見出し画像

#619 「キヤノン事件」東京地裁

2024年8月21日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第619号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【キヤノン(以下、C社)事件・東京地裁判決】(2023年6月28日)

▽ <主な争点>
半年以上の期間、所定労働日の半分以上を欠勤した定年後再雇用社員への雇止め等


1.事件の概要は?

本件は、C社を定年退職し、契約期間1年の定年後の再雇用契約を締結していたXが、契約期間満了に伴い退職したことについて、同社から上記有期労働契約の更新の申込みの拒絶(雇止め)をされたことから、契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があり、当該雇止めは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとはいえず、労働契約法(労契法)19条により、同一の労働条件で有期労働契約が更新されたものとみなされるなどと主張して、C社に対し、(1)労働契約上の権利を有することの確認、(2)2020年6月1日から本判決が確定するまで、毎月25日かぎり19万6000円の支払、(3)定年前の基本給と定年後再雇用契約における基本給の格差が改正前労契法20条に違反すると主張し、不法行為に基づく損害賠償として、664万5000円および遅延損害金の支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<C社およびXについて>

★ C社は、プリンティング、イメージング、メディカル、インダストリアルその他の分野に関する精密機器等の開発、製造、販売等を目的とする会社である。

★ Xは、1987年4月、C社に正規社員として入社し、2019年5月31日に定年退職した者である。その後、Xは同日付で同社と契約期間を同年6月1日から2020年5月31日とする再雇用契約(以下「本件再雇用契約」という)を締結した(なお、初回の再雇用契約にかぎり、雇用開始日から1ヵ月間は就労を免除されるが賃金は控除されない「待機期間」とされていた)。


<本件雇止めに至った経緯等について>

▼ Xは待機期間後の2019年7月1日から、本件再雇用契約に基づく就労を開始したが、同月下旬以降、欠勤、遅刻、早退を繰り返すようになり、同年7月1日から2020年2月21日までの所定労働日154日のうち、腰痛などを理由に81日を欠勤し、14日を早退または遅刻した。

▼ C社は2019年11月および12月に、Xに対して腰痛などの症状の具体的内容について、医師の診断書を提出するように求めたが、Xは診断書を提出しなかった。

★ Xは定年前から複数回にわたって、産業医に関する主張(謝罪や過去の対応のやり直しを求めることなど)の蒸し返しをしないようC社から注意、指導を受け、最終的には他の事由と合わせて停職3日間の懲戒処分を受けていた。

★ しかし、Xは産業医に対して謝罪や過去の対応のやり直しを求める主張の蒸し返しを行い、C社から再び注意を受けたにもかかわらず、さらに同様の主張を直接産業医宛てのメールでするなどの行為を行っていた。

▼ C社は2020年2月、Xに対し、休職を命じた。以降もXからは安定就労が可能である旨の医師の診断書は提出されず、休職を継続していたことから、同年4月、同社はXに対し、定年後再雇用者就業規則の「勤務状況が著しく不良を認められたとき」、「心身の状況が業務にたえられないと認められたとき」等に該当するなどとして、本件再雇用契約について次期の再雇用条件の提示は行わず、雇止め(以下「本件雇止め」という)を通知した。

ここから先は

2,735字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?