【入門】判例の見方

法学の勉強あるいは法律系の資格試験にも必ずといっていいほど必要となるのが判例の知識とされています。

しかし、そもそも「判例」とは何か。
また何故重要なのかという観点も必要となります。
以下解説していきます。
そして、判決の結論の見方も解説していきます。
(『判例百選』を読むうえでも必要なことです)

では、まず「判例」について
判例は端的にいえば、裁判例のことです。
ただ、判例にも二つの意味があり、一つは上述の単に裁判例を指すことであり、
もう一つは、その判決以後に裁判所を拘束する法律判断を示した重要な裁判例を指します。
難しく言えば、後者のことをさして「レイシオ・デシデンタイ」と呼ばれることもあります。

次になぜ「判例」は重要とされるのか
それは、上述したとおり裁判所を拘束するためです。
裁判所は、主張と証拠に基づき、法律を適用して判断を下すことになります。
その際に法律をどのように解釈するのかは、裁判官によることとなります。
ただ、自由に、何らの制約もなく認めてしまうと次のような問題が起こります。


A裁判所では、過去にりんごは「果物」にあたると判断したことから、B裁判所でも同様にりんごは「果物」にあたると解釈されると予想した者がB裁判所に裁判を提起した。
しかし、B裁判所では、りんごは「果物」にあたらず、野菜であると判断した。

上記の例の問題点は、裁判所によって、法律の解釈が異なってしまい、結論が安定しないこととなります。
そのため、りんごは「果物」にあたると判断されると信じ訴えを起こした人に不利益を与え、また予測のできない判断がされることとなってしまいます。
裁判所はこのような問題が生じることを防ぐために、特に重要な判例の法律判断に拘束力を認め、それに沿う判決をします。
そのため、判例は重要となります。

訴訟の代理人となる弁護士や検察官もこのことを理解していることから、判例と真っ向から対立するような主張を避けて訴訟を行います。
(ただし、裁判所は判例に反することは必ず許されないということはなく、時代の変化、法改正及びその他問題点の浮上等により、事後的に判例そのものの妥当性が問題となる場面では、裁判所は判例を変更することがあります。
そのため、弁護士の中には判例を変更させることを狙った弁論をする方もいらっしゃいます。)

最後に判例の結論の見方について解説していきます。

私が、法学部に在籍した時で、初めて判例に触れたときにまず疑問に思ったことは次のことでした。

「この事件どうなったのか」
「勝訴したのか、敗訴したのか、わからない」

判例に触れる前までは、判決に「原告の勝訴」と明示して書いていると思っていました。
『判例百選』でも、同様にそう思っていました。

しかし、実際に『判例百選』には、次のような言葉が結論として並んでいました。
『請求認容』
『上告棄却』
『訴え却下』
『破棄自判』
『破棄差戻し』

『勝訴』や『敗訴』の言葉がなく、困惑したことを覚えています。

では、これらがどうなっているのか、順を追って見ていきましょう。

まずは、結論の言葉から確認していきましょう。

『認容』は、訴えた請求が認められたことをいいます。
例として
XがYに対し、本を売りました。Xは本を引き渡したにも関わらず、Yは未だ代金1000円を支払おうとしません。
そこで、XがYに対して売買契約に基づく代金1000円の支払いの請求をしました。
裁判では、Xが裁判所に対して「YはXに1000円を支払え」と命じる判決を求めることとなります。
この請求が認められた場合を「認容」といいます。

反対にこの例で、そもそも売買契約が成立していないと裁判所に判断された場合には、『請求棄却』の判決がされます。
棄却は訴えを認めないことをいいます。

次は少々難しくなりますが、「訴えの却下」についてです。
民事訴訟法の勉強で必ず出てきますが、「棄却」と同様に裁判所が、YがXに対して1000円を支払うことを命じない点で同様ですが、異なる点があります。

それは、「棄却」は、裁判で審理した結果請求の根拠となる請求権がないことが明らかとなったため、訴えを認めないとの結論になったことをいうことに対し、

他方、「却下」は、そもそも訴えそのものを提起することができないとの結論を出したこととなります。
門前払い判決ともいわれることがあります。
この構造はややこしいのですが、訴訟要件と呼ばれる判決を受けるための条件がそもそもないため、審理せず、その結果訴えを認めないこととなります。

このように基本的には結論としては、
『認容』
『棄却』
『却下』
があります。

では、『上告棄却』『破棄自判』『破棄差戻し』は一体何なのでしょうか

この前に裁判所の仕組みの理解が必要となります。
中学生の「公民」の授業で「三審制」という言葉を聞いたと思います

「三審制」は、中学生の公民のレベルでは、三回裁判を受けることができると理解していたと思います。

第一回目裁判を第一審、第二回目を第二審、第三回目を第三審(あまりいいませんが・・・)や上告審と言ったりしますね。

ここで「上告」という言葉が出てきました。

「上告」とは、第二審から第三審の裁判を求めることをいいます。
似た言葉に「控訴」という言葉があります。
これは、第一審から第二審の裁判を求めることをいいます。
また、「上訴」という言葉もあります。
上訴は、上告と控訴を含む広い概念の言葉で、上の階級の裁判所に裁判を求めること全般を指す言葉です。

そのため、『上告棄却』は、上告したが認められなかったことをいいます。
『破棄』は原判決(現在の判決)の効力をなくすことであり、
『破棄差戻し』は、現在の判決の効力をなくした上で、第一審や第二審に裁判をやり直させることをいいます。

先ほどのXとYの本の売買をめぐる紛争を例にして具体的に見ていきましょう。

さきほどのXの請求が認められなかったとしましょう。
不服に思ったXは第二審裁判所へ控訴しました。
控訴審(第二審)でもXの主張が認められなかった場合には、『控訴棄却』の判決がでることになり、控訴での主張が認められなかった結果、第一審の結論がこの紛争の結論となります。
他方、控訴審でXの主張が認められた場合には、裁判所は「原判決を破棄し、請求を認容する』(「※破棄自判」といったりします)ことになります。

また、控訴審で控訴棄却がされたことを不服におもったXがさらに第三審へ上告したとしましょう。
この上告でもXの主張が認められない場合には、『上告棄却』の判決がでます。また同様にこの場合には、第一審の結論と同じくXのYへの主張は認められないことになります。
他方、第三審(上告審)でXの主張が認められた場合には『原判決を破棄し、請求を認容する』(「※破棄自判」といったりします)ことになります。

※『破棄自判』は、原判決を破棄して、その裁判所が判決すること(「自判」といいます)をいいます。

最後に『破棄差戻し』が出てくる場面はどのような場合なのでしょうか。

それは、事実の審理が下の裁判で不十分であったり、第一審で訴えが却下され、控訴した場合に訴えが却下されるようなものでないと判断された場合に始めから裁判をやり直させる場合に出てきます。

最高裁判所は、高等裁判所や地方裁判所と違い、『法律審』を扱うとされており、事実の存否についてはほぼ争うことはありません。高等裁判所までで確定された事実に基づき法律の適用や判例の適用が正しいかどうかを判断します。(高等裁判所や地方裁判所は『事実審』を扱います)
そのため、事実の審理が不十分なことが判明した場合には、最高裁判所は下の裁判所に差し戻して一から裁判をやり直させることとなります。

このように裁判が上の裁判所に移るなどすると判決の結論は複雑になっていきます。

判例についての理解は少々複雑ですが、慣れることも大切かと思います。
そのためには、多くの判例に触れ、どのような経過をたどってきているのかをみていくことが大切になってきます。

では、今回はここまでとしましょう。

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