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#75 「メリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ事件」東京地裁

2005年2月16日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第75号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【メリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ(以下、M社)事件・東京地裁判決】(2003年9月17日)

▽ <主な争点>
守秘義務違反による懲戒解雇

1.事件の概要は?

本件は、担当弁護士にM社の人事情報や顧客情報などを手渡したことが就業規則上の守秘義務違反に当たるとして、Xが同社から懲戒解雇された。これに対し、Xが当該解雇は無効であるとして、M社との間に労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と未払賃金の支払いを請求したもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<M社およびXについて>

★ M社は平成10年7月、旧ML社が旧MR社を吸収合併して発足した会社で、機関投資家に対する資産運用および投資信託の設定・運用等を主たる業務としている。

★ Xは5年10月に旧ML社の従業員として採用された者であり、その際「会社の諸規則および諸命令を堅く遵守する。会社の営業上秘密に属する事項は一切他に漏洩しない」等の記載のある誓約書を提出し、機密情報の利用等に関する基本的な行動規約について記載した「職務遂行に関するガイドライン」を遵守することを約した。

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<本件懲戒解雇に至った経緯等について>

▼ 10年7月、M社に投資顧問部が創設され、旧ML社系の社員であったXとYは、旧MR社出身のZ部長の下で業務を遂行することになった。

▼ Yは11年5月にM社を退職したが、12年3月、A弁護士に対し、在職中に上司であったZ部長から嫌がらせ・差別を受けたので慰謝料を請求したい旨を相談し、同弁護士はこれを受任した。

▼ 同年9月、A弁護士はXと面談し、YがZ部長から受けた嫌がらせについて質問するとともに、X自身は差別や排除を受けたと認識しているか尋ねたところ、XはA弁護士に対し、新規見込み客の配分が不平等であることなどを説明した。同弁護士はXに対し、Z部長のXに対する差別は人権侵害であり、同部長およびM社に不法行為責任を追及できる旨を話した。

▼ Xは後日A弁護士に対し、M社の社内救済手続を利用したいとの意向を伝えるとともに、Xの主張をまとめた書面およびその裏付けとなる資料(以下「本件各書類」という)を同弁護士に交付したが、本件各書類の交付の可否についてはM社に確認をしなかった。

★ 本件各書類には、M社の見込み顧客リスト、既存の顧客その他の関係者からの通信文、特定の顧客につき言及された社内メールやメモ、従業員の営業日報、見込み顧客に対するアプローチ方法を記した書類、社内における人事情報に関するやり取りの記載された書類等が含まれていた。

▼ XはM社の救済申立て窓口に書面で「Z部長によるXおよびYに対する攻撃があったので、資料等をまとめてA弁護士に交付し、Xの許可なしに第三者には公表しないようにしておいた」旨を周知し、これに添えて本件各書類を提出した。

▼ M社はXに対し、申立ての件については調査を開始するが、A弁護士への機密情報の提供は、守秘義務に違反するので、全資料を直ちに回収するよう指示するとともに、この行為はM社の就業規則に対する重大な違反行為であると伝え、別途指示があるまで出勤停止とする旨を告げた。

▼ 同年10月、M社はXに対し、(a)XがM社の機密書類を同社の承認なしに第三者に対して開示したこと、(b)XがM社による上記機密書類の返還指示に従わなかったこと、(c)これらの行為がいずれも就業規則に違反するにもかかわらず、Xに反省がみられなかったことを理由として、解雇するとの意思表示をした(以下「本件懲戒解雇」という)。

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<M社の就業規則の定めについて>

★ M社の就業規則には、以下のような定めがある。

第8条 社員はその職場を通じ、または職務外において知るに至った、または知り得る会社、親会社・子会社・関係会社、顧客、もしくは元顧客に関する報告・統計・その他の資料・記録・冊子・書簡・文書・見込み客表・顧客表・その他機密情報等、その情報を外に漏らしてはならない。

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