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#257 「関西外国語大学事件」大阪地裁

2010年4月14日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第257号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【関西外国語大学(以下、K大学)事件・大阪地裁判決】(2009年2月13日)

▽ <主な争点>
大学准教授の教授昇格の期待権等

1.事件の概要は?

本件は、Xが不当な昇格差別を受け、遅くとも平成5年4月1日までには教授に昇格していたはずであるにもかかわらず、不当に長らく助教授(現准教授)に留め置かれたことにより、(1)被侵害利益である教授昇格請求権が侵害され、教授に昇格していれば本来支払われるべき賃金が支払われず、実際の支払額との差額相当の損害を被ったとして、民法709条(不法行為による損害賠償)に基づき、そのうち16年6月支給分から19年5月支給分までの給与および賞与等の差額相当の損害金505万2300円、(2)K大学の昇格差別により多大の精神的苦痛を余儀なくされたとして慰謝料50万円、(3)本件訴訟のための弁護士費用の負担を余儀なくされたとして弁護士費用相当損害金50万円の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<K大学およびXについて>

★ K大学は、教育基本法、学校教育法および私立学校法に基づき、学校を設置することを目的とする学校法人であり、大学、大学院、短期大学部を設置している。同大学は、大阪府内にキャンパスを備え、平成18年5月現在、在籍学生数1万3673名を擁し、教員総数は500名程度である。

★ Xは、昭和48年3月、理学博士の学位を取得し、K大学非常勤講師、大阪府立J工業高等学校教諭を経て、55年4月、K大学に助教授として採用され、現在に至るものである。なお、学校教育法92条の改正に伴い、平成19年4月、「助教授」の呼称が「准教授」に改められたことに伴い、Xは現在、准教授の地位にある。

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<K大学における教授の選考方法等について>

★ K大学にあっては、いわゆる講座制は採用されておらず、各講座の専任の教授がいて、当該専任教授が退任しないかぎり、助教授ないし准教授が教授になることができないという仕組みはない。

★ 助教授ないし准教授から教授への地位の変更の法的性質につき、争いがあるところ、前提事実における事実適示にかぎっては、特に区別せず「昇格」、「昇任」または「任用」の用語を用いることとする。

★ K大学の理事で構成される理事会は、毎年5月頃、定年退職者や退職予定者等を考慮して、次年度の教員人事の大綱を決定する。この大綱においては、具体的な人数までは定められず、教育内容の充実等を考え、どの方面の教員の充実を図りたいかといった抽象的な内容が定められ、その具体化は、学長に委託される。

★ 学長は理事会から委託を受けた教員人事の大綱の具体化について、教員人事委員会に諮問する。助教授ないし准教授から教授への昇任および講師から助教授ないし准教授への昇任についての人数枠はないが、毎年、合計で5、6名が昇任している。なお、教育人事委員会は、学長が委員長となり、学長の推薦に基づき理事長が委嘱した委員により構成される。

★ 教育人事委員会は、候補者の中から、教員選考規程所定の基準を満たす者全員をリストアップする。K大学の助教授ないし准教授の地位にある者については、教授になるに当たり、6年以上在職している者が要件とされているところ、実際には6年以上助教授の地位にある者全員が自動的にリストアップされていた。

★ 教員人事委員会はリストアップされた者を個別具体的に審査して、教授に相応しい適任者を検討する。その際は、リストアップされた者全員を網羅的に検討するのではなく、委員が適宜にピックアップして検討する。

★ 学長は教育人事委員会が適任者とした者について、各教授会に対し、審査請求する。教員資格審査委員会において、教員人事委員会が適任者とした者の任用または昇任の是非が審査され、その結果が学長に報告される。

★ 学長は教員資格審査委員会の審査結果を各教授会に報告し、各教授会は教授の候補者の任用または昇任について、承認するかどうかを検討する。なお、資格審査委員会や、その審査結果を受けた教授会の承認に法的拘束力はない。

★ 各教授会の審査結果は、学長を介して、理事会に報告される。理事会では、この報告に基づき、任用または昇任する者を最終決定する。

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<Xの作成した論文等について>

★ 素粒子物理学または理論物理学に関する論文は15編あり、このうち単著は3編で、その余12編は共著である。15編のうち、理論物理学の専門誌に発表されたものは11編、日本調理科学会誌に掲載されたものが1編、その余3編はK大学の学内の研究論集に掲載されたものである。大学生の数学の学力等に関する論文は2編あり、いずれもK大学の学内誌に掲載された。

★ XがK大学の助教授として採用された昭和55年4月以降に発表された論文は13編であり、このうち11編は物理学に関する論文であり、そのうち6編が理論物理学の専門誌に、うち3編が同大学の学内誌に、うち1編が単行本に、その余の1編が日本調理科学学会に発表された。上記13編のうち2編は大学生の数学の学力等に関する論文であり、いずれもK大学の学内誌に発表された。

★ K大学の職員就業規則には、昇格に関する規程がなく、懲戒処分についても、降格の規程がない。

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