしかった! 直前に集められたアンケート用紙をもとに、その場である程度偶然性に任せて選んだはずなのに、1人目の男の子はたどたどしさが一生懸命で可愛らしく、その音間を美しく埋めて「カンタービレなメリーさんの羊だった」といい、2人目は「女の子がいいな」と選んだ子が楽しく「スーパーマリオブラザーズのテーマ」を弾いてくれ、3人目は「トイピアノを弾いてくれる子がいい」と選んだ子が明らかに腕の覚えのある男の子で、聴かせる「きらきら星」を弾いてくれました。

この構成がちゃんと序破急になっていて、まるでもともとそういうプログラムがあって、あらかじめオファーされていたかのような人選でした。この構成力よ。なんで? 偶然にしては出来すぎだけど、きっと彼の頭の中にはプログラムが出来上がっていて、ちゃんとそのように引き寄せる力も持っているんだろうな。ホームパーティにお呼ばれしたかのような、楽しい楽しい回でした。

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