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2018/09/14 除籍

7:47

奏くん。あなたはいつでも私と共にあるし、私はいつでもあなたと共にある。今、ここにいる「私」とは一体誰だろう。

この日々を共にする、奏くんのご両親の在り方や処し方、私への愛と思いやり。家族と友達の愛や思いやりや行動。スナフィーの存在。そして何より、奏くんと共にした一〇年の日々で、彼が、愛してくれて、教えてくれて、育ててくれたこと。今ここにいる「私」は、それらでできている。そしてきっと、私はすでに、奏くんを取り込んでいる(まだ上手く言葉になってない)。

10:30

「零ちゃんには、キャリアにせよ何でも、どんどん前に進んで欲しいの。奏もそれを望んでいると思う」

車窓から多摩川を眺めながら、義母の言葉を思い出していた。いつもの笑顔と明るい声。でも、いつも以上にしっかりとはっきりとした発声に思えた。あの強さや明るさは、いったいどこからくるんだろう。

茉奈にLineをする。「今さ、戸籍謄本を取りに向かってるの。戸籍にバツがついて、そこにいついつ死亡、と書かれているのかと思うと、…本当に行きたくないよ。でも諸手続きに除籍の記された戸籍謄本が必要で…」。

でも、こうしてひとつひとつ、ある種の儀式を重ねることで、受け入れていくものなんだろう。

11:14

手続きは終わってあとは戸籍謄本の受け取り待ち。義父母との昨夜の時間を思い返す。この数日を一緒に過ごしたのは、素晴らしい選択だった。ご両親の処し方や、態度や在り方から学んでいる。私とは違うそれに戸惑いを感じることもあるけれど、適応して取り入れて、自分の処しかた在り方にすでに少しずつ変化が生まれて来ているのを感じている。

除籍の印が入った戸籍謄本を受け取る。自分ひとりになってしまった戸籍。それでも構わない。除籍の奏くんと一緒に生きていく。奏くんは私になって一緒に生きていく。遺骨を少しだけ、自分に入れたい気もしてきている。そしたら、物理的にも私の一部になるから。

11:58

Life goes on. 街は日常。私の人生は続いていく。奏くんの時間は止まったまま、全体の時間は進んでいってしまう。私の時間も。車窓に映る自分と目が合った。目の下には線があって、なんだか疲れているように見える。それはそうかと、思うけれど。

20:37

ワークショップが無事終わって一安心。

タトゥーを入れるのはどうだろう?二十四のときを思い出す。あれ?二十二だっけ?まぁいいや。あの時も、あの心が裂けそうだった時も、ピアスの穴を開けていた。今は、タトゥーを考えているけど、それはなんだか似ている気がする。奏くんの腕に入っていた陰陽とイルカ。なんで私は、はっきりくっきりと思い出せないんだろう。その陰陽を、自分に入れるというのはどうだろう?

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