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2020/12/13 角野隼斗ピアノソロリサイタル@サントリーホール リアル公演

2020/12/13、もしかしたら20年ぶりくらいにサントリーホールへ。結婚以来、自宅から電車一本で行けるなんて知らなかったくらいです。同行の友人も「家事や育児を忘れて、なんて優雅な気分」とXmasデコレーションされたサントリーホールの雰囲気を味わっていました。座席はLB5-9。2階席バルコニー左側出っ張り部分。ホールに入った瞬間、ステージにぽつんと置かれたグランドピアノが目に飛び込んできて、思った以上の近さと、何より待ちに待ったステージに、まるで瞬間湯沸かし器のように気分が高揚して、思わずマサイ族のように小躍りしていました。

開演5分前「ご着席ください」との、まさかのご本人アナウンス。「正直1週間前からずっと緊張している、ウオオーーー!」と叫んでいた人が?! とその肝っ玉に驚きました。あとで「一度やってみたかったんですよね、声震えていましたけど」とコメントしていましたが、むしろ、このサントリーホール、この時間は、自分が支配するのだ、という気迫さえ感じました。普段がとても謙虚で心優しい青年であるだけに、たまに顔を出すこの感じ…、持って生まれた帝王的な、平民としてはひれ伏さずにいられないような感じが、平たく言ってしびれます。

開演し、角野隼斗さんが登場。椅子に座ってから…しばらく始まらない。1分ほどの時間の密度が恐ろしいほどでした。1000人の観客が文字通り息を呑んでいて、音という音が吸い込まれてしまっているかのように、一人のピアニストに全集中している。彼は、それを自分の起爆剤に使える人でした。「英雄ポロネーズ」。私にとって初めて聴く、角野隼斗さんのグランドピアノの生音がサントリーホールに響くのを聴いて、一曲目から涙していました。

それまで感じていた曲のイメージが、角野さんの演奏でガラッと覆されることは多々ありますが、この曲もその一つ。映画で言えば主人公を大写しにして(背景はCGだったりすることも)、その猛々しさや華々しさを主張するのではなく、何千人というエキストラを実際に動員し、そのひとりひとりにも物語があり、いまここに集まっている。沿道を埋め尽くすおびただしい群衆が、大地を揺るがすような大歓声で英雄を迎えている、その人いきれと埃っぽさ、興奮と熱狂を余すところなく描写することで、ひとりの英雄を浮き彫りにさせる…という手法のような。「一人の英雄的な行動は、民衆の力によって生まれる」という角野さんの信念が伝わって来るようで、同時にその英雄の姿こそ、角野さん本人だと実感させられました。

続いたショパンの3曲目「木枯らし」が始まった時のざわめきは非常に独特で忘れられません。ご本人の言葉で言えば「キターーー!」だし、コロナ禍でなければ「わぁ〜」と声が上がっていたはず。でも1000人が、ため息すら必死に押し殺した、その振動だけが地鳴りのように伝わった感じでした。木枯らしの演奏が終わって、ふと2階席中央に目を向けると、角野さんのお母様がplaywithcateenの未来ちゃんそっくりに、夢中になって拍手していらっしゃるのが見えて、ここまでの道のりに思いを馳せて、また涙。

子犬と大猫。アルバムもそうだけど、この2曲はただただ可愛く平和で幸せで、オアシスのよう。そしてご本人が何より楽しそう。私の席からは、弾いているお顔の表情はまったく見えなかったけど、弾む背中から伝わってきました。でもそうか、いまこの瞬間、初めて角野隼斗作曲の音がサントリーホールに響いているんだと気づいてしまったら、また感動の波が押し寄せてきました。

そして「奏鳴」。これはもう、タオルに顔をうずめ嗚咽をこらえるのが必死でした。美しく力強く神々しく、一筋の光の柱のような…と思っていたら、なんとサントリーホールが急に鳴り出したのです。天井か、反響板か、よくわからないけれど、上のほうがピシピシと。家鳴りは、温度差で鳴るというけれど、開場して観客が入ってからだいぶ経つし、それにしてもかなり長い時間、あちらこちらからピシピシ聞こえる…まるでヒビが入るように。正直言うとけっこう音が邪魔なくらいでした…最高峰のホールでこんなに家鳴りの音が鳴るんでしょうか? 2階席だから気になっただけ? とても不思議な現象でした。その時はわかりませんでしたが、帰宅してからふと謎が解けました。ああ、あれはクラシックの殿堂ど真ん中の、サントリーホールが抱える”何か“にヒビが入る音だったんだ! 角野隼斗の「奏鳴」の響きが、新しい命を生み出すような…。なので私にとって「第0番」の”ゼロ“は「卵」です。ヒビが入って生まれる寸前の。

