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#209 「日産センチュリー証券事件」東京地裁

2008年6月4日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第209号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【日産センチュリー証券(以下、N社)事件・東京地裁判決】(2007年3月9日)

▽ <主な争点>
営業日誌持ち帰り行為と個人情報保護法、懲戒解雇の効力(機密等の漏えい)

1.事件の概要は?

本件は、証券会社の営業社員であるXがN社に対し、同社の前身である旧C証券が顧客にかかる情報の漏えい等を理由として行った懲戒解雇は無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、およびこれを前提とした未払い賃金の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<N社、旧C証券およびX等について>

★ N社は、証券業務全般を行う証券会社であった旧C証券から平成18年6月に個人営業業務、法人営業業務等を承継した会社である。なお、18年12月、本件における被告の地位を旧C証券から承継している。

★ X(昭和37年生)は、昭和60年4月、旧C証券に入社し、以後専ら本店で営業社員として稼働してきた。

★ 旧C証券には同社に雇用された労働者で組織されている労働組合(以下「組合」という)があり、同組合は証券会社の労働組合の協議会である全国証券労働組合協議会に加盟している。

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<本件解雇に至った経緯等について>

▼ 16年8月、旧C証券はXに対し、それまでの本店営業部第一課から同第三課への配置転換をした。同年11月、旧C証券はXに対し、新潟県内に新設する新潟県央支店への配置転換(以下「本件配転」という)を内示し、同年12月に発令した。

▼ 同月、組合は旧C証券に対し、本件配転について団体交渉の申し入れをしたが、同社は「人事異動は会社と本人との問題であり、会社の専管事項である」ことを理由として団体交渉を拒否した。

▼ 17年1月、組合およびXは本件配転の撤回を求めて、東京都労働委員会(以下「都労委」という)に不当労働行為救済の申し立てをした。

▼ 上記事件の同年11月の審問期日において、Xは顧客情報が記載された営業日誌を書証として提出しようとして、その写し(以下「本件写し」という)を都労委および旧C証券の代理人に交付したが、同社の代理人の指摘により直ちに提出を撤回し、いったん交付した本件写しを回収した。

▼ 同年12月、旧C証券はXに対し、Xの上記行為およびこれに先立ち、上司の許可なく同社所有のコピー機で営業日誌の写しを取り、これを自宅に持ち帰り、新潟県央支店への異動後も引き続き保管を続けたことが就業規則第87条1号、3号等に違反するとして、諭旨退職処分とする旨を通知した。

▼ Xが退職願の提出期限までに退職願を提出しなかったため、旧C証券はXに対し、懲戒解雇する旨を通知した(以下「本件解雇」という)。

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<旧C証券の営業日誌、就業規則等について>

★ 営業日誌には、旧C証券の会社名およびマークが印刷されており、「顧客名」につき、「電話訪問来店」の別、「新規既存」の別、「法人の面談者」、「訪問場所」、「時間」、「内容」等を記載する欄があり、その他に日付、「扱い者」、「連絡事項」、「出来高」、「退社時間」等を記載する欄および役席者の決済印を押捺する欄があった。

★ 上記各欄については各担当者が各営業日ごとに作成するものであった。顧客名欄には通常フルネームで姓名を記載するのが常であったが、訪問場所としては「○○市」のように概括的な記載をするのが常であった。また、営業日誌が綴り込まれた冊子には、特に「」等の押印はされていなかった。

★ 旧C証券の就業規則には、以下のような規定があった。

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