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#67 「高槻市消防長事件」大阪地裁(再掲)

2004年12月15日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第67号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【高槻市(以下、T市)消防長事件・大阪地裁判決】(1999年2月3日)

▽ <主な争点>
事業の営業をした公務員の懲戒免職

1.事件の概要は?

本件は、T市消防職員であるXが営利事業を主体的に営業していることは地方公務員法に違反するとして、T市消防長から懲戒免職処分を受けたが、当該処分には事実誤認、法令解釈の誤り等の違法があるとして、その取り消しを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<Xについて>

▼ Xは、昭和47年4月、T市に消防職員として採用された地方公務員であり、平成6年4月からT市中消防署大冠分署に消防副士長として勤務していた者である。

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<本件営業(ダイヤルQ2事業)等について>

▼ Xは5年春頃から友人Yと金銭の効率的な運用を相談するうち、ダイヤルQ2*事業(以下「本件営業」という)を立ち上げることを思い立ち、Xの妻およびYの友人2名を入れて5名で企画や準備を進めた。

*「ダイヤルQ2」・・・NTTから専用の電話回線を受けた業者が、電話で利用者に情報を提供するサービス。NTTは情報提供料と電話料金を利用者から徴収し、情報提供料から回収代行手数料を差し引いた残りを業者に支払うというシステムになっている。

▼ Xらは事業の名称をメディアリンクス(以下、ML)、対外的な代表者をXの妻とし、主たる事務所(賃貸借契約はX名義でなされた)を大阪市に置き、必要な設備機器の設置やNTTへのダイヤルQ2申請等は代行業者に依頼して行わせ、遅くとも同年12月頃には本件営業を開業するに至った。なお、開業費用や運転資金等で約1500万円を要したが、そのうち約500万円はXが妻と共同で出資した。

★ MLでは、ダイヤルQ2回線を利用してかけてきた不特定の客(主として男性)からの電話とフリーダイヤル回線で電話してきた女性からの電話とを事務所に設置した自動交換機で接続し、客に異性との会話の機会を提供した。

★ 客の電話対応をした女性はMLの会員として登録され、電話対応した時間に応じた報酬を受け取っていた。会員の登録事務等を行う女性従業員2名はXとYとで相談して採用し、会員からの電話がない場合に応対に当たるアルバイト女性2名はXが面接して採用した。

★ Xは「MLゼネラルマネージャー」と肩書を付けた名刺を所持し、会員名簿を保管していたほか、非番の日を利用するなどして月2回程度は事務所に赴いていた。

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<Xが本件処分を受けた経緯等について>

▼ 6年10月、アルバイト女性2名がT市中消防署大冠分署を訪れ、対応に出た職員に対し、「Xがテレフォンクラブを経営しており、賃金がそれぞれ約110万円未払いとなっているので支払ってほしい、公務員がテレフォンクラブを経営してよいのか」などと述べたことから、Xの本件営業への関与が発覚することとなった。

▼ Xは上司である分署長らから事情聴取を受けた際に、投資金や従業員処遇の諸問題からただちに店舗を閉鎖することは困難であるなどと述べたが、その後、本件営業は7年4月頃に自然消滅した。

▼ XはT市消防長から6年12月2日付で、地方公務員法の規定により懲戒処分としての免職に処する旨の処分(以下「本件処分」という)を受けた。

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<地方公務員法の定めについて>

★ 本件に関連する地方公務員法の規定は以下のとおりである。

(懲戒)
第29条
 職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
1.この法律若しくは第57条に規定する特例を定めた法律又はこれに基づく条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
2.職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合
3.全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合

(信用失墜行為の禁止)
第33条
 職員は、その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。

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