(*12/31追記 Official FC 8810にて、このリサイタルの動画が限定公開されました。確認したら、やっぱり家鳴りの音が、何回か入ってますね! 観客が驚きのあまりプログラムを落としている音のようにも聞こえますが、天井の方からだったので違います。よかった、私の幻聴じゃなかった…)

「愛の夢」。アルバムHAYATOSMを通して聴くと、大変申し訳ないのだけれど、この曲がむしろ苦しいのです。「死の舞踏」で心臓をつかみ取られて、「ハンガリー狂詩曲」でとどめを刺されるのに、途中でものすごく優しくされてしまうような…。だったらいっそ、ひと思いにやってくれ!! と叫びたくなるような。でも実際の公演では、いったん退場が入ったので、とろけるように優しい響きがサントリーホール全体を包み込んで、心躍るリズムが体を揺らし、まさに至福の時を味わわせてもらいました。

「『ハンガリー狂詩曲』が来たらお別れだと思ってください」とMCで話していらしたので、タターン、と来た時には「え、もう?!」と、あまりにあっという間に過ぎてしまった時間に動揺してしまいました。
Youtubeプレミア配信の際に、あまりの衝撃に、夜中の3時まで寝られず、コメントを書きたい衝動はあるのに言葉にできないまま何日もかかった、まさに長/超大作。

余談ですが、その後Youtubeに書きこんだ私の超長文コメントに、海外のファンが「何と書いてあるのか知りたい」とレスしてくださり、さらにそれを見た別の(おそらく海外在住の)日本人ファンの方がなんと!翻訳をしてくださり(どんなにお手間だったことでしょうか…!)、その翻訳を読んださらに別の海外ファンがI totally agree with youとコメントしてくれた…という経緯がありました。こんなふうに「角野隼斗さんが好き!」という思いで、一瞬にして世界中ともつながれる、そんな経験をさせてもらえるのも、本当に貴重で嬉しく感謝しきりです。世界は素敵だ。

リアル公演での「ハンガリー狂詩曲」は、とにかく駆け抜けた、という感じでした。ステージを真上から見渡せる位置だったこともあり、だんだんと丸いステージが陸上トラックのように見えてきて、思わず「隼斗ガンバレ!」と叫びたくなったほど。カデンツァに「池の雨」が入ったのは分かったけれど、ストリーミング公演の「ハンガリー狂詩曲」の中に、何度か聴くうちにLINE着信音が聞こえたように、何度となく反芻したいのに、あっという間に過ぎ去ってしまう音の波を掴めないもどかしさを感じていました。

そしてあっという間に終わってしまった…。タオルを抱え、拍手も2倍しなきゃだし、じゅっちゃんからいただいた「BRAVO」も掲げたいし(じゅっちゃんありがとうございます!)、2階席だけど、まわりの観客は立ってないけど、もちろんスタンディングオベーションしたいし、とプチ混乱の中、アンコールへ。2階席だけど、ちゃんと私の「BRAVO」も見てくれました! 嬉しかった。

個人的には、総スタンディングオベーションとならなかったこともさることながら、アンコールへの拍手がそろわなかったのが残念でした。コンサートホールの会場に集まるからこその醍醐味! バラバラだった拍手が、しだいに集合として揃っていって、会場が一体となってボルテージが上がる中、演者が再び登場する…! あの感動を次回こそは期待したいです。

アンコール曲は、可愛らしく優しかった。私も演奏をトライしたことのある耳馴染みのあるモーツァルトのピアノソナタから、しだいにきらきら星変奏曲へ。ラストのラフマニノフは、2年前のサントリーホールへの感謝がこもった、慈愛すら感じる演奏でした。

外に出てからの、かてぃんずの皆様との集合写真は、また嬉しさひとしお。紅葉ライブの際に、はじめてリアルでかてぃんさんと、かてぃんずの皆様にお会いして、それまでずっとPCのこちら側で一人で興奮していたのが、こんなにも共有できる人がいるんだと、本当にありがたく感じていましたが、サントリーホール前では集合写真! 名前を聞けば、ああ、あなたが!と存じている方ばかりで、また想像をうらぎらない素敵な方ばかりでした。皆さんオープンで暖かくて聡明で、ご本人のお人柄が共鳴するんだなと実感しました。もっとお話ししたかった。

角野隼斗さんという方は、本当に不思議な方で、私の感覚では少なくとも4人ほどいます。身長120cmくらいの可愛いはやとくんと、160cmくらいの角野少年(よみぃさんと一緒の時によく出現)、等身大(約180cm?)の角野隼斗/Cateenさんと、あと15mくらいのArchangel Cateen、使命を持って降りてきている方。白い大きな翼を持っている。あくまで私の妄想ですが(笑)、それくらい懐深く幅広く、感受性鋭く、茶目っ気たっぷりで、賢く使命感強く慈悲深い。

そんなことすらウッカリ思ってしまった、あまりに多幸感あふれる、文字通り夢のような一日でした。

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