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#396 「X大学事件」東京地裁

2015年10月14日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第396号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【X大学事件・東京地裁判決】(2014年12月24日)

▽ <主な争点>
大学に多額の損害を与えたこと等を理由とする教授の解雇など

1.事件の概要は?

YはX大学の教授であったところ、茨城県A市が行った風力発電機設置事業に関与したが、当該事業において莫大な損害が発生し、同大学がその一部を負担することとなった。X大学はYが教授としての適格性を欠くとして、Xを解雇した(本件解雇)。

本件本訴は、Yが本件解雇を無効であると主張して、地位確認と解雇後の賃金の支払いを求めるとともに本件解雇や解雇に至るまでの長期間の自宅待機が違法であると主張して、慰謝料の支払いを求めたもの。

本件反訴は、X大学がA市に対して支払った賠償額の8割についてYに責任があると主張して、Yに対し、損害賠償の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<大学教授Yについて>

★ Yは、昭和62年4月、任期の定めなく、X大学理工研究所教授に就任した者である。その後、大学内の組織変更を経て、本件解雇当時はX大学理工学術院教授の地位にあった。なお、Yは機械工学を専門としており、DS(ダリウス・サボニウス)併結型風力発電機の共同開発者の1人である。

★ 甲社はX大学から技術移転および支援を得て設立された会社で、風力発電設備に関する設計、製造および販売等を業としている。また、乙社は甲社製のDS併結型風力発電機の販売代理店である。

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<本件事業の経過等について>

▼ 環境省は平成16年度の重点施策として「地球温暖化を防ぐまちづくり事業」および「環境と経済の好循環のまちモデル事業」を実施することとした。

▼ A市は16年4月、「A市 草のNeco2チップ事業」(以下「本件事業」という)をもって、上記まちモデル事業に応募した。同市が環境省に対して同年5月に提出した実施計画書には「本件事業は風力発電機を設置し、運用することで得られる売電金等を財源として経済的価値を有するチップを発行し、CO2の排出削減行動を実施する市民および事業者等に交付するとともに市内の商店等で商品等の購入に補助的に用いることができるようにすることで、CO2の排出削減行動の促進と地域経済の活性化を図ることを目的とする。小中学校に設置される風力発電機は自然エネルギーの身近なシンボルになるとともに環境教育にも活用される」と記載されていた。

▼ 環境省は同年6月、A市をまちモデル事業の対象地域に決定した。A市の新エネルギー推進室長であったBは同年8月、Yに風力発電について相談した上、環境省に対し、乙社が算出結果をまとめた結果表(以下「本件結果表」という)を利用して、予想総発電量が59万4765kWhとなる旨を説明した。本件結果表において前提とされていた風力発電機はダリウスローターの直径が12m以上のものであった。

▼ Bは同年9月、Yに対し、本件事業のための風力発電機として10kWのDS併結型風力発電機を有力機種と位置づけており、A市とX大学との間で発電機の設計・導入計画策定等についての業務委託契約を締結したいと申し入れた。

▼ 同年11月、X大学とA市との間で本件事業に関する業務委託契約が締結された(以下「本件契約」という)。本件契約における委託料は1750万円であった。なお、Yはそれに先立って本件契約に基づく業務の実施を乙社に委託していた。

▼ A市は本件事業に使用する風力発電機として甲社製の定格出力10kWのDS併結型風力発電であるHW-10Bを導入することとし、17年6月までに小中学校に23基設置し(以下「本件風力発電機」という)、設置工事代金として2億9860万9500円を支出した。なお、HW-10Bはダリウスローターの直径が5.3mであった。

▼ 本件風力発電機は17年11月までにはほとんど発電しない状態か、発電しても消費電力が発電量を上回る状態となっていた。この状況に対し、Yは同年10月、「A市の小型風力発電機設置事業について基本計画を大学で作成するとともに採択された機種の開発責任者として、現状の課題に対し、技術移転先メーカーと一体となって、信義に従い、誠実に対処し、責任をもって16年度事業の保証をいたします」との内容の書面(以下「本件保証書」という)をA市に提出した。

▼ A市は18年4月、X大学に対し、上記工事代金相当額の損害賠償を求める訴えを提起し、20年9月、東京地裁はX大学の責任を認め、同大学の過失割合を7割とする判決をした。上記地裁判決に対して、双方が控訴したところ、東京高裁は22年1月、X大学の過失割合を3割とする判決をした。

▼ 上記高裁判決に対して、双方が上告および上告受理申立てをしたが、最高裁は23年6月、上告棄却決定および上告不受理決定をした(以下、確定した高裁判決を「本件確定判決」という)。X大学は同年7月、本件確定判決に従い、A市に対して損害賠償金8958万2850円および遅延損害金2343万8797円の合計1億1302万1647円(以下「本件損害賠償金」という)を支払った。

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<本件解雇に至った経緯等について>

▼ X大学理工学術院教授会は23年11月、表彰懲戒規程に基づき、Yを査問対象者とする査問委員会の設置を決定した(以下「第1次査問委員会」という)。また、理工学術院長は同年12月、査問期間中、Yを自宅待機とする旨を通知した。

▼ 第1次査問委員会は24年3月、Yについて、X大学の名誉・信用を大きく傷つける結果となったことは重大な懲戒に値するが、退職の意思を表明しているとして、停職6ヵ月が相当との答申をとりまとめ、教授会は査問委員会の答申どおりの決議をした。

▼ なお、X大学の代理人弁護士とYの代理人弁護士との間では、Yが退職するならば懲戒処分を執行せず、退職金として500万円を支払い、Yに対する損害賠償請求権は放棄する方針で調整が行われていた。

▼ X大学理事会は同年6月、Yが退職の意思を翻したことから、上記教授会決議を承認しない旨決議し、表彰懲戒規程に基づき、Yの懲戒手続についての再審議を理工学術院に要請することを決議した。そして、教授会は再審議のための査問委員会(以下「第2次査問委員会」という)の設置を決定した。

▼ 第2次査問委員会は同年9月、Yについて、X大学に対する教育・研究上の貢献を考慮して、懲戒処分を科するのではなく、教員任免規則に基づく解任(普通解雇)が相当との答申をとりまとめた。

▼ 同月の教授会において、Yの解任の可否について投票が行われ、投票の結果、投票数196票のうち賛成127票、反対29票、白紙40票となり、議決要件である出席者の3分の2(131票)の賛成を得られなかったところ、その場で理工学術院長から改めて査問委員会(以下「第3次査問委員会」という)を設置することの提案があり、承認された。

▼ 第3次査問委員会は25年2月、Yについて、解任が相当との答申をとりまとめた。その後、教授会において、Yの解任の可否について投票が行われ、投票の結果、投票数196票のうち賛成173票、反対21票、白紙2票となり、議決要件である出席者の3分の2以上の賛成が得られた。理事会は同年3月、Yを解任することを決議し、通知した(以下「本件解雇」という)。

3.教授Yの主な言い分は?

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