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#220 「アデコ事件」大阪地裁

2008年11月12日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第220号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【アデコ(以下、A社)事件・大阪地裁判決】(2007年6月29日)

▽ <主な争点>
派遣元会社による派遣社員の経歴虚偽記載と不法行為等

1.事件の概要は?

本件は、労働者派遣事業を営むA社に雇用されていたXは、同社が派遣先にXの経歴を偽って告げた結果、派遣先で高い業務遂行能力を要求され、精神的苦痛を被り、さらに、A社により不合理な解雇ないし雇い止めをされたことにより精神的苦痛等を被ったとして、同社に対し、不法行為に基づく損害(慰謝料、治療費、弁護士費用)の損害およびその遅延損害金の支払いを求めるとともに、A社がXに対してした解雇ないし雇い止めは効力を有しない旨主張して、同社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることおよび賃金等の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<A社およびX等について>

★ A社は、一般労働者派遣事業、有料職業紹介事業等を業とする会社である。

★ X(昭和41年生)は、平成14年11月、A社から採用する旨の連絡を受け、同年12月、同社において就労(研修)を開始した。なお、XとA社との間で最初に作成された雇用契約書上の契約期間は、15年1月1日から同年12月31日までの1年間であった。

▼ XはA社に採用された後、同社等において、スーパーバイザー(以下「SV」という)職の研修を受けた。

★ SVとは、テレマーケティングスタッフ(電話など通信手段を通じて顧客と直接やり取りする者)のマネジメントを実施する者をいい、具体的には、スタッフの応答品質の維持・管理、ヘルプ・クレーム対応、スタッフの育成・監督、業績管理などを行う者である。また、SVには高いマネジメント能力の他に、マーケティングセンス等も求められる。

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<本件虚偽記載およびM社における就労等について>

▼ A社アウトソーシングサポート部運営課マネージャーのCは、Xに対し、14年12月、クレジットカード会社であるM社に提出するXの経歴表を見せたが、同経歴表には、「14年4月から11月 教材関連 アウトバウンド*(教材継続勧奨・新規購読勧奨)」(以下「本件虚偽記載」という)と記載されていた。なお、Xには本件虚偽記載に係る経歴はない。

* 「アウトバウンド」とは、当該会社業務に関する電話調査、商品購入の依頼・勧誘など、スタッフが顧客に電話で働きかける業務である。なお、インバウンドとは、注文受付や資料請求受付、相談窓口など顧客からの働きかけに対応する業務である。

▼ XはCに対し、本件虚偽記載について、事実と異なる記載のあることを指摘したが、Cから話を合わせるように言われ、SV業務に従事したいとの考えから、それ以上に不安や異議を述べたり、他の仕事を希望したりすることをしなかった。

▼ Xは研修終了後の15年2月から、M社のコールセンターで就労を開始し、SV業務に従事したが、円滑にこなすことができず、A社の担当者にたびたび業務遂行が困難なことを申し出て、担当者から「臨機応変にやってください」、「がんばってください」などと励まされていた。

▼ 同年5月、M社がA社に対し、SVを1名に減員したい旨申し入れたのを受け、A社アウトソーシングサポート部SV人材センターの担当課長Dおよび同社の営業担当従業員EはXに対し、M社における就労の中止を申し入れ、同年6月末日、XはM社での就労を終えた。

▼ XはM社での就労を終える前、A社と面談し、同社からM社にXの経歴を偽ったことを説明してほしいこと、しないのであれば自分から説明する旨伝えた。そこで、A社はM社に本件虚偽記載について、経歴を偽ったことを伝え、謝罪した。

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<Xの雇い止めに至った経緯等について>

▼ Xは体調不良のため、約1ヵ月間自宅療養した後、同年8月、A社ニューキャリア事業部に配属され、同社西日本本社で再就職支援業務に就いた。その後、XとA社との契約(以下「本件契約」という)は3ヵ月ごとに5回更新された。なお、主たる業務は16年1月以降、神戸事務所における一般事務およびこれに付随する業務となった。

▼ Xは17年1月、A社人事部と面談した。その際、同社は、Xが配置されていた神戸事務所が閉鎖されるのに伴い、Xとの雇用契約を更新せず、同年3月末日で期間満了により終了する旨を通知した。

▼ その後、Xが申立てをした労働基準監督署からA社に対し、Xの雇用の継続について話し合いの機会を持つよう指導があったのを受けて、同年3月上旬、A社は、Xと面談し、同年4月以降の雇用継続について話し合った。その結果、XとA社は3月下旬、Xの雇用について4月以降に更新する旨の雇用契約を締結した。

★ なお、上記契約に関する契約書においては、契約期間を「同年4月1日より6月30日までとする」ことのほか、更新につき「本契約については更新する場合があり得るものとする。なお、本契約の更新についてはXの考課成績、勤務態度、業務遂行能力、従事している業務の遂行状況により判断するものとする。ただし、同年9月30日を最終とする」旨記載されている。

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