この世のすべてがそこにあった
先日、下北の本多劇場にて
岩松了さん作・演出の舞台
『峠の我が家』を観てきた。
素晴らしい舞台だった。
ストーリーを追っかけると
難解な沼にはまってしまうという
岩松ワールド全開だが、
この作品を観た誰もが、
この作品の中に自分自身が
存在することに気づくのではなかろうか、、、。
そう。
この作品の中には
世界中の人々すべてが住んでいる。
そしてそこには
この世の善悪のすべてがあり、
その人類が繰り返す愚行の上を
踏み歩く人間たちという
存在と対峙させられる。
同時にそれを掬い上げて
我々の愚行を止めようとする
自分たちがいることにも気づかせてくれる。
その世界を回している
役者たちは皆本当に素晴らしかった。
仲野太賀は、
全身全霊で真っ直ぐと
怯えながらも闇と対峙する。
二階堂ふみは、しなやかに、
不安定に揺れ動く内面を表現する。
まるでそれは、
陰と陽の紋様の如く結びついている。
豊原功補が重厚感ある演技で
フラットな目線を作り出す。
柄本時生が成就しない感情を抑え込んだ
狂気を淡々と演じ切る。
岩松さんが、池津さんが、新名くんが
物語の輪郭を鮮明にしたりぼかしたり
一眼レフのピントを合わせるがごとく、
スリリングに装飾する。
美術が、衣装が、照明が
すべて素晴らしかった。
岩松作品に触れると毎回、
心の奥底を鷲掴みにされるような台詞に昂り、
その後には不安定な無重力の空間に
投げ出されたような不安の闇へと落とされる。
その対極の感情の渦の中で、
自分は愚かさの塊であり、それでも
太刀魚のような頼りなげに揺らめく指針を
しっかりと握りしめていることに気づく。
そんな絶望と希望が混在している世界に
いつも圧倒される。
そして毎回、観劇後に
飲みながら岩松さんと交わす会話が楽しい。
今回は、岩松組の常連のひとり
同じ歳で長年の友人でもある
豊原功補も出演していたので、
岩松さん、豊原さんと一緒に観劇した友人も含め、
この作品についてや役者、演出、演劇について
実に腑に落ちることの連続で、
共感し合える仲間たちとの至福の時間でした。
東京公演は今月17日まで。
その後、新潟、宮城、富山、
愛知、広島、岡山、大阪と
地方公演は続くようです。
(下記H.P.にてスケジュールご覧頂けます)
もう一度どこか地方に行って
この世界に酔いしれて、
その後のお酒に酔いしれたい!
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